第1009話 ちゃんと食べましょうね〜

「よし、そんじゃあまずは清めに行こう!」

団子を食べ終わった碧が串を纏めながら立ち上がった。


「だね。

出来れば暫く様子を見るためにあの家の敷地内でちょっと隠れられる場所が欲しいけど、あんだけ雑草が生い茂っていたら虫が凄そうなのがなぁ・・・」

お団子と一緒に買ったペットボトルのお茶をティッシュに少し垂らし、ウェットティッシュもどきにして指を拭きながら私も立ち上がる。


一応蚊は碧の虫除けに登録してあるから寄ってこないけど、あの雑草ぼーぼー具合だったらアブとかその他諸々の色んな虫が居そうで近付きたくない。


「裏の駐車場スペースはどうかな?

あの門柱の向こう側は一台分ぐらいの駐車スペースだったよ」

碧が言った。


お?

そんなのあったっけ?

凄まじい雑草の繁殖具合に圧倒されて、あまり周囲をしっかり見てなかった。

出来ればあそこじゃないと良いな〜と思いつつどこかに遺体でも埋まっているのかと確認するのに忙しかったし。


ちなみに、庭には昔のペットと思われる動物の古い骨があったけど、霊は既に昇天した後なのか居なかったし、人間の遺体もなかった。

あの怨みと怒りの穢れは絵奈さんの母親から生じているっぽい。


ゴミを捨て、そっと認識阻害の結界を2人の周囲にかけて徐々にそれを強めながら絵奈さんの実家の方へ向かう。


アコーディオンゲート(って云うんだっけ?)で道から区切られていたが、碧が言ったように門柱の向こうに駐車スペースがあった。


父親が亡くなった時にでも処分したのか、車はない。

コンクリートで固めた床面がところどころひび割れて雑草が生えているが、これだったらまだ雑草ぼーぼースペースな庭の中よりはずっとマシだろう。


認識阻害を掛けたままそっと音を立てないようにゲートを開き、駐車スペースの奥に行ってそこにあったブロックにビニール袋を敷いて座る。


認識阻害を掛けていても防犯カメラとかで録画されていたら映っちゃうが、こんな住宅地域だったら他人の個人宅の駐車場の奥まで映すような角度で防犯カメラを設置したりはしないだろう。

高橋家も防犯カメラがないようだし。


と云うか、初老の女性が一人で暮らしているんだったら、防犯カメラは設置すべきじゃない?

まだ犬を飼っているなら吠えるからある程度は番犬効果があるが、猫じゃあ空き巣や押し込み強盗対策には役に立たないでしょうに。


そう云うのも絵奈さんの心残りの一部なのかも。

危険だから防犯カメラを設置するように説得するなり手配するなりしようと思っていたのに、仕事が忙しすぎて後回しにしていたら手遅れになってしまったって感じで心配していても不思議はない。


病気ならまだしも過労死じゃあ突然だから、色々と手遅れになった事が多いだろう。

しかも死ぬ前もそれなりの期間は過労死に繋がるほど忙しかったとなると、後回しにした事が色々とあっただろうし。


交通事故だって突然だし、やっておこうと思って出来てなかったことは多々あるだろうが、仕事に忙殺されていた後だとあまりにも疲れていたせいで後回しにした事が山積みになっていそうだ。


「さて。

そんじゃあ清めるね」

碧が荷物を椅子代わりのブロックに置き、徐に立ち上がって背筋を伸ばした。


なんか威厳があるよね〜。

こういう時の姿勢とかも術を習う際に教わるんかね?


そんなことを考えながら碧の紡ぐ祝詞に身を任せる。

あ〜気持ちいい。

諏訪の霊泉に浸かるのと同じぐらい爽快感がある。


悪霊に憑かれたり呪詛を掛けられていないのは確実なんだが、体に多少の穢れは溜め込んじゃっているんかね?

そうでもなきゃ、こうも穢れ祓いが気持ちいい理由はない気がする。


パン!

祝詞を終えた碧が手を合わせた瞬間、あたり一面が煌めいて穢れや澱みが消え去った。


一応うっかり祓われちゃわない様に亜空間に引っ込めておいたクルミを呼び出す。


「そんじゃあ家の中に行って、絵奈ママがどうしているか視界共有して教えて」

何も食べようとしないんだったら意識誘導してちゃんと何かお腹に入れるように仕向けないとだね。


『はいにゃ〜!』

クルミが張り切った感じにブン!と躯体を振るわせた後、2階の窓の方へひゅんと飛んでいった。


「・・・どう?」

バッグを手に取り、ブロックに座り直しながら碧が尋ねる。


「取り敢えず・・・台所の様子を見る限り、朝食の後は何も食べていないっぽいね」

クルミと視界共有しながら家の中をチェックしたところ、お皿が一枚だけお情け程度にシンクに置いてあるだけだから、あれってトーストを1枚食べただけとかそんな世界じゃない?


その程度しか食べてないんだったらエネルギーそのものが足りなくて体を動かす気力も無くなっちゃうだろうに。


台所から出てリビングに向かうと、絵奈ママが何もせずに虚な目でソファに座っていた。


テレビを見る気力も無し、か。

『・・・一緒に暮らしていれば無茶をさせなかったのに』

周囲を見回しながら絵奈ママが呟く。


まあ一緒に暮らしていたら、仕事をもっと減らせと心配して主張する母親と大喧嘩になった可能性もあるけどね。

却って関係にヒビが入って後で後悔する羽目になったかもだし。

事後的な解決策を考えてもしょうがないよ。


それより、昼食を食べようよ〜。


駐車場から『昼ご飯だ〜、お腹空いたでしょ〜、何か食え〜』と一生懸命に念を送ってみたが、当然の如く効果はない。


しょうがない。

クルミに絵奈ママへ触れて貰って遠隔で軽い意思誘導を掛けるか。

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