第166話 こっそり襲撃:リリース

ぐったりと意識の無い斑鳩颯人を後部座席に寄り掛からせ、精神干渉の術をそっと伸ばして挿入していく。


ここ数日の行動はクルミが監視していたが、内面的な部分は分からないので私への執着を強めるような何かがあったならその記憶にも手を加える必要がある。


「どう?」

碧が車を運転しながら声を掛けてくる。


「何とかなりそう」

黒魔術の適性がなくても自分の精神への干渉はそれなりに防御する術があるのだが、どうもこちらの世界では陰陽師の家系ですらそう言う術はあまり伝わっていないようだ。


これじゃあ黒魔術の適性持ちが力を悪用した際の被害が大きくなるから何とかした方がいいんじゃないかとも思うんだけど・・・自分が精神干渉出来る事とか、前世の魔術師としての記憶がある事とかを開示せずに対応手段を人に教えられそうにないからなぁ。


大きな問題が起きているようだったら、白龍さまに教わったとでも碧に嘘をついてもらうかな。

どうも、白龍さまは人のための罪の無い嘘もあまり好ましく思っていないみたいで、現状で問題ないなら『悪いことが起きる知れないから』程度の状況で碧に嘘を吐かせるのを嫌がるんだよねぇ。


まあ、小さな罪のない嘘でもしょっちゅう嘘をついていると嘘が習慣化するかも知れないしね。

嘘をつくとカルマにもマイナス査定が掛かるかも知れないし、現時点では無理に情報を拡散する必要もないかな?


どうせ黒魔術で意思に干渉しなくても、金の力っていうのは人の良心や倫理観を容易く歪めるし。


それはさておき。

斑鳩氏の記憶を読んでいったところ、どうも母親とのやり取りで不快な思いをするとその度に比較対象として私の記憶が美化されているようだった。

困ったもんだね。

母親とのやり取りの最中に私の事を思い浮かべる必要はないだろう。なので、そう言う場面で私の事を思い出した記憶を削除。


記憶の時間を遡り、興信所からの電話があった際の記憶では『もう止めるべきかな』とチラリと考えた記憶も強めておいた。


更に記憶を辿っていく。

なんか、まるで子供がお気に入りな縫いぐるみを抱き締めて心を落ち着かせるように、斑鳩氏は女性(大抵は母親、あと2〜3割ぐらいは次の斑鳩家当主夫人を目指す若い女性達)とのやり取りで不快な思いをする度に私の事を思い出している。


何をやってんのよ〜。

勝手に人を心の拠り所にするんじゃない!!

しかも私一人では会いたがらないかもと碧もどうぞって・・・ヘタレ過ぎるぞ。

碧との関係を利用しているのかと最初は思ったのが、単なるヘタレだったとは想定外だ。

碧を使おうとする為に粘着するのは変なのとは思ったんだよねぇ。


手当たり次第に、意味もなく私の事を思い出して美化している記憶は全部消しまくる。


2時間近く掛けて注意深く精神干渉をやっていって、やっと我々の出会いの記憶までたどり着いた。


私の素気ない対応に抱いた期待と好意を弱め、ちょっとした興味程度に変える。

更に威圧の記憶を二人があった記憶の裏・・・と言うか背景・・・と言うか潜在意識の下に挿入して、漠然と居心地が悪く感じるようにした。


幸い興信所から断られた後は、どうするかまだ考えていただけなので次にステップは取っていないようので、このまま私が記憶の中からフェードアウトしても周囲の人間は然程違和感を覚えないだろう。


この後数日クルミに監視を続けさせて、落ち着きそうだったらそれで良い。

ダメだったら・・・ちょっとしたひったくり事件でも起こして頭を殴り、どさくさ紛れに祝賀会からの記憶を削除するしか無い。


そこまでいかない事を期待したいね。

「終わった〜。

斑鳩家の近くまでお願い」

碧に声をかける。


「オッケ〜」

ウィンカーを出して車を左折させながら碧が答えた。

お。

意外と斑鳩家に近かったらしい。

もう直ぐだ。


「じゃあ、これを飲んで」

水筒に入れてきたかなり強いカクテルを差し出して、斑鳩氏に飲ませる。

ついでに多少それを服にかけて、飲み過ぎたかのように酒臭くする。


「このまま家に入ってシャワーを浴びて寝なさい。

あなたは飲みすぎてちょっと意識が朦朧としているの」

少しばかり魔力を込めてこの先5分程度の行動を命じ、停車した車の扉を開けて斑鳩氏を押し出した。


そっと斑鳩氏に接触しないように碧は車を発進させる。


後ろを振り返って見たところ、ふらふらした足で斑鳩氏は実家の玄関の方へ向かっていた。


これで全て片付いてくれると、心底願っているよ〜。

さっさと私の事は忘れてくれ。











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