第1003話 根性?!

「あれ?」

今日も何か用事があるとかで、一緒に大学へ向かう途中だった碧がふと階段の下で声を上げた。


「うん?」


「動いてる」


碧の指している方を見たら・・・何やら見覚えがある半透明な影が駅の階段の途中に居た。


「え???

あれ、地縛霊じゃなかったんだ?!」

霊格の高い守護霊的な霊ならまだしも、未練とか恨みで昇天しなかった霊って基本的に場所か人かに縛られている事が多い。

縛られてと言うか取り憑いてと言うか、取り敢えず自分が好きな様には動き回れないのだ。


好き勝手に動けるほど身軽な霊ってあまり見かけない。

そこまで拘りが無い霊だと風やとりとめのない考えにふらふらと流されて、昇天するか離散するか、どっちかなんだよね。

まあ、基本的にはよっぽどボロボロに弱っていない限りは昇天だと思うけど。


だからあのプラットフォームに居たようなちょっと恨みもあるっぽい暗いめな霊は場所に縛られた地縛霊な事が多いんだけど・・・動くなら『地縛』霊じゃないよね??


とは言え。

「かなりゆっくり移動しているっぽいから、地縛霊の亜種みたいな感じかも?

もしくは取り憑いた対象が動いたとか?」

碧が霊の方へ階段を登る角度を調整しながら答えた。


元々プラットフォームにあって、それが階段の途中まで動くような物なんて殆どないと思うけど。

流石にそんじょそこらのゴミじゃあ霊が取り憑ける程の霊的強度がないと思うし、カバンや靴や宝石だったらプラットフォームにあったら誰かが拾って駅員へ届けるだろう。

もしくは誰かに階段の下まで蹴り落とされるか。


・・・考えてみたら、何かの石に霊が取り憑いたとして、それが東京駅なんかで稀に見かける◯ンバの人間サイズ版みたいな自動清掃マシーンに吸い込まれてどっかに引っ掛かったら、悪霊はあの自動清掃マシーンに取り憑くことになるんだろうか?


悪霊に取り憑かれた自動清掃マシーンと言うのもちょっと怖いかも。

あれって夜遅くに人通りが少なくなった頃に通路とかを掃除しているんでしょ?

何やら自分を追いかけて来るような動きをする清掃マシーンに悪霊が憑いていたら、かなりのホラーストーリーになりそう。


駅の通路って時々古臭くて薄暗いところがあるし。


それはさておき。

霊がユラユラと揺れている所のすぐ傍を通ったが、足元にはそれらしい取り憑いたブツが転がっている様子は無かった。


う〜ん、一体この霊は何をやってるんだろ?

ちょっと尋ねてみたい気もするが、階段のど真ん中で立ち止まって考え事をするのも、独り言を呟くのも、碧と会話をするのも周囲の邪魔だ。


まだ先日のプラットフォームの端の方が電車待ちっぽく立っていられたんだけどねぇ。


「・・・取り敢えず、この駅を利用する時はあの霊がどこに居るか、ちょっと注意しておこうか」

霊の横を通り過ぎた碧が提案した。


「だねぇ。

どっか人目が無い所まで移動したら、何をやっているのか聞いて心残りの解消を手伝えるなら手伝って昇天するのを助けても良いし」


勝手に悪霊だろうと除霊しちゃいけないんだし、怨みを晴らしたい相手がいて、ちゃんとターゲットを間違えずに祟るなら邪魔をしないのもありかもだが、関係ない人にうっかり人違いで祟るようだったらこっそり祓っちゃおうかな。


自力で動くほど根性がある地縛霊だったら人違いで関係ない人を祟り殺しかねないし、移動しながら違う場所で人を死なせた場合、地縛霊だと鉄道会社側も思わなくて退魔協会への依頼が遅れるかもだ。


人間が作った決まりばかりに従って、助けられる時に人助けしない癖をつけるとカルマに悪影響がありそうだし、ちょっとした善意の無料祓いはバレなきゃいいでしょう。



そんな事を考えつつ大学に行き、帰りに探したらあの霊は階段を下り切って通路にいた。


「5時間ぐらいで半分近く残っていた階段を下り切るとなると、動かない筈の存在としてはかなりハイペースに移動しているね」

帰りに待ち合わせて合流した碧が微妙な表情をしつつ低い声で言った。


「だねぇ。

次に大学に行く日まで放置してたら見失いそうだから、暫くは毎日交代で見に来ようか。

と言うか、立ち止まっても人の邪魔にならない所に移動してくれたら、そこで携帯で話している振りでもしながら何をやっているのか聞いたら良いかも」


「そうね。

取り敢えず、明日にどっちの方向へ何処まで動いているか、要確認だね」

碧が頷いた。


もしかして、お盆で出てきて帰り損ねた迷子霊で、お墓がある所まで電車で帰ろうとしているとかだったら笑えるけど・・・多分違うんだろうなぁ。

ちゃんと埋葬して祈られている霊にしちゃあちょっと全体的に影がある。


願わくは、変にパワーアップする前に話を聞く機会が出てくると期待しよう。





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