第1008話 ドツボに嵌ってる感
「やっぱあそこかぁ〜」
参ったね〜と言う感じに碧が溜め息を吐いた。
「この状態で絵奈さんをここに連れてきたら、却ってお母さんか誰かの怨みを吸収して悪霊化しそうだね」
折角まだ悪霊化しておらず、ちゃんと本人が納得できるお別れを告げられたらカルマ値にマイナスなペナルティなしにあっさり昇天できる可能性がありそうな霊なのに、私たちが手を貸す事で悪霊化しちゃうのは・・・ちょっと無いな。
こっちのカルマにも悪影響がありそうだし、無いとしても手助けのつもりで手を出して霊を悪霊化させちゃって、後でそれを祓ってお仕舞いと言うのも一人の人間としてどうなのって気もする。
だけど。
「悪霊じゃ無いから、祓ったら解決って訳にもいかないからねぇ」
碧が顔を顰める。
悪霊ならばしっかり祓って昇天させちゃえば、誰かが手間暇かけて召喚して現世に縛りつけでもしない限り穢れと悪霊が戻ってきたりはしない。
だが人間の怨みってある意味エンドレスだからねぇ。
「娘の過労死が許しがたくてこうなっちゃったんだったら、私らに出来ることってあまり無いよね・・・」
「取り敢えず、穢れを全部祓ってさっぱりした状態で絵奈さんを喚んで、彼女に親の説得を任せる?
本人はそれ程怨んでいる感じでは無かったから、親が闇堕ちするのは望まないよ〜って説得してくれるんじゃない?」
碧が提案した。
「確かに、それが一番かな?
それにそれ以上出来ることなんて無いしね」
悪霊なら退魔協会に睨まれるのを無視してこっそり祓うのも可能だが、生きている人間の怨みに関して直接出来ることはマジで無いからねぇ。
精々腕のいい弁護士でも紹介して、絵奈さんを過労死に追い込んだ勤務先なり上司なりをビシバシ訴えてコテンパンに叩きのめしてはどうかと唆して怒りの矛先をもう少し建設的(?)なものにする程度だ。
「ちょっとまず、クルミを派遣して中を覗き見してみるね」
ピンバッジサイズならどっかから入れるだろう。
最近は夜になると気温が下がるせいか、どうやらまだ窓を開けて風を通していて、クーラーは使っていない様だ。
網戸の隙間だって通常ならピンバッジサイズでもクルミが通れるほど大きくは無いが、猫がいるならどこかが破けていても不思議はない。
「クルミ、どっかの隙間から家の中に入って、中の住民の様子を確認してくれる?
あと、『チャコちゃん』が猫だったらついでに最近家族がどうなっているのかも聞き込みしてみて」
母親が働きに出ているとか、父親や兄弟がいる可能性もあるからね。
どうせ穢れを祓うなら住民が全員いる状態でやった方が良いだろう。
『分かったにゃ〜』
クルミが家の方に飛んで行ったのを確認してから、周囲を見回す。
「取り敢えず、スーパーの正面にあった出店っぽいところで何か買って時間を潰す?」
ここでぼ〜っと立っているのは目立つが、ずっと認識阻害結界を張って立っているのもなんか魔力の無駄な気がする。
「あ、さっき横を通った時に良い感じに醤油団子を焼いている匂いがしてたんだよね!
ちょっとおやつに食べよう」
碧が嬉しそうに頷いた。
醤油を焼く匂いって魅惑的だよねぇ。
食べる分には砂糖醤油のみたらし団子が好きなんだけど、香りは普通の醤油を焼いている匂いがダントツだ。
もう直ぐお昼なんだけど・・・ちょっと軽い目なお昼代わりに何本か団子を食べて、後で午後に軽食を食べるなり、ケーキを食べるなりしようかな。
と言う事で。
私はみたらし団子と醤油の団子を一本ずつ、碧は餡子と醤油の団子を一本ずつ買ってそばのベンチでパクついていたら、クルミが戻ってきた。
下手に認識阻害の結界を張って誰かがベンチに座ろうと寄ってきたら面倒なので、念話で調査結果を尋ねる。
『家の中はおばさん1人とチャコちゃんだけだったにゃ。
チャコちゃんが言うには、お父さんは何年か前に交通事故で居なくなったんだって。
おばさんが心配だから同居しようかと絵奈ちゃんが提案したんだけど、親と同居じゃ誰かと付き合いを始めても仲が進展しにくいから心配しなくても大丈夫よっておばさんが断ったらしくって。それが失敗だったって何度も何度も呟いていたにゃ』
クルミが教えてくれた。
うわぁ。
私らがお団子を頼んで食べている間程度の時間に『何度も何度も』呟いてるの?
かなりヤバくない?
そう云う自分を責める系だったら丑の刻参りはしないかもだけど、振り切れたら何をするか分からないし、取り敢えず穢れを清めたら少しは精神状態がマシになると期待しておくかな。
『う〜ん、そう云う精神状態だったらしっかり食べても寝ても居ないんだろうから、取り敢えず昼食を食べた後に私が穢れを祓って、凛が眠らせちゃったらどうかな?
しっかり昼寝して疲れが取れたぐらいで絵奈さんを喚ぼう』
碧が提案した。
そうだねぇ。
まずは、穢れを祓ったらちゃんと昼食を食べる気になってくれると期待しようか。
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