第55話 エルフとの交渉2
人族の領土で果樹園を見たことはないと伝えた。
多分だけど、あるとすればかなり離れた地域になると思う。
もしくは、王都で売られている品物……か。
奴隷のエルフには、俺達の生活も見せた。
もちろん食べ物もだ。
エルフの一団にこの開拓村を襲っても意味がないことを説明する。
それと、魔晶石だ。
まず、俺自身が知らないんだ。 今のところ使用していないことを説明する。
そうしたら、俺の収納魔法の実演を依頼して来た。
見せてもいい範囲で実演を行う。ダニエル様の時もそうだったけど、『なんでも壊せる』というのは、とても有用だな。そして、人により発想が異なる。俺は、知識を得られるので、依頼された実演を渋る気はない。
それと納得しないのであれば、お帰り願おうと思う。
まず俺は、生木を一本"収納"した。
それを見た、エルフの一団が驚く。
「なにをしたのだ?」
「収納魔法です。生き物でも入りますよ。
ただし俺の魔法には欠点がありまして。"解放"時に壊してしまうのです」
それだけ言って、生木を"解放"した。 形状は、ウッドチップとする。何も考えない時の状態だ。
それと怖さを演出するために、樹液を後から"解放"する。
俺の魔法陣から滴り落ちる液体を見て、エルフ達の表情が凍った。
そして、相談し始めた。
「***?」
「******!」
「それが、収納魔法だと言うのか?」
別なエルフからの質問だ。人族の言語を話せる者は、多いんだな……。知能が高いのか、〈スキル:言語理解〉だと推測する。
〈日本語を話す女性〉は、『もう一つスキルがあれば』とも言っていた。複数のスキルを持つ者もいるんだろう。もしくは、後天的に取得できる可能性……。
思索にふけるのは後にしよう。
「形を保てない収納魔法です。液体であっても分離しますよ」
……絶句しているよ。
まあ、使い道を考えなければそうなるよね。
オークション会場を思い起こさせる。
「……頼みたいことがある。岩に穴を開けられるだろうか? いや、岩を砕くのでもいい」
またそれか……。この世界は、採掘技術が未発達なのだと推測する。
誰か、重機を発明してくれ。
「……昔、削り取った跡があるので見に行きましょうか。多分残っています」
とりあえず、戦闘は回避できそうだな。
ザレドさんに降りて来て貰い、エルフと共に行動すると伝える。
「トール。大丈夫なのか? その……、信用し過ぎではないか?」
「この程度の人数であれば、相手にすらなりません。
仮に戦闘に発展したとしても、死ぬことはないでしょう。
それよりも、散発的に来られる方が問題です。ここで、手を取り合って友好関係を築けるなら、それが最上だと考えます。危険かもしれませんが、開拓村の今後を考えると、今しかありません。
何時戻れるかは、不明です。
でも、必ず戻って来ると、エレナさんに伝えてください」
「……分かった。必ず伝えよう」
こうして移動となった。
ただし、奴隷紋を刻んだエルフは開拓村に残した。
一応の保険だ。
◇
海岸への道を進む。足元がぬかるんでいるので走ることはできない。
だけど、なんとか日暮れ前に隘路に着いた。
「良かった。残っていたか」
俺の作ったキャンプ場跡地。
岩を三角形に削った場所は、崩落もせずに残っていた。
その岩肌をエルフ達が、興味深そうに確認する。
「凄いのだな……。君の収納魔法というのは」
王都の視察団も、この洞窟を見て騒いだとか言っていたな。
今この世界で、一番求められている技術なのかもしれない。
「俺の収納魔法は、〈ハズレ〉認定されていますけど?」
「……我々エルフ族にも収納魔法の使い手はいる。いや、空間収納と呼んでいるな。
だが、岩を削ったり、くり抜く等はできないものだよ?」
「大量の物資を運べるのでしょう?」
「まあ……、それはそうだが」
「それができないのが、俺の収納魔法です。でも、他の事ができます」
そう言って、頭くらいの大きさの岩を掴み上げた。
そして、半分だけ収納する。
それを見た、エルフ達の歓声が上がった。
「見事なものだね。鏡のような断面だ」
「前に実験したのですが、〈なんでも切れる刃物〉にもなりえます」
「ふむ。実力を認めよう。それで、協力して欲しいことがある」
良し、乗って来た。ここで、恩を売ろう。
そうすれば、友好関係が築けるはずだ。
「まず、こちらからの要求からですね。
相互不可侵、不干渉の条約を結んで貰いたいです。
人族もかなり追い詰められている状況なので、戦争は避けたいんですよ」
エルフ達が笑った。目元が緩み、とても爽やかな笑顔だ。
「本音を言うと我々も同じだ。
戦争や略奪など行わずに、生産に専念できていれば、どんなに幸せか……」
ふむ……。脳筋種族というわけではないみたいだ。
それと多少話せたので、俺の『怖さ』も少しは和らいだみたいだ。
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