第1004話 意外と

「結局、あの霊って何が心残りなんだろうねぇ」

2人とも気になったので、結局翌日は碧と私で一緒に駅に向かっていた。

今日はどちらも大学に行く用事は無いんだけどね。


定期券があるなら改札に入って出ても無料なんだけど、最近はリモートで授業を受けることが多いから定期じゃなくってスマホに入れた鉄道会社の電子マネーのアプリを使っているのでちょっとお金が無駄になるが、まあしょうがない。


ちゃんとした喫茶店でコーヒーを飲むよりは安いんだし、気になるからね。

霊を見かけたらクルミに認識できるかをチェックして、場合によっては明日からはクルミに位置確認をさせるのもありかも。


「ありそうなのが、後ろから突き飛ばされて死んだから犯人を見つけ出して復讐したい、かな?

じゃなきゃ自殺だった場合は自殺へ追い込む程のイジメなりパワハラなりをした相手への怨みとか。

うっかり立ちくらみでプラットフォームから落ちちゃったんだったら、家族への最後のお別れが言いたかったって言うのもワンチャンあるかもね」

碧が幾つかのシナリオを提案する。


「プラットフォームから突き落として殺されるなんて言うのは転生系のラノベではちょくちょくある設定だけど、あれって周囲の人が見ていて『人殺し!!』って大騒ぎにならないのかね?

テレビのニュースでは線路に落ちちゃった人を助けようとして巻き込まれて亡くなった人の話は時折聞くけど、誰かを突き落として殺した人のニュースって聞いたことがないよね。

誰も実際にはそんな事をしないのか、意外とバレなくて事故だと思われるのか、どっちなんだろ?」


「いや、突き落とす人はちょくちょく居るみたいだけど意外と死なないっぽい?

なんかのついでに一度ネットで調べたことがあったんだけど、年に1回ベースぐらいで関東近辺でも突き落として殺人未遂で捕まっている人は居るみたい。

だからそれなりに周りにはバレるっぽいね」

碧が教えてくれた。


マジ?!

「意外と死なないんだ?!

なんか踏切で嵌って死ぬ人って多いみたいだから、線路に落ちたら終わりかと思ってた」


まあ、考えてみたら駅に入る際には運転手の方も細心の注意を払っているだろうし、速度もぐっと落としているから止まりやすいんかもだけど。


「プラットフォームって下が抉れてるからそこに潜り込めば電車が入ってきても逃げられるから、落ちた際に打ちどころが悪くて動けないって事になってさえいなければ大丈夫なんじゃない?

もしくは反対側の線路に逃げるとか。

そっちにも電車が入ってきてたらヤバいけど」

碧が言った。


「そっか。

と言うか、考えてみたらあの霊がいたプラットフォームって去年にはホームドアの設置が終わってたよね?

その前からあの霊がいたなら気付いたと思うけど、もしかしてもっと前の霊が線路からよじ登るのに何年か掛かったりしたのかな?」

ホームドアがあったらそれを超えて突き落とすのは無理だし、自殺にしたって別の場所を選ぶだろう。


とすると、マジでもっと古い霊が時間をかけてプラットフォームの上まで移動してきたか、あそこで心臓麻痺とか卒中で亡くなったかだよね。


う〜ん、昨日見た時はしっかり観察する暇がなかったから女性だって程度しか認識しなかったんだけど、もう少しガッツリ見るべきだったね。

まあ、死後の姿って本人の意識次第で若返ったりオドロオドロしくなったりで必ずしも死ぬ直前の状態を判断するのには信頼できないけど、


そんな事を考えながら携帯を改札にかざして中に入る。


さて。

何処にいるかな?


敢えてちょっとお年寄りな女性の後ろを歩き、周囲をそれとなく見回す。

駅の中って目的に向かって動いている人が多いから、怪我をしているとか高齢者じゃないのにゆっくり歩くと嫌がられるんだよね。

人によっちゃあ電車に乗り遅れる!!って急いでいる人もいるから、理由なくゆっくり歩いていると舌打ちされかねない。

酷い時なんて、急いで追い越していく人に鞄を乱暴にぶつけられた事もある。

まあ、友人との会話に夢中になってチンタラ歩いていたのはこっちも悪いけどさ。


ある意味、キャラキャラと会話に熱中する女子高生あたりがそう言う意味では無敵かも。


それはさておき。

「居たね。

何処に向かっているんだろ?」

階段を下りた通路から奥のプラットフォームの方向に10メートルぐらい進んだところに昨日の霊がユラユラと揺らめいていた。


ここだったらちょっと話を聞く為に立ち止まるのも可能かな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る