第1007話 恨んでます?
「絵奈さんって乗り換えするつもりでプラットフォームから歩いていたのかな?」
目的のスーパーがある隣駅へ行く電車のプラットフォームへ階段を登りながら碧が呟いた。
絵奈さんのお母さんの名前(高橋京子さんだそうだ)を確認して絵奈さんの実家へ向かっているが、そこの最寄駅は絵奈さんがいたウチらの家からの最寄駅ではなかった。
「乗り換えか、意識がはっきりしたところで慌てて降りて残りは歩くつもりだったかだよねぇ。
実家に住んでいて過労死する可能性って低めな気がするから、乗り換えだったんじゃない?
歩くのは・・・あの速度じゃあ下手したら辿り着くのが来年のお盆になりそう」
隣駅までの実際の距離がどんだけあるか知らないからどの程度時間が掛かるか分からないけど、盆を過ぎてスローダウンしていたんだったら辿り着くのに時間が掛かっただろうし、下手したら途中で動くエネルギーが切れて地縛霊になっていたかも。
どちらにせよ。
過労死って労働時間が長過ぎてちゃんと睡眠を取れないって言うのもあるだろうが、直接の引き金って疲れ過ぎてちゃんと食事を取らない事なんじゃないかと思うんだよね。
実家に住んでいたら親がそんな無茶な働き方を止めさせる可能性が高いだろうから、絵奈さん本人は会社への通勤が楽なところにあるアパートにでも暮らしていたんじゃないかと勝手に想像している。
まあ、実家に暮らしていたけど頑固過ぎて親の心配を全部跳ね除けて無茶な労働をしていた可能性もゼロじゃあ無いけど。
でも、実家暮らしでそこまでヤバそうな働き方をしていたら、親がそれこそ会社に怒鳴り込むなり労働監督局に相談するなりで会社か本人の行動を抑制したんじゃないかなぁ。
労働監督局は労働者本人じゃないと正式には相談に乗らないらしいけど、合法な労働範囲ぐらいは教えてくれるだろうから、それを元に親が子供に色々入れ知恵する事で会社の無茶な要求に死なない程度には対処出来てそう。
まあ、絵奈さんがとんでもなく頑固だった可能性もあるけどさ。
地縛霊っぽいのに自力で移動しているって見たことが無いレベルの根性だ。
隣駅で降りて、目当てのスーパーへ向けて歩く。
駅から徒歩15分程度でちょっと遠いが、ファミリー層向けな戸建て地域って感じかな?
共働きだったらもう少し駅の近くに住みそうなもんだけど、父親の話が出てこないからなぁ。
家の中の事に関与しようとしない存在感ゼロな父親なのか、死別、もしくは離婚して関係を維持しようとしなかった父親なのか。
まあ、どちらにせよ日本の父親って育児は母親にほぼ丸投げで、子供と関わりが少ないタイプが多いからなぁ。
偶に関与してくるのはモラハラ系で自分の望みを勝手に押し付けるタイプが多そうだし。
まあ、うちの父親みたいにちょっと存在感が薄いけどまともな父親もいるとは思うけど、高校時代の友人の話とかを鑑みると、反抗期だとしても微妙か希薄な親子関係が多い気がした。
母親が共依存的にべったりな母子も時折いたけど。
願わくは、絵奈さんはそうじゃ無いと期待したいねぇ。
共依存なんて本人たちが健康な状態でもあまり良いもんじゃないだろうし、それで娘の方が死んじゃったのでは母親がどうなるか想像するのも怖い。
そんな事を考えながら歩き、絵奈さんが言っていた通りにスーパーの前で右に曲がり、その後左に進み周囲を見回す。
『高橋』と言う表札は見当たらない。
まあ、目に付く家のうち半分ぐらいは表札が出てないから、道の指示が間違っていたとは限らないけど。
「クルミ?
ここら辺にチャコちゃんって言うペットがいないか、聞いてまわってくれる?」
こう言う時こそ、使い魔だ!
『任せるにゃ〜』
「・・・なんかさぁ。
あの家、ちょっと穢れが濃くない?」
周囲を見回していた碧が、表札のない家の一つを指しながら言った。
「だね。
それこそ高齢者が孤独死して遺体がずっと発見されなかった後に遺族が遺産争いしたせいで清めも弔いもちゃんとして貰えなかった家っぽい感じ?」
殺人があった程の穢れじゃないけど、不満と怒りが静かに蓄積している感じで、庭も手入れをしていないのか物凄い背丈な雑草が生えまくっている。
孤独死じゃなかったら・・・それこそ娘が過労死したような家かも?
普通の一般家庭っぽいから呪師に伝手はないかもだけど、丑の刻参りぐらいならしてそうかも。
考えてみたら丑の刻参りって神社とかでやるんだとしたら、神社側にとっては良い迷惑だろうねぇ。
夜中に変な人影があったら風評被害が生じそうだし、恨みと憎しみ一杯な状態で毎晩こられたら境内が穢れるだろう。
しかも境内の古い木とかに釘を打ちつけられたら、木にも悪影響がありそうだし。
それとも今時の神社って夜は門を閉めてるのかな?
下手に夜通し開けてて浮浪者の睡眠場所にされちゃあ困るから、考えてみたら都心の神社とかは夜は閉鎖してそう?
そんな事を考えていたらクルミがひょいっと帰ってきた。
『そこに住んでるそうですにゃ!』
雑草ぼうぼうなちょっと穢れた家を示しながらクルミが言った。
あ、やっぱり?
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