第71話 再始動1
「海への道に行きたいと?」
「はい。今の俺ならば、道の整備だけでなく、今日中に必要な設備を完成させられると思います。その後は、筏を作って漁をしてもいいと思うし、得られる物があると思います」
エレナさんが考え出した。
「……分かりました。いいでしょう。ただし、私も付いて行きます。ヴォイド様に許可を貰って来るので少し待っていてくださいね」
エレナさんも来るんだ。俺って信用ないな……。
ここで、シュナイダーさんが来た。
「彼女が、エレナ嬢かな?」
「そうですけど……」
「ふむ……。エルフやオークを撃退する君の主人なんだね。伴侶なのかい?」
回答に困ってしまうな。
以前に、ヴォイド様の報酬の話を断った経緯がある。それと、安易に回答しない方がいいというのを最近覚えた。
「今は……、違うとだけ言っておきます」
「……ふむ。人族の不思議に触れた気がする」
エルフ族は、結構短絡的な思考なのかな……。俺の方が、常識を疑ってしまう。
いや、まごついている俺の行動の方が、意味不明か……。明確に言わないとな……。
ここで、エレナさんが戻って来た。
「許可を貰いました、行きましょう」
「何処へ行くのかな?」
意外にも、シュナイダーさんからの質問だった。
「海への道が、未整備なんです。それと、港作りと狼煙台も作りたいですね」
シュナイダーさんが考え出す。
「私も付いて行っていいだろうか? 役に立つと思う」
エレナさんを見る。
困惑した表情だ……。
少しの沈黙……。
「いいでしょう。3人で行きましょうか」
◇
エルフ族の馬に馬車を繋いで、出発だ。御者は、シュナイダーさん。
そしてシュナイダーさんは、『飛翔魔法』の使い手でもあった。
地面スレスレを、馬車が浮いた状態で進んで行く。
「これは、凄い魔法ですね……。道の悪さや、ぬかるみを無視して馬車で進めるなんて」
エレナさんが、シュナイダーさんの魔法に称賛を送って来る。
「エレナさんの『布魔法』にも応用が効くんじゃないですか? 鳥に引かせるとか?」
「……なるほど。推進力を持つ動物の使役を行えれば、再現できる……。そうなると、テイムのスキルの獲得が必要ですね。考えてみます」
エレナさんの表情が少し緩んだ。
良かった。エレナさんの機嫌は、少し良くなった様だ。
それと、スキルの取得方法があるみたいだ。これは、新しい情報だな。
会話していると、海の近くの隘路に着いた。
「ここで、止めてください」
「うむ」
シュナイダーさんが、馬車を止めてくれた。
一応説明しておくか。
「この、洞窟もどきが、エルフ族との交渉に役立ちました。また、魔晶石の採掘に関係があります」
シュナイダーさんが、俺の作った仮のキャンプ場を調べ出した。
「……魔法でこんなことができるのか。トール殿は、希少な魔法の持ち主なのだな」
理解が早くて助かる。
さて、時間は有限だ。やることを終わらせてしまおう。
俺は、次々に生木を収納し始めた。
シュナイダーさんは、初めは驚いていたが、エレナさんと共に隘路を伝って海へ連れて行かれた。
「俺は、道を作ってしまおう。整地は、村民に任せてもいいだろうし」
冬場で暇だったので、検証しまくった俺の収納魔法は、もう容量もけた外れになっていた。
太陽が、真上に登る頃には、海まで道ができていた。
「整地は、これだけの距離となると面倒だな……。穴に土を被せる程度で、一度済まそう」
◇
「エレナさんと、シュナイダーさんは何処かな?」
砂浜に着いたので、二人を探すことにする。
ここで、奴隷紋がピリッと痛んだ。
感覚で分かる……。その方向を向いた。
「崖上に、エレナさんがいるのか。しかし、奴隷紋にはこんな使い方もあるんだな」
俺は、崖を登った。
崖を階段状に"収納"して行く。これは、後からも有効に使えると思う。
崖上に着いて、驚いてしまった。それを、確認したからだ。
「狼煙台を作ってくれていたのですか?」
「石を組み上げて、土で固めた簡易的なモノだがね。薪を並べれば、煙は立つだろう」
狼煙台ってこんな形だったんだ。実は知らなかった。
石と土で固められているので、すぐに崩れる心配もなさそうだ。
これは、助かったな。
さて、次にやること……。
「次は、筏を作っておきますか。港は、船が必要になってからで」
「紐は、あるのかな?」
考えてもいなかったな……。
「作り方が分かりません」
「ふむ。では、私が作ろう。一度、森に戻るがいいかな?」
主導権を握られているけど、任せよう。
「お願いします。俺は、木材を用意します。エレナさん、運搬を手伝ってください」
「分かりました」
分担作業だと、作業スピードが数倍になるんだな。
筏は、一時間で完成した。
マジで、速いです。有能な三人が揃うとこうなるのか。
試しに、三人で出航する。
俺とシュナイダーさんが、櫂を漕いで少し進む。
ここで、エレナさんが、布魔法で網の様な物を生成した。
「……面白い使い方ですね」
エレナさんが、微笑む。
そして……、大量の魚がかかっていた。
「今日の成果は、十分です。帰りましょう」
「待ってくれ。海藻を少しでも獲ってくれないだろうか?」
エレナさんが、布魔法を海底に向けて飛ばした。
エレナさんの魔法にかかると、数分で大量の昆布もどきが、海底から引き上げられる。
これには、シュナイダーさんも賞賛を送った。
そして、獲り過ぎたのか、筏が沈む寸前だ。かなり危ない。〈揺れ〉を"収納"してみようとしたのだけど、できなかった……。
〈運動量〉になってしまったし。これでは、意味がない。考えないとな……。
とりあえず、収穫物の〈重量〉を収納する。
筏が不安定なので、今日の漁は、ここまでとした。もっと、木材を増やした方がいいな。いや、早くも船が欲しくなって来た。
その後、陸に上がり、三人で昼食を摂る。
「少し早いですが、開拓村に帰りましょうか」
エレナさんの提案に、俺とシュナイダーさんが頷く。
「有能な三人が集まると、凄い成果となりますね」
俺の言葉に、二人共いい笑顔だ。
今日は、馬車一杯の収穫物を持って、開拓村への帰路に着いた。
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