第132話 絶対服従メイドのお姉ちゃん

 悠と百合華の間に、目に見えない激しい攻防が繰り広げられている。それは、時に姉の威厳だったり、弟に堕とされて恥ずかしい顔を晒してしまう心配だったり、もう完全に弟に喜んで隷属してしまいそうな自分だったり。

 殆ど全部、百合華の心配事なのだが。


 悠との勝負で負けた百合華は、どんなエッチな命令をされるのかと、期待と不安でいっぱいになっていた。


 初詣デートから帰り、悠の部屋に連れ込まれ、ヘナヘナと床に崩れ落ち悠御主人様の命令を待っているところだ。一階には両親もいるというのに、どんな鬼畜プレイをされるのか。百合華は、羞恥心で胸の鼓動が悟られそうなほど、わっくわくドッキドキで悠の言葉を待っている。


 ユウ君……

 どんな命令をするんだろ?

 もしかして、あれ……を見せろとか。

 あああ……そんなの変態過ぎるよぉ。

 でもでもぉ~

 ユウ君に命令されたら断れないかもぉ~

 ダメなのにぃ……

 姉の威厳を守りたいのに。

 ユウ君に絶対服従したくなっちゃってるよぉ~っ!


 まだ何もしていないのに、勝手に百合華が盛り上がっていた。



「お姉ちゃん」

「は、はい」

「俺の命令は…………」

「うん……」


 ごくりっ!


「親が帰るまでイチャイチャ禁止で」

「なんでやねん!」


 百合華が本場の人も認めそうな完璧なツッコミをした。


「ええ……健全なのに……」

「健全過ぎるよっ!」


 健全過ぎて、百合華がご立腹だ。とびきりエッチな命令を期待していたのに、エッチ禁止だなんて許せない。


「そこはエッチな命令をするところでしょ! 何でも命令できるんだよ。もっと色々あるでしょ! 例えば、目の前で〇〇〇見せろとか、〇〇上げて〇〇しろとか、〇〇〇〇いになって自分で〇〇しろとか、一日中〇エプロンで生活しろとか!」


「へ、へ、変態過ぎるよ!」

 姉が変態過ぎてドン引きだ。


 最後の裸エプ〇ンだけは、ちょっと良いなと思ってしまう。裸エ〇ロンは男の夢だ。


「そもそも、ユウ君は欲が無さ過ぎるよ。ユウ君くらいの年頃の男子なら、こう姉に対してド変態でドエロな妄想をしまくって、女子をドン引きさせるもんじゃないの!?」


「いやいや、ド変態でドエロなのはお姉ちゃんでしょ! てか、何で姉限定?」


「だって、ユウ君が隠してるエッチな漫画には、さっき言ったようなプレイが出てくるのに。本当はユウ君も、お姉ちゃんにエッチなコトしたいくせにぃ~」


「ぐっ……また漁られてるし……」


「ふ~んだ、ユウ君がしてくれないのなら、お母さんに『ユウ君がエッチな漫画隠してる』って言っちゃうから」

 姉が最もやってはいけない最終手段に出ようとしている。


「ぐっはっ、最悪だ……」


 お姉ちゃんのことだから冗談だろうけど……

 そんな禁忌タブーはアウトだぜ!


 前に竹川が言っていたが、留守中に親が部屋を掃除して、帰ったら机の上にエロ本が置いてあったそうだ。例え身内でもプライベートは守らないとな。


「どうどう? 命令したくなった?」

「う~ん、親に告げ口するお姉ちゃんは嫌いになっちゃうかも?」


 ガァァァァーン!


 更に百合華がダメージを受けた。百合華が最も恐れるのは、悠に嫌われることだから。実際には、悠は百合華を大好きなので嫌うことなど無いはずなのだが、もし嫌われたらと思うだけで悲しくて泣いてしまうくらいだ。


「うえぇぇ~ん、ユウ君がイジワルだよぉ~」

「困ったお姉ちゃんだな」


 う~ん、どうしよう……

 何もしないのも可哀想だし……

 かといって、親が居るのに変なプレイは……

 実際は俺もイチャイチャしたいんだけど、変なプレイしているのが親バレしたらマズいんだよな。


「あっ、そうだ!」

「え、なになに?」


 悠の声で、泣きそうだった百合華が、急に期待を込めた笑顔になる。


「メイドさんが良いな。俺に絶対服従する専属メイドさん。あれにしよう」


「分かった。すぐに着替えてくるねっ!」

 とたとたとた――


 百合華が大喜びで自分の部屋へ向かった。




 ガチャ!

「失礼致します御主人様」


 着替えて戻って来た百合華に、思わず見惚れてしまう。

 ヴィクトリアンメイドを少しだけ現代風にアレンジしたクラシカルなロングのメイド服。カラダに吸い付くようなラインを出しまくるフィットしたデザインでありながら、裾の方に向かって自然に広がる気品あるスタイル。髪はアップにしてホワイトブリムを付けることで、より大人の魅力を引き出していた。


「お、お姉ちゃん……可愛い」


「あ、ありがとうございます。ですが、今の私は悠様の専属メイド。御主人様の命令には絶対服従です。何なりとお申し付けくださいませ」


 最初は親が帰るまでイチャイチャ禁止などと言っていた悠だが、百合華の専属メイドを見て一気に気分が高揚してしまう。


 メッチャ可愛い!

 お姉ちゃんメイド最高!

 てか、声色まで変わるのが凄い。

 いつものお姉ちゃんと違って、少しオドオドビクビクした感じを内包しつつ、煽情的せんじょうてきな声音で御主人様のオシオキ心を刺激するんだよな。


「御主人様、どんなご命令でも従います。どうか淫らなメイドに罰をくださいませ」


「ほら、こっちに来るんだ。全く、百合華はホントに淫らで下品でどうしようもないな」

 エッチ禁止は何処へやら、ノリノリになった悠が百合華にオシオキする気満々だ。


「ああぁん、お許しくださいませ」


 ベッドに座ると、百合華の柔らかな体を膝の上に乗せる。されるがままになってもたれ掛るメイド姉がエッチ過ぎだ。


 くっ!

 凄い破壊力だ。

 お姉ちゃんが柔らかくて良い匂いでたまらない。


「ほら、ドスケベ百合華のカラダをツンツンしちゃうぞ」


 ツンツンツン――

「あんっ! だ、ダメです!」


 百合華の脇腹や背中を指でツンツン突くと、ビクッとカラダを震わせるのか面白い。百合華の反応が良くて、ついついオシオキはエスカレートしてしまう。


「ほら、もっとケツを高く上げるんだ。親の前でイチャイチャする悪い子の百合華には、キツいオシオキで躾けが必要だな」


 ペチン!

「ひゃんっ!」


 やっぱりオシオキと言ったら、お尻ペンペンは欠かせない。お尻が弱点の百合華は、悠にペチペチされると勝手に陥落してしまうのだ。


 ペチン、ペチン、ペチン!

「あああ……御主人様、お許しください」


 ペチン、ペチン、ペチン! ペチン、ペチン、ペチン! ペチン、ペチン、ペチン! ペチン、ペチン、ペチン! ペチン、ペチン、ペチン!

「ちょっと、ユウ君、やり過ぎぃ~あああ~ん、も、もうダメぇぇぇぇ~っ! んんん~~~~」


 百合華が演技も忘れて絶叫してしまい、慌てて悠が姉の口を押える。


「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん、声が大きいよ」

「んんん~~んんんん~~~~」


 悠に色々させようとしていた百合華が演技ではなく本気になってしまい、エッチ禁止させようとしていた悠がエッチなオシオキをしてしまう。困った姉弟である。


「大きな声出すと親に聞こえちゃうよ」

「だってぇ~ユウ君がお尻叩くからぁ」

「今は専属メイドさんなんだから、ちゃんとやって」

「うう……何気にユウ君ってドSかもぉ」


 いつもは攻め攻めで強気な百合華も、悠に攻められると途端によわよわになってしまう。ラノベや漫画でよくある、普段は気高くて凛々しいSっぽい女騎士が、実はベッドの上だけドMという設定は現実なのかもしれない。


 ペチン、ペチン、ペチン!

「全く、ドスケベ百合華には困ったものだよ。こんな淫らで下品な姿を、生徒が見たらどう思うんだろ。普段はプライドの高そうな先生が、実は弟にケツを叩かれて涎を垂らすドスケベだったなんて。ほら、皆に謝って」


 ペチン、ペチン、ペチン!

「はあああぁ~ん、ごめんなさい。ドスケベでごめんなさぁい」


 ペチン、ペチン、ペチン!

「反省した?」


 ペチン、ペチン、ペチン!

「反省しましたぁ~もう、ユウ君の言うこと守りますぅ~」


「ちょっと、メイドさん設定を忘れてるよ」

 設定にはうるさい悠だった。



 そして――

 こってりとオシオキされた百合華は、何度も堕とされまくって完全に悠に屈服してしまった。もう、女王姉ではなく奴隷姉だ。


「とりあえず、親が帰るまでは大人しくしていてよ」

「ふぁ~い……悠様の言い付けを守りますぅ~」

「これで安心だぜ」


 何が安心なのか分からないが、悠が静かな正月を送れると思っているようだ。百合華にこんな事をして、後で何倍にもなって返ってくるとも知らずに。全く学習していない。


「ユウ君……オシオキされたんだから、ご褒美もちょうだい」


 とろんとした目になった百合華が抱きついてくる。膝の上に向き合うように乗り、ぎゅぅぅ~っと抱きしめてきた。


「もぉ、ユウ君イジワルなんだもん。お尻叩き過ぎぃ」

「わ、分かったから」


 抱き合い見つめ合ったままキスをする。とびきり熱のこもった本気のキスを。


「むちゅ……んぁ、ちゅっ……」



 その時、もはやオヤクソクのように階段を上る微かな音がした。親が上って来たようだ。


 コンコン!

「悠、お母さん達は親戚の家に挨拶しに行くから、あなた達は自分で夕食を食べてなさいね」

 ドアの向こうから絵美子の声がする。


「わ、分かった。いってらっしゃい」


 熱々になったキスが中断され、ちょっぴりご機嫌斜めな顔をする百合華。


「もぉ、途中でやめないで……(ぼそっ)」

 耳元で囁きながら、息を吹きかける。


「あっ!」

 ギュゥゥゥゥーッ!


「ひゃああああーん!」

 ガッタァーン!


 耳に息を吹きかけられ驚いた悠が、百合華の尻をギュッと掴んでしまう。そしてビクビクッとなった百合華が声を上げひっくり返り、慌てた悠が百合華の背中を抱きとめた。まるで何とかの定理みたいな連携技だ。


「ちょっと、悠! 大丈夫なの」

 ガチャ!


 絵美子は見た――――

 ドアを開けると、部屋でメイドコスプレしてイチャイチャしている姉弟を。


「あっ…………」

「きゃ…………」

「えっ…………」


 暫し見つめ合う三人。

 気まずい空気が流れる。


「えっ、あの……節度は守りなさいよ。ああ……また眩暈めまいがしてきたわ……」

 ガチャ!


 母親がダメージを受けて階段を降りて行く。イチャイチャしているだけならまだしも、メイド服を着て腰を密着させ合っている映像はインパクトが強すぎた。


「あああ、姉をオシオキしてイチャイチャ禁止させたばかりなのに……」


「ふふっ、ユウ君、今夜はいっぱいできるね」


 全く大人しくするつもりのない百合華。そろそろ悠も、姉を屈服させるのは不可能だと知るべきだろう。一時的に陥落して奴隷姉になったとしても、すぐに復活してエチエチし始めるのだから。

 そして、完全に誤解されそうな場面を見られ、悠の羞恥ゲージが上限を突破してしまった。

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