第110話 波乱の序奏

 久しぶりに両親が実家に戻り、家族全員でお盆休みの明石家。四人で食卓を囲み料理を食べていた。

 ごく普通の家族、ごく普通の食卓、ごく普通の毎日に見える。


 そうしている間にも、百合華の左手は悠の脚をコチョコチョとくすぐっていた。

 テーブルの下で見えないからといっても、両親の前である。

 愛しい悠をイタズラして追い込むように、エロ姉の手が太ももを行ったり来たりし、たまにあそこへ伸びてスリスリしてしまう。


 うううっ……

 お姉ちゃん……

 親の前はやめてくれ……

 バレたらどうするんだ……


 リビングのテレビが付いていてニュースが流れている。

 両親はテレビを観ているが、親のすぐ前でエッチなことをしているかと思うと、背徳感や恥ずかしさでおかしくなってしまいそうだ。


 百合華の細く綺麗な指が、わんぱくなあそこをツツツゥーっと滑る。

 まるで天才職人のような絶妙なタッチだ。

 ジレジレと焦らしながら、気持ちよくなるとスッっと離れ、再び気持ちよく追い込みを繰り返し、いつまでも許してくれない。


 まるで無間地獄のように永遠の快楽拷問を加えながら、無慈悲で徹底的な悪魔の所業でオシオキをする。

 それでいて本人は澄ました顔で料理を食べたりお茶を飲んでいるのだから恐ろしい。

 まさに悪魔姉だ。


 こ、これ……凄すぎる……

 こんなの耐えられない……

 お姉ちゃん……

 何でも言うこと聞くから、もう許して……


 まるで五本の指が歌うように踊るように滑らかに動き、ピアノを弾いているかと勘違いするほど激しく連打しまくる。

 悪乗りし過ぎだ。



『それでは次のニュースです――』

 テレビからニュースが流れてくる。


『全国で教員による猥褻わいせつ事案が頻発ひんぱつしている中、また新たな事件が起きてしまいました』


 ぶっふぉっ!


 悠がお茶を吹きそうになった。

 何とか堪えて飲み込む。


『〇〇容疑者は生徒である女子生徒とSNSで連絡を取り合った上で、女子生徒をホテルへと誘い複数回にわたって猥褻行為を繰り返したとみられ――』


 テレビを観ていた両親が口を開く。


「いやだわ、教え子に手を出すなんて」

「ああ、教師といえど男は若い女が好きだからなぁ」

「あなた、若い子が好きなの!?」

「い、いや、世間一般的にだよ」


 幹也がとばっちりを受けてしまう。

 口は災いの元だ。


「ゆ、百合華は大丈夫だろうな?」


 幹也が百合華に話を振る。

 今度は娘の百合華に飛び火した形だ。


「ちょ、ちょっと、何で私に振るのよ! そんなわけないでしょ!」

 当然、百合華が反論する。


 さっきまで教え子に手を出していただけに説得力皆無だが。

 悠のあそこをいじっていた指は、今はテーブルの上に出して両手を組んでいる。


「あなた、百合華が生徒に手を出すわけないでしょ。こういうのは男性教師が多いのだから」

「そうだよな、事件起こすのは殆ど男性教師だろうし……」


 実際に事件になるのは男性教師だが、中には女性教師も多いのかもしれない。

 本当のところは分からない。


 黙って料理を食べている悠が、毎晩の激しい求愛行動プロレスごっこをする女教師を思い出す。


 お姉ちゃんは大丈夫だよな。

 生徒には一切手を出さないし。

 俺には出すけど……


 百合華は、悠以外の男性には完全に塩対応なのだ。

 手を出すどころか、超魅惑的な容姿と、女王然としながら不意に見せる可愛い性格とで、有象無象の男達を魅了しまくった上で撃沈する罪な女だった。

 ただ、悠にだけは超優しくて、超エロくて、超恐ろしいのだが。


 外では完璧美人だが家ではアウト姉、それが百合華だ。


「そうだよな。百合華は昔から男に厳しいというか……美人なのに男っ気が無いというか」

 幹也が余計なことまで喋り出す。


 確かに外での百合華は男性嫌いなのかと誤解するほど男に塩対応だ。


「別にそういうわけじゃないわよ」

 百合華が少し不機嫌そうになる。


 オシオキから解放された悠は、父娘の会話を黙って聞いている。

 気を抜くと百合華に見惚れてしまいそうで危険だ。


「これは話そうか迷ったんだが……実は会社の部長に息子さんがいてな。これが高学歴で有名外資系企業に勤めていて、人柄も良くハンサムな好青年らしんだよ。前に百合華の話をした時に部長が気に入ってしまったようで、一回息子を会わせたいとか言い出してだな――」


 ガタンッ!

「そんなの嫌に決まってるでしょ!」


 突然、百合華がテーブルに両手をつき立ち上がる。

 悠だけに見せる優しくほわほわした顔とは違い、少し苛立っているように見えた。


「だ、だよな……今時お見合いというのもな……部長には適当に断っておくよ」


 百合華の迫力に圧された幹也が引き下がる。

 そもそも幹也は昔から百合華に弱かった。

 いくら条件の良い縁談とはいえ、娘の幸せを第一に考えている幹也が、百合華の望まぬ縁談を進めるはずもない。


 バタン!


 百合華がダイニングを出て行ってから、幹也が悠に話しかける。


「悠君、学園での百合華はどんな感じなんだい?」

「えっと、今みたいな感じです」


 素直な感想を言う。

 家ではぐでっとしていて、悠の前ではデレデレだが、外では少し怖そうな氷の女王なのだ。


「昔から百合華は美人過ぎて心配だったのだけど、実母の影響なのか少し男性不信みたいなところがあって……」


「はい……」


「今では逆に心配なんだよ。このままずっと一人だったらと思うと……ボクも仕事ばかりで娘をほったらかしにしていたのが悪いんだ。随分と寂しい思いをさせてしまったのではないかと。もっと百合華と向き合ってあげていたら……」


 幹也が申し訳なさそうな顔をする。

 その顔からは、本気で百合華を心配している優しさが感じ取れた。


 仕事が忙しく留守がちの父親と、問題ばかり起こす母親との間で、寂しい子供時代を過ごしたのかもしれない。

 あのクリスマスイブの夜、一人にしないでと泣いた姉……

 きっと寂しい思いを抱えて生きて来たのだから。


 お姉ちゃん……

 俺は、お姉ちゃんの寂しさを癒してあげたい。

 お姉ちゃんに『一人じゃないよ』って信じさせてあげたい。

 俺はすっと一緒だよって分かって欲しい。

 お姉ちゃんが大好きだから。

 お姉ちゃんを守るって決めたから。


「お姉ちゃんは大丈夫だと思います。俺もそれとなく気に掛けてみますから」


「おおっ、ありがとう、悠君」


 幹也が安心した表情をする。

 自分が信頼されていると思うと嬉しくなるが、同時に大事な娘と情事を繰り返していることに、父の信頼を裏切っているのではないかと不安にもなった。


 ――――――――




 コンコン!

「お姉ちゃん」


 姉の部屋をノックしてから入る。


「おっ、ユウ君ってばエッチぃ~」

「はあ?」

「親がいるのに勇気あるねぇ」

「ち、違うから」


 ニマニマとエッチな顔をする百合華。

 下に親がいる状態で声我慢背徳エッチでもするのかと思っているようだ。


「まったく……親がいる時はエッチ禁止」

「えええぇ~っ、ムリっ!」

「お姉ちゃん、我慢してよ」

「やぁ~だよ」


 全く控える気も無いエロ姉だった。


「それよりお父さんが心配してたよ」

「もうっ、失礼しちゃうよね。お見合いなんか持ってきて」

「本気じゃないと思う。部長に言われて仕方なしだよ」

「ぶぅ~ユウ君、お父さんの肩を持つの?」


 口を尖らせて怒る姉が可愛い。


「いや、娘を持つ父親としては、大事な娘をやれんって感じなんだよ」

「何でユウ君が親気分なのよ」

「俺も大事な姉をやれんって感じなの」


 悠が力説する。

 大事な姉が何処かの男に嫁に行ってしまったら、ショック過ぎて立ち直れないだろう。

 いや、縁談をぶち壊して姉を奪って逃避行くらいはしそうだ。


「もぉ~ユウ君ってば。私がお嫁に行く人は、世界中で一人しかいないでしょ」


 とろっとした蕩け顔になった百合華が、悠の首に両手を回す。

 完全にメス顔だ。

 欲しくて欲しくてたまらない。


「お姉ちゃん、ダメだって。親が……」

「ちょっとくらい良いでしょ」

「でも……」

「んふふぅ~ん、ユウくぅ~ん」


 悠の胸に顔を埋めてスリスリする百合華。

 子供みたいでちょっと可愛い。


「お姉ちゃん……」


 優しく姉を抱きしめる。

 安心させるように。


「ユウ君……」

「お姉ちゃん……」


 抱き合ったまま見つめ合う。

 まるで、目と目で会話するように。

 お互いの瞳からは、相手を愛おしく想う気持ちが溢れていた。


 少しづつ顔が近付いてゆき、くちびるとくちびるが微かに触れ合う。

 ほんの微かに、触れるか触れないかのところで止めて、優しく撫でるようにくちびるでチョコチョコすると、体の奥の方からウズウズとした快感と感情が昂ってくるようだ。


「んんっ、んあっ……ユウ君……ちゅっ♡」

「お姉ちゃん……んっ……」


 その時、悪魔のような百合華の耳が微かな音を感じ取った。


 ガバッ!

 凄いスピードで悠から離れ、少し離れてベッドに座った。


 コンコンコン!

「百合華、いるかしら」

 絵美子の声がした。


「はぁい、どうぞ」


 一気に真顔に戻って返事をする。

 さっきまで恥ずかしくて悠以外には見せられない蕩け顔をしていた姉とは思えないほどだ。

 階段を上る微かな音を聞き、一瞬でチェンジする凄い姉だった。


 ガチャ!

「そういえば、もう一つお土産があって、北海道で有名なチーズケーキを買ってあるの。生ものだから早めに――って、あれ? 悠もいたの」


 部屋に入りながら絵美子が話していると、ベッドに腰かけた百合華の隣に悠もいるのに気付く。


「う、うん。お姉ちゃんと話をしていて」

 何とか平静を保った悠が返事をする。


「そうなの。じゃあ、後で一緒にケーキ食べてね」

「うん、ありがとう」


「ありがとうございます。お母さん」

 百合華の方は完全に通常モードで受け答えする。


「ええ、凄く美味しいって評判のケーキなのよ」


 それだけ言うと、絵美子は戻って行った。




 ガチャ!

 リビングでテレビを観ている幹也の元に絵美子が戻る。


 いつもと変わらない日常。

 いつもと同じ家族。

 それなのに、絵美子には少しだけ気になることがあった。


「ねえ、あなた。悠と百合華って仲が良過ぎる気がするのだけど」

 不意に疑問が口をついた。


「えっ、そうかな? 仲が良い姉弟で良いことじゃないか」

「そうだと良いのだけど……」


 完璧な所作で隠し通す百合華。

 しかし、女の勘なのか第六感なのか、絵美子はほんの微かな変化を感じ取ったのかもしれない。

 この時は絵美子も、気のせいかもしれないと流してしまうのだが。


 二人が幸せな結婚をする為には避けて通れないことがある。そう、いくつかの関門が存在するのだ。

 例えどんな険しい事でも、悠は必ず乗り越えて百合華を幸せにしようと誓っていた。


 やがて訪れるのが嵐や苦難だとしても、必ず大好きな百合華を守り幸せにしたいと。






 ――――――――――――――――

 お読みいただきありがとうございます。

 禁断の関係になった悠と百合華。

 周囲にバレないように付き合い続けています。

 そして波乱の予感が……

 でも、安心してください。

 あまりウツ展開にはしない予定ですので。

 ハッピーエンドに向かって頑張ります。


 もし少しでも面白いとか、お姉ちゃん可愛いと思ってもらえたら、フォローや星やコメントなど頂けると嬉しいです。

 作者のテンションやモチベが超上がります。

 

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