第997話 本格的にホラーな呪い
『ちょっと地方に住む方から呪詛を掛けられた疑いが強いと依頼が入りました。ただ、呪詛返しの転嫁に関する注意喚起を受けたところだったせいか、呪詛を返す依頼も確実に転嫁を回避して呪詛を掛けた人間に返せる退魔師に願いたいと指定されまして。
長谷川さんにお願いできますでしょうか?』
電話先はいつもの遠藤氏だった。
退魔協会の職員って何人か居るんだけど、最近は遠藤氏からの連絡が多い。彼が快適生活ラボの担当にでもなったのかね?
それとも遠藤氏個人が私達が使い勝手が良いと判断して自分が担当になった案件を優先的にこっちに振り分けているのか。
それ程無茶な事は言ってこないから以前私に嫌がらせをした女性の様な変な職員が担当になるよりはマシだが、依頼はあまり今以上は増えない方が良いんだけどな。
適当に暮らしていければ良い程度しか仕事はしたくないなぁ。
退魔師の仕事って人間社会の嫌な面をまざまざと見せつけられる事が多いし。
「泊まりになりそうなんですか?」
ホテルや旅館のエアコンって温度設定が微妙だったり、空調の音が煩かったり、乾燥しすぎだったりって感じでイマイチ安眠できない事が多いから、温泉旅館にでも行くっていうならまだしも仕事では日帰りにしたいぞ。
まあ、どうしても避けられないなら泊まるところを温泉旅館にするという手もあるけど。
『早朝に起きて夜の帰宅が遅めになっても構わないのでしたら、新幹線を使えば日帰りも十分可能だと思われます』
遠藤氏が答えた。
考えてみたら今の日本だったらよっぽど辺鄙な所じゃない限り、日帰りが無理な場所ってあまりないかな?
乗り継ぎとかが悪かったら厳しいかもだけど、新幹線の停車駅からレンタカーで行けば大抵のところなら大丈夫・・・だと思いたい。
「私たちはつい先日依頼を終えたばかりなのに、また直ぐに依頼ですか。
ちょっと依頼が偏ってませんか?」
碧が口を挟む。
だよねぇ。
もうそろそろ夏休みも終わりだし、折角夜が過ごしやすくなったから学期が始まる前に諏訪に行くのもありかな〜なんて話をしてたのに。
『何分呪詛返しの転嫁の問題で色々と調べたりやり方を変える必要が出てきた上、呪詛返しの転嫁先にされていないか確認してほしいと言う依頼も多く・・・。
お願い出来ませんか?』
遠藤氏がちょっと済まなそうに頼んできた。
いつもは淡々とした話し方の人なのに、そんだけ困っているんかね?
まあ、今までは呪詛返しも転嫁を回避できるか否かを指定しない依頼が殆どだったから退魔師なら誰でも請けられたのに、急に実質黒魔術師系じゃないとダメって指定する客が増えると厳しいよね。
そう考えると、ちょっと面倒だからってあまりゴネたら恨まれそうかな。
「ちなみに呪詛返しの転嫁先を探したりはしなくて良いんですね?」
あれは被害者を選ぶし、時間が掛かるからねぇ。
『大丈夫です。
直ぐそばの人間に転嫁されている様だったら教えてほしいとの事ですが、視界に入らない場合は気にしなくて良いとの事です』
そんじゃあ、よっぽど交通の便が悪くない限り日帰り出来そうかな?
碧を見たら肩を竦めたのでしょうがないので依頼を受けることにした。
「分かりました。
どちらにいつ向かえば良いんですか?」
地方なら車での送迎はあっても最寄駅程度だから、レンタカーの手配も必要かな?
『仙台駅の直ぐそばにあるホテルの33階に滞在中ですので、そちらへ向かって下さい』
はぁ?
「ホテルに滞在中って・・・海外の人なんですか?」
いや、海外の人間だったら成田とか羽田とかのホテルに居るか。
よっぽど辺鄙なところにいるから遠慮して街中に出て来てくれてるの??
ちょっと意外すぎるぞ。
有難いっちゃあ有難いけど。
『・・・実は、どうも蟻を引き寄せる呪詛らしく。超高層の部屋に居ないとバルサ◯を炊いてもどんどん蟻が寄ってくるそうで、出来るだけ高層なホテルを探して泊まっているそうです』
うげぇぇぇぇぇ。
まじ?!?!
蟻に集られる呪詛ってなにそれ?!?!
それって最終的には蟻に噛まれて死んじゃうの??
それとも単に只管蟻が寄ってきてノイローゼになるのが狙い??
どちらにせよ、嫌すぎる呪いだね。
と言うか、それって周辺に居る人にとっても良い迷惑だね。
被害者本人の周辺の人も可哀想だけど、呪詛返しをしたら呪った諸悪の根源の人の側に居る人が可哀想すぎるかも。
しかもこれって呪詛が尽きないとしたらどうなるんだ?
もしかして、マジで蟻に襲われて死んじゃうのかな?
前世では魔物や野犬なんかに襲われやすくなるタイプの呪詛や、家猫に嫌われる呪いもあったけど、流石に蟻って言うのは見たことがない。
マジで呪詛返しの後の惨状は知らない方が良いかも・・・。
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