第1002話 プライバシーポリシー
「うざ〜」
起床後に携帯をチェックしてスマートウォッチと連動するアプリを立ち上げたら、なにやらプライバシーポリシー更新のお知らせが来ていた。
なんか、こう言うのってこっちに不利になる変更だからこそOKを求めてくるんだろって気がするから『同意しない』をタップしてみたらあっさりアプリが落ちてしまった。
「おい」
もう一度試すが、また同じ流れでアプリが落ち、ホーム場面に戻る。
どうやらスマートウォッチを使い続けたかったらプライバシーポリシーの変更に合意しなきゃいけないらしい。
「どしたの?」
あくびをしながら自分の寝室から出てきた碧が尋ねた。
お、今日は比較的早起きだね。
「スマートウォッチのプライバシーポリシーが変更されたっぽいんだけど、オッケーしないとアプリが起動しないらしい。
これってオッケーしないと使えなくなるって言うなら、スマートウォッチを買い戻してくれって言いたいわ〜」
まじムカつく。
「中国製だからねぇ。
先日の新聞にも中国政府が色々とスマートウォッチ経由の情報を集めてるっぽいって書いてあったなぁ。
しかも、数年前から中国ではホワイトハッカーが色々なソフトの脆弱性を見つけた際に公表するのも禁じたらしいんだって。
国にまず報告せよって法律で定めたんだけど、それ以来中国発らしきハッカーに欧米の政府機関や企業がサイバー攻撃を受ける数が10倍以上増えたって記事にあったし」
顔を顰めながら碧が言った。
「うわ。
なりふり構わないと言うか情け容赦ないと言うか、凄いね。
碧はスマートウォッチを買うなら高くても絶対にアメリカ製か日本製のにした方が良いね」
とは言え、アメリカのリンゴ社なんかは製造をほとんど中国でやっているみたいだけど・・・アプリに関しては本国側で管理してるだろうから大丈夫だよね??
「まあ、私は海外旅行はするつもりが無いし白龍さまの加護があるから良いけど・・・研究者とかプログラマーとか政府の機密情報を知っている様な立場にある人間がうっかり安物のスマートウォッチを買ったら、マジで誘拐されたりして」
碧が溜め息を吐きながら言った。
マジでねぇ。
うっかり旅行で中国に足を踏み入れたりしたら『スパイだ』って事にされて逮捕されそう。
私だってある意味碧を釣るための餌として使えるかもって思われかねない。流石に自国外での誘拐は躊躇するかもだけど、日本国内でも人目がないところに行く場合はしっかり周囲を警戒して、変に近づいて来る人間がいたら先手必勝で相手を眠らせちゃおう。
眠りにつくだけならそこでうっかり車に轢かれたりしない限り害はないんだし。
そんな事を考えつつ、渋々と新しくなったプライバシーポリシーに目を通して、『同意する』にタップする。
「気になるなら買い換えれば?
退魔協会の報酬1回分で十分リンゴ社とか◯ニー社のバカ高いスマートウォッチでも買えるでしょ?」
碧が冷蔵庫を開けてオレンジジュースを出しながら言った。
「そうなんだけど、やっぱねぇ〜。
高いのって抵抗があるんだよね。
なんだってこんなケチに育っちゃったのか、自分でも不思議なんだけど」
黒魔術師時代は生活に自由はなかったが、お金には困っていなかった。
寒村時代ははっきり言って貨幣経済じゃないレベルで村全体が貧しかったのでケチも何もあったもんじゃなかったし。
今世では特にそこまでお金に困った思いもしてない平均的なサラリーマン家庭で育ったんだけどなぁ。
両親が共働きだからお金にはそれ程困っていなかった。
まあ、『お母さん達が稼いだお金なんだから、何でナニソレが欲しいのか、ちゃんと理由を説明して』と言われてお小遣い以上の何かを欲しがるとちゃんと正当化する事を求められたが。
それなりに今思うと『ないだろ〜』と思う様な理由でも意外と母親は根気よく聞いて大抵はオッケーしてくれたから、ケチに育つ理由は無い筈なんだけどねぇ。
15歳で覚醒して、どうやって生きていくかを悩んだせいでその時の将来への不安がまだ少し残っているのかな?
「で?
何が変わってた?」
オレンジジュースを飲み終わったコップをシンクで濯ぎながら碧が聞いてきた。
「さぁ?
元々のプライバシーポリシーを覚えてないから何とも言えないけど・・・私の個人情報を第三者に『販売』しませんって書いてあるところがなんともなぁ。
どうせなら『提供しません』って書いて欲しかった」
これって要は中国政府には無料で提供しますって事だよねぇ。
どの程度の頻度で中国政府って情報提供を求めてるんだろ?
あの国だったら見境なくかき集めた情報を全部AIに流し込んで、それを教育する糧に使ってそう。
まあ、碧の情報があっちに流れない限り私の情報なんて蟻んこの位置情報と同じで全く何の価値もない扱いになると思うけど。
いつかAIががっつり進化したら『餌として有用』なんて情報が上がっていきそうで、ちょっと怖い。
今持っているスマートウォッチが壊れたら、次は買い替えるとしたらリンゴ社のにしようかなぁ・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます