第67話 帰って来た開拓村3

「……なんですかそれは? また、パンツを覗こうという姿勢ですか? それとも、踏めと?」


「俺の祖国の最終奥義……、ド・ゲ・ザと言います。これを出された相手は、無条件で全てを許さないといけなくなります」


「知りませんよ、そんな文化! 異世界召喚者に会ったことありますけど、聞いた事もありません!」


 だめか……。どうしようかなこれ……。

 ここで、ヴォイド様が来た。土下座はここまでとして、顔を上げた。パンツは見えませんでした。


「トール、良く戻って来てくれた。しかし見事な紅葉もみじだね。もう春だと言うのに……。

 それで……、どうなったのだ?」


 ヴォイド様が、俺の腫れた頬に賞賛を送って来る。しかも、皮肉を込めて……。

 いや、そうじゃないと思うんだけど……。


「ただいま戻りました。まず、エルフ族とですが、条約を結べました。

 もう、襲撃されることはないと思います」


 とりあえず、盟約書を出す。

 それを、セリカさんが受け取ってくれた。

 前後から、エレナさんとセリカさんに挟まれるような形となり、緊張感が増す。


『この二人って、武術の達人なんだよな……』


「……不審な行動は、取らないでくださいね?」


 怒気を含んだ、エレナさんの声が俺を襲う……。


「逃げませんよ? 俺の帰る場所は、この開拓村なんだし……」


「あら、そうなの? それは良かったわ。てっきりエルフに篭絡されて二度と帰って来ないものだと思っていたのだから」


 セリカさんの、俺を真っ二つにしそうなくらいの、殺意の篭った鋭い言葉が、俺の揚げ足を取る。

 まずい……。

 マジで殺されそうだ。


「……ふむ。この狼煙台と言うのは?」


 ヴォイド様からの質問だ。


「互いに連絡を取りたい場合は、海岸で狼煙を上げることになりました。

 直接、この開拓村やエルフの里まで来て欲しくはなかったので、そんな案が出たんだと思います」


「……トールは、今後もエルフ族と交渉するつもりなんだね。

 う~む。王家にどう報告するか。少し考えさせてくれ」


「それと、エルフ族とは別に、昔の知人に会いまして……、王都より逃げた異世界召喚者だと思います。

 その人達が、干渉して来ました。とりあえず、俺に用があるみたいです」


 ヴォイド様が、不思議そうな顔をする。


「逃げた異世界召喚者? もう、3年も前になるんじゃないかな?

 査定係と護衛を皆殺しにして、逃した話を聞いたことがあるが……。

 それ以来は、基本王家が厳重に管理しているはずだ」


 3年前?

 それが歌川か? もしくは、岩瀬さんの可能性もあるな。

 そうか……。『異世界転移した時間が異なる』可能性。

 歌川、岩瀬さん、俺の順番でこの世界に召喚されたと考えれば……。

 それも、年単位でズレていた場合。


 もっと別の方法でもいい。時間停止空間で異世界召喚者を"保管"して、一人ずつ査定して行く……。いくらでも思いつくな。


 推測の域を出ないけど、召喚された時は一人だったんだ。

 俺の思いつく可能性など、普通にあると思う。

 魔法がある世界なんだし。


「後でその時の情報を頂きたいです。それと、精神感応系の能力スキル持ちを探していたらしいです。

 多分、連れ去られています。

 どんな能力スキルなのか、詳細だけでも調べられないでしょうか?」


 ヴォイド様が、顎に手をやる。


「立ち話もなんだ。村長宅へ戻ろう。そこで、詳しく話を聞きたい」


 ここで、エレナさんが割って入って来た。


「ヴォイド様! 水が足りていません! それと、甘すぎます! 懲罰の話を忘れないでください!!」


「ああ、そうだったね。トール、まず何時もの雑用を頼む。話は、それからにしようか。私もこの手紙の内容を精査したい」


「はい……」


 こうして、俺の日常が戻って来た。





 収納魔法の中に、『川の水』はまだ大量にストックされている。

 それを、各家に配って行く。


「トール、戻って来たんだね。この数日、大変だったよ」


 ここで、村民に声をかけられた。


「……雪を融かさなかったのですか?」


「そうじゃなくてだな。エレナ嬢が取り乱してしまってな……。

 追いかけると言い出して、それを皆で宥めて……」


「えっ!?」


「最終的に、テトラ嬢が鎮静剤まで使う始末だったよ」


 エルフの里も大変だったけど、開拓村も揺れていたんだな。

 エレナさんだけみたいだったけど。


「少し、自重しよう……」


「そうしてくれ」



 その後、水を配り終わったので、村長宅へ。

 ザレドさんとトマスさんに、怪我が見える。

 断りを入れて、〈怪我〉を"収納"した。

 トマスさんが、右肩を回す。


「骨折していたのだが……、改めてトールの魔法の凄さを知ったよ」


「まだ、新しい傷だったので治せましたね」


 二人共、苦笑いだ。

 全員で席に着いた。

 ヴォイド様を見る。


「この盟約書? を読ませて貰った。これは、王家に伺いを立てなければならないと思う内容だったね」


 他種族との交渉なんだ。俺もそうなると思う。


「お願いします。それと、スミス家にも知らせて欲しいそうです。将来的に、ダニエル様に関係しそうでした」


 ヴォイド様が渋い顔をする。


「まず、『人類領に干渉しない』と『俺が窓口になる』とは、なにかな? トールの知人に対しても書かれているが、なにがあったのだい?」


 全員が興味深そうに俺を見ている。

 さて、歌川と岩瀬さんを、どんな風に説明するかな……。

 それ以外と言うか、エルフ族に関しては、そのまま伝えても良さそうなんだけど。

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