頑張り過ぎないのも大事

第1001話 シロアリ駆除詐欺モドキ扱い

「ありゃま」

珍しく大学に行くタイミングが合った碧と一緒に電車に乗ろうと駅に来ていたら、電車が来る方を見ていた碧が小さく声を上げた。


「どったん?」

振り返って碧が見ている方に目をやる。


「なんか地縛霊っぽいのがプラットフォームにいる」

碧がそっと隠れて指差した方を見たら、確かに何やら半透明な影がゆらゆらとプラットフォームの端に佇んでいた。


過去に飛び込み自殺した人の霊かなぁ。

それとも体調が悪くて死ぬ気が無かったのにプラットフォームの端で倒れて、線路に落ちて運悪く死んじゃった人?


「うわぁ。

あれって駅員さんにでも注意喚起するべきかな?」

一応、あそこら辺でフラフラしている人が居たら端から引き離すとか、なんだったら水漏れ対策っぽい感じにプラスチックのコーンでも置いて隔離したらどうかね?


碧が溜め息を吐いた。

「よく聞く詐欺の手口で、戸建てに住んでいる人に突然業者みたいな格好をした人が来て『近所でシロアリが出たのの駆除に来ました。他の家にも広がっていないか確認しますよと声を掛けているところなんですが、家の床下を点検させていただいて良いですか?』って言ってくるって話あるじゃん?」


突然なんか違うことを言い出した碧に首を傾げつつも、実家でも聞いたことがある話なので頷く。

「ああ、実家の町内会でも注意喚起のチラシが回ってきてたね。勝手に調べにきて、シロアリが居ますって言った上で『ちょうど今だったら道具もありますし、今直ぐやるんでしたら割引しますよ』って言って数万とか十数万をぼったくって何やら薬っぽい物を撒いて姿を消すってやつでしょ?

で、実際に後日床下を調べたら実はシロアリなんて最初から居なかったってやつ」


シロアリ被害は戸建てには致命的らしいし、床下なんぞ自分で潜って調べるのは嫌な人が多いだろうからねぇ。

それでも『居ます』って言われるだけで何万円もの金を突然姿を現した相手に払うか??とも思ったものだ。


やっぱ、主婦って『割引』って言葉に弱いんかなぁ。


「シロアリ被害だったら少なくとも後日別の業者を呼んで被害の実態確認が出来るじゃん?

拝み屋詐欺の場合だと後日確認は不可能だし、依頼する羽目になる駅員なり鉄道会社の職員なりが現場に行ってもよっぽどの偶然で霊感体質だったり、自分も飛び込み自殺を考えているぐらい弱っているんじゃない限り悪霊を感じ取れない可能性が高いし、なんだったら私らが注意喚起したから後日に別の専門家に確認依頼しようと思っても来るのは最初に言いがかりをつけてきた連中と同じ団体の人間。

信じる気がない相手だと、私らの注意喚起って要は詐欺か言い掛かりなんだよね」

碧が指摘した。


言われてみたら、確かに。

それこそ、水漏れ注意って書いて囲っておくのだっていつまでも放置する訳にはいかないし、何も言わずに囲って人が近付かない様にするのも確かに怪しげで風評被害が起きるかもだよね。


「言われてみれば、ウチらの職業ってマジで詐欺師と本物の違いの証明が難しいね。

つまり、ヤバそうな悪霊を見掛けても注意喚起しちゃダメなんだ?」

なんかそれで誰かが死んじゃったら後味悪いけど。


「そ〜。

誰かが取り憑かれてヤバそうだったら、プラットフォームの端から真ん中まで適当な理由をつけて引っ張り寄せるとか、虫でも居た振りをしてパパッと叩いて追い出す程度が精々かなぁ。

幸い、ここはホームドアが整備されたから飛び降りにくいし、時間の経過で霊が褪せる可能性もゼロではないからね」

碧が溜め息を吐きながら言った。


「そっか。

まあ、流石に街中の悪霊を目につく度に祓って回る訳にもいかないしねぇ」

きりがないし、無料奉仕は退魔協会に怒られる。


「それに、下手にこんな目立つところでやって『善意で無料奉仕してくれる腕利き退魔師』なんて感じにネットで身バレするとヤバイよ〜。

自分も助けてくれって言ってくる連中がガンガン湧いてくるらしい。

しかも、そう言う連中って街中で無料奉仕してたんだから、自分も無料で助けてくれるよねって当然の権利的に助けろって主張してくるんだって」

碧が言った。


うげ。

まあ、無料で街の地縛霊を祓っているのを目撃したってネットに出たなら自分も助けろって言うだろうねぇ。


しかもそう言うのを信じるのって若い世代が多いだろうからお金もあまり持って無いだろうし、無いから迷惑行為をされて名誉毀損とかで訴えても何も返ってこなさそう。


「凛だったら使い魔経由で遠隔祓いが出来るかもだけど、実際にその場で祝詞を唱えなきゃいけない人間には駅とかの地縛霊はマジで地雷って感じだね。

誰かが亡くなって鉄道会社が依頼に踏み切るまでは手を出せないけど目につくから、実際に飛び込めちゃうようなヤバいところだと通学経路を変える方が良いぐらい」

碧が溜め息を吐いた。


うわぁ。

中々切ないね。

まあ、ホームドアのお陰でここではそう簡単に飛び込めないし、あれを乗り越えて飛び込もうとする人間が何人も出たら鉄道会社も悪霊を疑うかもだから、我慢して待ってれば何とかなるかも?




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