第156話 ランクアップの実情
残念ながら自己紹介の仕方から推測すると私の両隣はどちらも家系を気にする男っぽかった。
まあ、単に旧家の息子で何番目の子かを明示する自己紹介の仕方が常識だと教わって育っただけでいい人の可能性もゼロでは無いが。
どちらにせよ、旧家の長男は絶対に遠慮したいので左隣は軽く挨拶をするだけでスルーして、右隣の三男だと言うの倉橋氏とその向こうの小笠原さんとやらと話をする事にした。
考えてみたら、今時三男なんて珍しいよね。
旧家だと一族を増やす為に沢山産む様プレッシャーを掛けられるのかな?
ウザ!
マジで男が妊娠して産休を取る世界だったら良いのに。
残念ながらこれは前世の魔術も今世の科学も、成功してないんだよねぇ。
「私は今年登録したばかりの新米なんです。分からない事も多々あると思うのでよかったら色々教えて下さい」
笑顔は小笠原さんの方へ向ける様な意識で笑いかけながら二人に声をかける。
男の方に笑いかけて、気があると誤解されると面倒だからね。
話し掛ける際に固い顔をして笑わないのはダメだが、笑顔は出来るだけ女性に向けた方が無難だと言うのが私が前世で学んだ処世術だった。
下手に王族や貴族の男性に向かって微笑みかけると、そのまま何処かの部屋に連れ込まれて暴行を振るわれそうになっても『誘ったのが悪い』と言われるのが階級社会である。
私の場合は基本的に相手を眠らせて逃げたが(流石に暴行から身を守る為に能力を使うのは制約されていなかった)、焦って上手く魔術を使えずにボロボロにされた同僚もいた。
黒魔術師でない場合は角を立てずに逃げる難易度が上がったし。
それはさておき。
「僕も去年登録したばかりだからね。
それ程色々知っている訳じゃないけど、よろしく」
倉橋氏がにこやかに応じた。
「わたくしも今年登録したばかりのですの。
とは言え、見習いとして2年ほど親戚の退魔師と一緒に除霊に参加して居ましたので、場合によっては何か教えられるかも知れませんわね。
見習い期間無しで今年登録して既にランクアップしているなんて、優秀ですのね。
あまり若い優秀な退魔師に知り合う機会が無かったのですが、これからよろしくお願い出来ると嬉しいですわ」
一般人だと思っていた小笠原さんが想定外にお嬢様チックな話し方で会話に参加してきた。
あれ???
彼女も良家のお嬢さま??
まあ、自己紹介は簡潔だったしそれなりにフレンドリーな感じに会話に参加しているから大丈夫だと思おう。
「あ〜、一緒に組んでいる人と事務所を設立して登録したから、最初から個人じゃなくって事務所の仕事として依頼が来るみたいで。
初心者向けじゃないちょっと難易度が高そうな案件が多かったからポイントが高かったのかも?
でも、そう言うのって私一人で解決している訳じゃないのに良いんでしょうかね?」
ついでなので気になっていた事を聞いた。
先程入り口のそばで蓮少年に聞いたところ、明らかに彼の扱った案件は私達がやってきたのよりも難易度が低く、代わりにランクアップに必要だった件数が多かった。
私の関与した案件は難易度が高い分評価ポイントが高くて比較的早いランクアップに繋がったんだろうが、碧が殆どの作業をしていた場合、私は実力にそぐわないランクを与えられてしまう事になるけど・・・良いのだろうか?
「ああ、それねぇ。
難易度が高い仕事が紹介されると言う事は、それを熟るだけの実力がある人がその事務所に居るという訳だろう?
その人物が新規退魔師の実力を判断して仕事での貢献度を退魔協会に報告し、それを元にランクアップの査定がされるらしい。
一緒に働いている先輩退魔師が誰よりも実力を正しく理解していると言う想定に基づいたシステムなんだって」
倉橋氏が教えてくれた。
「ですので過保護な一族が多い事務所にいるといつまで経っても実力を必要とする様な案件に携われなくてランクアップが遅れますし、早くランクアップする事を重視する様な家系の若様みたいのだと周囲が変に忖度して実力以上の評価になる事もあったりで、それなりに問題があるのですけどね」
小笠原さんが付け加えた。
なるほど。
「う〜ん、じゃあ下手に他の事務所の退魔師と協力して働く事になると危険かもって事なんですね」
碧がソロで働くって退魔協会に主張する訳だ。
まあ、彼女の場合は相手の実力と関係ない部分で問題が起きたらしいけど。
それはそれで結果として私と組もうとなったんで、私にとってはラッキーだったな。
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