第16話 リスト



 ――背背はいせのことを伝えていいのか迷っていました。


 眠る前に詩絵は言い訳するように言っていた。

 復讐相手について順に説明してきたけれど、背背のことを僕に話すかどうか悩んでいた。

 だから一度に教えてくれなかったのかと思えば納得できる。



 実際に姉妹を虐待していた娥孟萬嗣がもうばんじ

 弁護するていで僕を裏切った差詰さづめ作論さくのり

 僕が有罪になるよう仕向けた卑金いやがね餮足てつぞく

 自分の醜悪な欲望を僕に投影して責め立てた刑事浮抄ふしょう淇欠きけつ


 母を死に追いやった憎むべき男。卑金の秘書背背はいせ羞奨はすす

 そしてその背背と接触していたという楽口たのぐち秋基あきもと


 これらが僕らの復讐の相手だと。

 娥孟に関して詩絵たちは自身の復讐だと言うが、娥孟の悪行を押し付けられたのは僕だ。僕の復讐で間違いない。



 対象はわかった。

 次はこれらをどうするのか。


 少なくとも僕は社会的には前科者で、仮釈放されているけれど刑期そのものはまだ残っている。

 目立つことをすれば不利になるのは目に見えている。



「焦れば失敗します。失敗は許されません」

「だから慎重に、冷静に。ね」


 僕よりずっと長く敵を観察して計画を立ててきた二人の姉妹。

 彼女らの示す道は正しい。


「相手が清廉潔白であれば難しいものですが、そうではありませんから」


 詩絵の計画を聞いて、その遂行を助ける。僕にできることはそれくらい。


「後ろ暗いことがある人間相手です。ひとつずつ確実にやっていきましょう」

「うん」


 僕たちは正しい。

 真人間の面で邪なことをする人間を炙り出して、本来いるべき地獄に送る。

 正しいことに向かうのは、気持ちが軽くなるものらしい。



  ◆   ◇   ◆

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る