第1010話 どう手を打つか
「・・・上手くいった?」
術を掛け終わってふうっと大きく息を吐き、ちょっとお尻の体重をずらした私に碧が声をかけてきた。
「なんとかね。
同じ部屋の中とかじゃ無いから、この距離だと使い魔経由でも意思誘導って疲れるわ〜」
幸い、食べるって言うのは人間の三大欲望の一つだし、
とは言え家には碌な食材が無かった様で、結局お素麺を食べてたが。
あれではあまり栄養分はないよねぇ。
しっかり肉を食え、肉を!と絵奈さんに言うように伝えておく必要があるかも。
でも半ば断食状態だった後に急に肉を食べるのは危険かな?
まあ、まずは京子さんに生きる気力を取り戻して貰わないと話にならんけど。
食べ終わったらソファに座ったのでそこでちょっと意識をぼ〜っとさせたらあっという間に眠りについた。
精神だけでなく、体の方もかなりボロボロだったみたいだ。
少しはこれで体力が回復して気分も上向くといいんだけど。
「何かお母さん側の事情は分かった?」
碧が尋ねる。
「どうも絵奈さんは電車の中で座ったまま亡くなったらしくて、遺体が発見されたのが埼玉か茨城か知らないけどどっか遠くの方の終着駅で折り返す時になったみたい。その時にはもう完全に体が冷え切っていて手遅れだったそう?
で、財布に入っていた緊急連絡先ってことで母親に連絡が来て、遺体を引き取って、友人や会社に連絡してお葬式をしたらその際に同僚の人から過労死だったんじゃないかって聞いたみたいね。
でもまあ、馬鹿正直に会社に事情を聞いたところでそんなのを認めるわけは無いからねぇ。上司からは絵奈さんの同期は皆同じように働いているけど健康障害は無いようだから、何か気付かなかった病気でもあったのでは?って言われてる。
お陰で余計に自分を責めて、でも何が死因か病院に調べさせても特に病気があったと言うよりは全般的に無茶をしたせいなのではってお茶を濁されたみたい」
まあ、病院側だって企業に喧嘩を吹っ掛けるような調査結果はよっぽど露骨な証拠でも無い限りは言わない気がするし。
しっかし。
最近は電車の路線がやたらと長いからねぇ。
銀座線みたいに短い路線だったら20〜30分ぐらいで折り返していて、その時点で異常が発見されて病院に運び込まれればまだ間に合ったかもだけど、あちこちに繋がりまくった電車は折り返しまでの時間が長いからねぇ。
どうやら絵奈さんが通勤に使っていた電車もそう言う長い路線だったらしい。
「取り敢えず、絵奈さんを喚んだら何が原因で亡くなった可能性が高いのか、過労死だったら何か証拠があるのか、絵奈さん本人としては何を望んでいるのかとか、聞いてみようか」
碧が溜め息を吐きながら言った。
「あ、その前に碧のパパさんなり青木さんなりに、過労死とかで会社に瑕疵を認めて業務改善をさせるような交渉が出来る弁護士を知らないか、聞いてみない?
お金が欲しい訳じゃあ無いだろうけど、勤務先に非を認めさせて他の同僚の勤務状況がマシになるようにでも働きかける様な目標がある方が、京子さんが立ち直りやすいと思うんだけど」
何か生き甲斐というか目標が無いと、単に夢の中で絵奈さんと話しただけじゃあ立ち直れないだろう。
と言うか、今は立ち直った様に見えても、暫くしたらまた会社を怨むなり自分を責めるなりで闇堕ちする可能性が高そうだ。
何か特に熱心に取り組んでいる趣味なり活動なりがあってそっちを再開するならそれもありだが。
「ああ、確かに弁護士は必要だねぇ。
とは言え、流石に幽霊に夢で聞いた相手に連絡を取るかな?」
碧がちょっと首を傾げた。
「知らない人の連絡先が分かったら、夢じゃなくてちゃんと本当に絵奈さんがお別れを言いに来たと納得するかも?」
うっかり詳細を忘れて何もかも夢だったと思ってしまう可能性もゼロではないが。
小さな紙にでもメモってクルミに届けさせるかねぇ。
網戸の隙間(多分)を通れるぐらい小さく折りたたんだ紙だとそれを元に広げるのが難しそうだから、中々悩ましいんだが。
こう、筒状に丸めて持ち込んで広げさせるかなぁ?
「そうだね。
取り敢えず、青木さんにでも聞いてみようか。
甥御さんの時に色々と調べてそうだし」
碧がタブレットを取り出して言った。
ああ、そう言えばなんか凄腕な変な人まで出てきたよね。
上手いこと階段で転ばせて骨折までさせる絶妙な技能持ちだった人。
もしも過労死関連で訴える証拠とかが全く何も残っていない様だったら、最後の手段であの人に何か妥当な報復を依頼するなんてのもありかも?
きっと社員を過労死させる様な会社の管理職や幹部は色々不味い事をやっているだろうから、それを暴いて社会的に抹殺させるなんて言う手も可能かも知れない。
まあ、できればそんな手段ではなく穏当に非を認めて会社の業務フローを改善して貰いたいところだけど。
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