第32話 観光1

 スミス家を出て、街へ繰り出す。


「あそこの高い建物が王城になります」


 エレナさんが示した場所を見ると、ひと際高い建物があった。

 あそこが、国の中心か……。


「スミス家も王族なのですよね?」


「何代も前の話になります。その……、建国の王の血を引く家が多すぎて」


「……領土拡大政策を図った?」


「それが、10年前になります。結構没落した貴族が出始めています。

 土地の開拓を行って、成功した家には功績と存続を認めています」


「……治安は大丈夫でしょうか?」


「悪化の一途を辿っています」


 大丈夫かこの国……。


「召喚魔法は、なんなのでしょうか?」


「国王様が行える秘術ですね。基本的に有能な人材が呼ばれます。

 召喚された人達を使い、国を発展させようとしています」


 ため息しか出ない。拉致じゃないのかな?


「ちなみにですが、死亡が確定した人が呼ばれます。肉体はこちらで再構成となります。魂と記憶だけ呼ばれている感じですかね。それと、前世に影響された技能スキルが付与されます」


 ほう? なぜそんなことが分かるんだ?

 これがこの世界の共通認識なのか? 常識?

 それと、話の内容からすると転生になるのか? 転移だと思っていたのだけど……。この話が本当であれば、前の世界に帰ることはできない事になる。

 まあ、帰る気はなかったけど。


「……俺は、前の世界で死亡していたのですね。最後の記憶は、寝ていたのですけど」


「寝ていた記憶が最後ですか?」


 まあいい。話題を変えよう。

 今日は目的がある。いや、今日しかないともいえる。

 今日情報が手に入らなければ、明日以降も無意味と判断して、明日出発としたのだ。


「この世界の魔法について教えて貰えないでしょうか?」


 エレナさんに笑顔が戻った。


「それでは、本屋に行きましょうか」


 俺は、少し口角が上がった。読書は趣味でもあったからだ。

 漫画があれば、全て買い取ろうと思う。漫画の有無……、それが本音だった。

 異世界人がいるんだ。ないとは言い切れない。

 期待して、本屋に向かった。





「これが、魔法の初級編になります」


 エレナさんがそう言って、一冊の本を渡してくれた。

 その本を見る。


「……火風水土光闇の操作が基本なのですね。そういえば、ヴォイド様にも聞いたな。俺は、厳密には闇系統になると」


「私の布魔法は、本当に系統なしになります」


 エレナさんを見る。

 言われてみればそうだ。俺よりも特殊かもしれない。魔力の物質化なのだろうけど、属性なしになるのか。

 そうなると……。


「エレナさんも、この世界に召喚された?」


「違います。父親が異世界召喚者になります。父親は功績を挙げて貴族位を貰えたのですが、その子供である私達には爵位の譲渡はないのです。なので各人で功績を挙げる必要があり、スミス家に雇って貰うことになりました」


 そうなのか……。

 才能だけ受け継いだのかな?


「エレナさんは、火魔法とか使えますか?」


「使えません。この世界の基本的な魔法は、私には発現させられなかったのです」


 ふむ……。

 俺は、本を本棚に戻した。この本は、俺には不要だ。

 そして、闇魔法の初級編と中級編を購入した。ちなみに、上級編はないとのこと。一般には出回らないらしい。

 それと、国の歴史書を数冊購入した。これで、この世界の事が知れる。

 そして、漫画はない事を知った……。


「俺の用事は終わりました。お勧めの場所があれば連れて行ってください」


「……もしかして、王都の用事は本の購入だけだったのですか? もっと、観光しましょうよ」


 俺はインドア派なんだけどな……。

 早く本を読みたい。そして、漫画はなかった。(重要なので2回目)





 その後、名所と呼ばれる場所を周った。

 まあ、良くできた建造物とかあるけど、俺に風情を楽しむ趣味はない。

 前の世界の建造物に比べれば、粗末と言ってもいいし。


「……何か食べたい物はありますか?」


 俺のつまらない態度を見てなのか、エレナさんが提案してくれた。


「穀物料理はありますか? もしくは、甘いモノ……」


「うふふ。それでは、甘いモノを食べに行きましょう」


 これは少し嬉しいかもしれない。

 手を繋いで、エレナさんお勧めのお店へ向かう事になった。



「……パフェですか」


 目の前には、大皿に乗ったパフェが置いてある。

 フルーツがふんだんに盛られており、生クリームと思われる白いムースが詰まっていた。

 エレナさんは、満面の笑みだ。これを、二人で食べろと?

 エレナさんが、食べ始めた。

 俺の希望は、おしることかどら焼き、もしくは饅頭だったんだけどな……。

 先ほどの、『もしくは、甘いモノ』と言ったのが余計だったか。ラーメンとか食べたかったな。

 諦めて、俺もスプーンを伸ばす。

 そして一口食べてみる。


「……甘いですね。精糖された砂糖が使われている? 苦味がないな」


「それを知って欲しかったのです。砂糖は、民間にも行き渡るほど、生産されています」


「この、寒い土地で?」


「もっと南にですが、海を渡って無人の島を見つけたのです。そこで栽培されているのですよ」


 この国の地形が分からないな。それと、『海を渡って』か……。航海術は持っているみたいだ。

 エレナさんは、とてもいい笑顔で消費を続けている。

 俺も食べないとな。このフルーツも南の島で生産されたと思う。この一皿だけで、色々と推測できた。

 その後、時間をかけて、二人で食べ切った。


 パフェでお腹一杯にする経験は、始めての経験だ。

 正直、生クリームとフルーツは、しばらく食べなくてもいいかな……。

 まあ、エレナさんの満足そうな笑顔が見られたので、良かったとしよう。



 それと、後で〈カロリー〉を"収納"して、体重を維持しよう……。

 まさか、この異世界で体重を気にする日が来るとは思わなかったよ。

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