第1006話 探します
「ちなみに、実家が何処にあるのか住所を覚えてる?」
碧が絵奈さんに尋ねた。
そうなんだよねぇ。
このゆっくりとした動きについて行くのは遅すぎて大変だが、霊が動きやすいように魔力を与えてパワーアップするのは出来ることなら避けたい。
家でお別れを言っている最中に本人が激怒するような事があって悪霊化したりしたら、大変な事になりかねない。
現時点でも、心残りがあって昇天せずに半ば地縛霊化していたのでちょっと影を帯びていて微妙に危険そうなんだし。
なんかお盆でちょっと故郷へ帰るパワーが水増しされたっぽいけど、それが消えた後に離散するならまだしも離散するのを避けようと周囲の気を吸収する際に穢れを多く取り込んだら、本人にその気が無くても悪霊化しかねない。
『◯◯区中之町西25の・・・あれ?
新しい実家の住所の詳細が思い出せない。
行く分には住所の詳細なんて必要なかったし、いつも地元のスーパーの側って言えばタクシーで行く場合も問題なかったから』
慌てたように絵奈さんの霊体がふるふると震える。
おやま。
もしかして成人して一人暮らしを始めた後に親が引っ越したのかな?
まあ、そうじゃ無くても転勤族な親だったら住所はしょっちゅう変わって覚えているのは難しいかも。
社宅とかだったら子供が大きくなってから引っ越す事もあるだろうし。
なんか管理職とか部長クラスになると社宅から出す方針な会社も多いらしいし、最近は社宅そのものを止める会社も増えてきてるらしいからねぇ。
下手に会社に住居を依存する状態になるよりは、最初から給料としてお金で貰っておくほうが転職しやすいだろう。
ウチらの世代じゃあ社宅付きな会社の方が少ないかもだよね。
実家で近所のお姉さんとかから聞いた話だと、社宅って結局家に帰ってからも会社での人間関係や役職による力関係を引きずる事になるから色々とストレスが溜まるって話だし。
第一、『お母さんとチャコちゃん』にお別れを言いたいと言っていたって事は・・・父親とは死別してるとかあまり関係が良く無いのかも?
熟年離婚の可能性もゼロじゃあないよねぇ。
熟年離婚した女性側がどの程度経済的に余裕があるのか知らないけど。
野良猫に餌をやる程度ならまだしも、ちゃんと飼おうと思ったら動物病院代とか餌やトイレの砂やでそれなりにお金が掛かる。
ここら辺に住んでるとしたら、普通に共働きしていた夫婦が別れて奥さん側もそれなりにお金を持っている可能性もあるけど。
どうなのかな?
ちょっと気になるけど、他人のプライバシーに安易に首を突っ込むべきじゃあないし、下手に絵奈さんに聞いて地雷を踏んじゃって悪霊化の方向にプッシュしちゃったら不味い。
「◯◯区中之町西25の辺にあるスーパーだと、これかしら?」
タブレットを弄っていた碧がそれを差し出して聞いてきた。
おお〜。
そっか、マップアプリで大雑把な住所が分かったらスーパーを探せばそれなりに範囲を絞り込めるのか。
『・・・タブレットの画面が見えない』
タブレットを覗き込んで見ようとしていた絵奈さんの霊体がふにゃりと傾いた。
これって困惑状態を示してるのかね?
普通に首を傾げてくれるだけでも良いんだけど。
霊になると反応が体全体に現れるのかな?
呼び出された訳でもなく、悪霊になった訳でもなく、地縛霊状態から中途半端に外れてるせいでちょっと反応が不思議な感じだ。
「えーと、マル◯ツ?」
碧が地図を拡大させて店の名前を読み上げて尋ねる。
『・・・ええ、それだと思う』
良かった。
「家はそこからどっちの方向?」
『スーパーの前を駅から向かって右に曲がって、2つ目の角を左に曲がった先』
ふむ。
戸建て地域っぽいから上手く行けば表札があるかな?
無かったらちょっとクルミに頼んでそこら辺の近所で『チャコちゃん』と云うペットが住んでいる家を探して貰えば良いか。
「じゃあ、そこの家に着いたら私が絵奈さんを召喚するから、引っ張られる感じがしたらそれに身を任せる感じで来てくれる?」
連れていくよりは召喚する方が楽だし、媒介になるものが無くても絵奈さんの霊の記憶がはっきりしてる今だったら名前だけで問題なく呼び出せるだろう。
本人が抵抗しなかったら。
『分かった。
ありがとう』
絵奈さんが応じ・・・またユラユラ揺らめきながらゆっくりと通路の奥へ進み始めた。
う〜ん。
ちゃんと私が召喚する時に抵抗しないで来るのを覚えていてくれるかな?
霊って死ぬ直前とか死んだ時の想い以外は忘れっぽいんだよねぇ・・・。
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