ささやかだけどホラーな呪い
第996話 秋へ小さな短い一歩
「あれ?
ベランダに鈴虫がいるみたい?」
ここ数日、曇りがちな上に風が少し強めなせいか夜になったらそれなりに気温が下がってきた。
ベランダに置いてある温度計を見ると28度となっていたのでクーラーを止めて窓を開けていたら、秋の虫の音がすぐ傍から聞こえてきた。
「え??
まじ?」
碧が驚いたようにお皿洗いをしていた台所から手を拭きながら出てきた。
「道からの音にしては近いでしょ?」
4階でも意外と地面にある植え込みとかで生きているらしき鈴虫とかの音が秋になると聞こえてくるのだが、もうそんな季節なのか。
今年の夏もウンザリするほど暑かったけど、東京では去年よりはマシかな?
緑のカーテンとして育ててる朝顔もちゃんと花が種をつけているし。
去年は暑すぎたのか、9月後半になるまで種がならなかったんだよねぇ。
何かの病気かと思ったんだけど、ネットで調べると暑過ぎるとそう云うこともあるとの事だった。
今年だって十分暑いと思うんだけど、去年よりはマシなのかも知れない。
実感は湧かないが。
それはさておき。
窓辺で耳を傾けていた碧がちょっと首を傾げた。
「確かにベランダに居ると思うけど、鈴虫とはちょっと違わない?」
まあ、秋に比較的綺麗な音を出す虫は何種類かいるらしいから、鈴虫って言ったのは単にそれしか私が名前を知らないからなんだよね。
基本的に虫が嫌いな私は庭から綺麗っぽい音が聞こえようとその音を出している虫を探そうとか捕まえようとかしたことは無かったし。
兄貴が小学生の頃は一時期色々と家で虫を育てようとしていたらしいが、私が虫を嫌いになるぐらいに自我を確立する頃には兄貴がそのフェーズから卒業してくれていたので、虫はあまり馴染みがないんだよね。
嫌いなだけで。
「う〜ん、どれかな?」
碧がタブレットで何か探し始めたと思ったら、秋っぽい虫の音色が色々と聞こえ始めた。
へぇぇ。
本当だ、微妙に音が違うんだね。
そんでもって確かにベランダから流れてくる音は鈴虫じゃあないや。
「あ、これじゃない?」
色々な虫の音が鳴った後にベランダから流れてくるのとほぼ同じような音がタブレットから聞こえてきた。
「だね!
エンマコオロギだって」
碧が虫の映像を見せてくれた。
「・・・ちょっと後ろ足の大きなGの親戚っぽく見えない??」
鈴虫の方がもっと可愛い感じなのに。
何だってうちに来るのはGの親戚っぽいのなの??
「まあ、茶色い羽がある虫って比較的みんなGに似て見えると言えなくもないけど・・・。
コオロギだから」
碧が宥めるように言った。
「コオロギねぇ。
あんまり縁がなかったけど、そう言えばコオロギとバッタって何が違うんだっけ?
なんか似た印象だけど」
「大きな分類では同じ科なんじゃなかったっけ?
だけどそれ程高くまで飛べる訳じゃなかったと思うから、どうやってベランダまで来たのか不思議だね」
碧がベランダを見回しながら首を傾げた。
「こないだ買ったクチナシの植木鉢に卵か幼生が居たんかも?
・・・だとしたら、園芸用殺虫剤を撒いて良い?」
Gだったら問答無用で殺処分だけど、コオロギもあまり見たくない。
音だけだったら綺麗っちゃあ綺麗だけど、音を聞くとGの親戚っぽい虫がベランダに居ると意識するんでちょっと嫌だわ。
「え、コオロギ嫌いなの??
捕まえて虫除けの一部に含めた方が良い?」
碧がちょっと首を傾げながら尋ねる。
どうやら碧的にはコオロギは敵ではないらしい。
でも、私が嫌うなら排除も辞さないってところかな?
友人甲斐があって嬉しいよ、ありがとう。
「コオロギ1匹なら良いけどさ、1匹分の卵なり幼生なりがいたなら、もっと居ても不思議はないじゃん?
そうなると天敵がいないこのベランダに増えまくりそうで、嫌なんだよね。
流石に1匹だったら見つけ出して殲滅だ!とまでは言わないけど、薬を撒いて死んだらそれはそれで良いかなって感じで消極的ながらも繁栄できないようにしたい」
ある意味、雉も鳴かずば撃たれまいと同じで、コオロギも鳴かずば殺されまいってところだ。折角綺麗な音なので現時点で殲滅しないでも良いが、殺虫剤を撒いておいて少なくとも幼生は無事に育てないぐらいにはしておきたい。
Gは1匹いたら10匹いると思えって言うが、虫ってどれも『大量に卵を産んで、孵った幼生のどれかが生き残って卵を産めればラッキ〜』系な多産多死系戦略の生き物でしょ?
「まあ、確かにコオロギがワラワラとベランダに湧いていたらそれは嫌かもね。
取り敢えず園芸用殺虫剤を植木鉢に撒いて、それでも来年にワラワラ繁殖したら虫除けの生体
碧があっさり頷いて合意した。
と言う事で翌朝に園芸用殺虫剤を適当に植木鉢の中に撒いておいた。
コオロギの姿は見当たらないけど、どこにいるんだろ?
夜になったらまた音がしていたが、寝る前には止まっていた。
殺虫剤を食べたのかな?
あれって直接虫が食べるものなの??
薬が水に溶けて植物に吸収され、それを食べた虫の成長を阻害するんだと思っていたので、そこまで即効性があるとは思っていなかったんだけど。
次の朝、見回してみたらベランダの床にコオロギの死骸があった。
どうやら本当に殺虫剤の粒を食べちゃったみたい?
子孫さえ残さなければ今年の夏だけならここで生きるのも許容するつもりだったんだけど、まああの音を鳴らすのも交尾して子孫を残すためなんだろうから、しょうがないよね。
「虫って何で死ぬ時にひっくり返るんだろうね?」
死骸を一緒になって観察していた碧が呟く。
「羽が重いのかね?
死んでみると脚を伸ばして死ぬせいか、大分とGとは違う感じになるね」
Gは脚を縮めた感じに死ぬのに、なんでコオロギは脚を伸ばして死ぬんだろ?
不思議だ。
「雨の後に道に出てるミミズ以外、あまり虫の死骸ってマジマジと観察したことが無かったんだけど・・・言われてみたらそうだね〜。
お?
退魔協会の電話だ」
部屋の中から聞こえてきた電話の着信音に碧が立ち上がった。
また仕事かぁ。
ちょっと最近依頼が多いね。
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カクヨムさんで別に書いている短めに終わる予定(希望!)な話の最新話をアップしました。
前回がちょっと中身が薄かった気がしたのでもう少し書きました。良かったら読んでみて下さい。
https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678
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