第999話 女の戦い?

呪詛返しの転嫁を心配する必要がなかったので、ちゃちゃっと碧が祝詞を唱えて呪詛に触れ、返した。


殆ど呪詛って言うよりはマジで悪戯や嫌がらせ程度な術だったから、退魔師なんて使わなくてもマジで適当な神社でお祓い・・・どころかそれこそ藤山家の諏訪神社クラスだったら境内に入るだけで吹き飛んじゃったかも。


本人も全然気にして居なかったみたいだし、なんだって態々祓う為に退魔師を呼んだのか、ちょっと不明な感じがする。


「ありがとう。

ちょっとお茶でも飲んで行かない?

ホテルに入っている喫茶店のケーキもルームサービスで頼めるらしいのよ。

折角だから付き合ってくれると嬉しいわ」


碧が終わったところでにっこりと笑いながら依頼主が言ってきた。


へぇぇ?

この高級ホテルに入った喫茶店のケーキだったら美味しそう。


ちらっと碧がこちらを見たので大きく頷いておく。


「よろしいのでしたら、是非!」

碧が嬉しそうに返す。


「もう直ぐお昼の時間だし、軽くサンドイッチかオムレツでもついでに頼んではどうかしら?

それとも若い人だったらお昼はしっかりとステーキでも食べたい?

焼肉店の牛タンもありかもだわね」

依頼主が複数のメニューを手に提案して来た。


そう言えば、仙台って牛タンが有名なんだっけ?

牛だったら北海道とか神戸とかの方が多そうだけど、なんだって仙台で牛タンが人気なのかちょっと不思議だ。まあどちらにせよ流石に昼から焼肉は要らないかな。


ぐいっとメニューを渡されたのでパラパラとめくり、美味しそうだったオムレツをお願いすることにした。


良いんかね?

この依頼主だったら近所付き合いとか友人関係の構築とかもしっかりちゃんと出来ていて、一緒に食事を楽しむ相手が居ないなんて事は無いと思うが。


それともご老人だとどんどん友人が死んでっちゃうんかも?

いや、それこそ田舎だったら親戚付き合いだけでもどっかり人が居そう。


まあ、なんであれ。奢りたいって言うなら食べさせてもらおう。

朝早くから新幹線に乗って来たから、お腹は空いてるんだよね。


碧は焦げ目の美味しそうな写真が載っているホットサンドを頼んでいた。

そんでもって食後用に私がレアチーズケーキと紅茶、碧はショートケーキとコーヒー。


依頼主はサンドイッチとババロアとコーヒーを頼んでいた。


「ここら辺の旧家って昔大名家やその分家や家老家に嫁いだ京都の旧家の血と知識を伝えているから、緩い嫌がらせ程度の呪詛って自力で使える人が多いのよねぇ」

美味しい軽食を食べ終わり、ゆったりと食後のお茶やコーヒーを飲みながら依頼主が教えてくれた。


「呪詛で嫌がらせ、ですか?」

碧がちょっと意外そうに目を丸くしながら聞き返す。

退魔師の血を引いていたら色々見えても不思議はないが、呪詛って嫌がらせに使うもんじゃあないよねぇ。


「退魔師じゃ無くて歴史が古いだけな貧乏公家の娘よ?

皆で挨拶がわりに呪いを掛け合う様なドロドロで不毛な争いを2千年近くもやって来た様な連中だから。

不妊の呪詛とか体調がちょっと悪くなる呪詛とか、色々とあったらしいわ。

嫁に入ると神社へお参りに行くのが認められる時期も限られているから、それに引っ掛からないような期間限定で、かつうっかり返されても自分が死なない程度の弱さを上手く見極めて使うのが腕の見せ所だったんですって」


薄っすらと笑いながら依頼主が教えてくれた。


うわ〜。


と言うか、大名って妻子は江戸に留められてたよね?

そうなると他の大名家の妻子ともバチバチやってたんかな?

本家と分家の張り合いとかもあったかもだし、本家で子が成人しなければ分家から養子入りの道が開くし。


でも、考えてみたら仙台の大名って明治維新の時に政府に逆らって負けたんじゃなかったっけ?

それともちょっと場所が違う?


まあ公家の血を引いているなら上手い事裏で手を回して女子供は生き延びたとか政府派の名家にしらっと嫁入りしていたとか、色々あるのかも。


呪詛をそこまで巧みに女の戦いで使い分ける連中なら、上手い事生き残ったんだろうね。

呪詛って言うよりは普通の魔術の世界に近そう。

それでも倍返しになるのは、魔素が足りない分を呪詛と言う形にして補っているからかな?


ある意味、その頃の術の教えとかを研究できたら面白そう。

まあ、女性同士の戦いって事でかなりスケールはみみっちいっぽいが。

その分陰湿かもだけど。


「一応うちの一族の人間もある程度は学ぶ気がある人間には危険が少ないものだけは教えてきたんだけど、どうも娘が嫌がらせ・・・と言うか我儘を通す為に使う様になっちゃって。

良い年した大人なんだから、返されたらどうなるか、一度しっかり味わって貰うことにしたの」

食べ終わったババロアのお皿を押しやりながら依頼主が言った。


「自分に教えてくれた相手に掛けるなんて、何を考えているんでしょう?」

碧が首を傾げながら返す。


「一応教えたのは私の妹だったから、もしかしたら私は知らないと思ったのかしら?

忙しかったし本当に危険な術は教えるつもりは無かったから妹に頼んでおいたんだけど。

まあ、蟻程度だったら問題はないでしょう。

嫌だったらクルーズ船にでも乗って世界一周旅行でもしてくればいいのよ」

肩を竦めながら依頼主が言った。


あれ?

依頼主が嫁入りしたんじゃなくって、女総領だったの?

まあ、奥様方の呪詛を上手く使って生き延びて来た旧家だったら女系で婿を取って栄えて来た可能性もあるかな?


よう知らんけど。


「でもまあ、自分の我儘を通す為に掛けた嫌がらせの呪詛の返しを転嫁させる程腐っていなくて良かったわ。

転嫁なんてさせているようだったらそれこそ遺言書を書き換えようかと思っていたの」

小さくほっと息を溢しながら依頼主が言った。


なる程ね。

それで態々退魔師を呼んだんか。

まあ、家族内の争いみたいのでとばっちりが他に行くのも避けたかったって言うのもあるんだろうけど。


金持ちは金持ちで、色々と大変だね〜。

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