第149話 求む、被験者
「可愛い〜」
青木氏に安眠祈願のお守りの被験者になれる様な知り合いが居ないか聞くついでに久しぶりに子猫達を見ようと不動産屋のオフィスに来たのだが、碧がすっかり子猫達の遊ぶ姿に魅了されてガラスに張り付いている。
「あんまり浮気すると源之助に言いつけるぞ〜」
考えてみたら、他の猫の匂いをつけて帰ったら猫ってどう感じるのかな?
猫にとっては見えないところで
でも、奴隷でなくママだと思っているとしたら嫉妬するかな?
「・・・はっ!
そうね、私には源之助いるの。
ごめんなさい、どれだけ可愛くても、私達は一緒になれない運命なの〜!」
なにやら古典の悲恋物語に出てきそうな台詞のパロディっぽい言葉をかけながら碧がガラスから離れる。
「よく見たら、猫が入れ替わってない?」
あんまりはっきり覚えていないが、あの元猫屋敷で保護したのは母猫の他に三毛と茶色の猫っぽい模様の2匹と、白地に黒の斑っぽい子猫だった気がする。
今遊んでいるのは三毛と黒2匹と母猫だけ。
数が減っているし色も違う。
まあ、猫は育つと毛皮の色や模様が変わる事もあるらしいけど。
でもいきなり真っ黒にはならないよね??
中に入ったら、青木氏が待っていた。
「こんにちは〜。
相変わらず猫って可愛いですね」
碧が声をかける。
挨拶としてどうなの、それ?
一応ビジネスの一環として会うんだから、社会人らしい言動を心がけるべきじゃないの??
と思ったのだが、青木氏の猫ラブ度は碧と近かったらしい。
「ですよね!!
三毛は猫風邪になってしまって暫く隔離していたんで出遅れちゃいましたが、他の3匹は良さそうな人達に引き取られたんですよ〜。
寂しくなったなぁと思っていたら今度は可愛い黒猫ちゃんに出会って・・・」
ちょっとデレデレしながら青木氏が答えた。
なるほど。
やはり成長で毛色が変わったのでは無く、違う子猫だったらしい。
「新しい子猫だったんですね。
仲良く遊んでいる様子だったんで、新しい仔なのか毛色が変わったのか、どっちかな〜って思っていたんです」
「管理を任されている賃貸戸建の借主の車の下に残されていたらしくて。
先週来たばかりなんですが、元気そうに遊んでいて、母猫にミルクまで分けて貰っているっぽいんですよ」
笑いながら青木氏が答えた。
へぇぇ。
猫って他の子猫にもミルクをあげたりするのか。
三毛が残っていたからどさくさ紛れに一緒に貰っているのかな?
でも、考えてみたらあの仔達って源之助を買った頃と同じぐらいのサイズだよね。
源之助にミルクを飲ませろとは言われなかったぞ。
ブリーダーだとさっさと売り出す為に早い目に離乳食へ移行するのかな?
「それで、今日はどう言ったご用件で?
何かあの部屋に問題がありましたか?」
会議室っぽいところに通されて席に着いた私達に青木氏が尋ねた。
「今日は部屋とは関係ないご相談なんです。
実は、安眠祈願とか肩凝りに効く健康祈願のお守りとかを作って売ろうかと思っているんです。
丁度いい効き目かどうかを確認する為に不眠症や肩凝りに悩まされていて、退魔師の存在も信じている人を探しているんですが、誰か知りませんか?」
碧が青木氏に聞いた。
「不眠症って程では無いですが、私も時々眠れない時がありますが・・・最近は子猫達のライブカメラを見ていると気がついたら寝付いていますね。
他の仲間にも勧めているんですが、猫に興味がない哀れな人間もいるんで、そう言った連中ではどうでしょう?」
青木氏が答えた。
猫のライブカメラ中継で気持ちがまったりして眠れるんだね。安眠符と効果は近い。
とは言え。
夜って人間がそばにいないと子猫は遊んでいるのかな、それとも寝てるのか?
猫は夜行性の筈だけど、睡眠時間がやたらと長いとも聞く。
早朝に起きてるのは知っているけど、源之助が夜中に私の安眠を邪魔しに来ないことを考えると夜も寝ていると思うだが・・・寝てる子猫の姿を見ているだけでも眠れるんかね?
しかも明るいままじゃあ睡眠の邪魔だろうからそれなりに暗くしているだろうに。
暗視カメラでも使ってるの??
それとも薄明るい程度の光でぼんやりとモフモフが見えるだけでも十分なのかな?
「その猫に興味がない不眠仲間は退魔師とか符の存在を信じている人なのでしょうか?」
下手に全然信じていない人に効果のある符なんぞ提供して騒がれるのは嫌だよ。
お守りだったら『なんか効く』でも許容されるが、『符』はちょっと洒落で済まなくなる気がする。
『お守り』にしても試行錯誤してるのがバレると一気に神様がかった超常感が薄れるし。
「ええ、業界団体での知り合いですから。
この業界で悪霊に全く縁を持たずに働ける人間は居ませんよ」
青木氏がにこやかに答えた。
そっかぁ。
不動産屋がそんなに退魔師と関係が深いとは。
地縛霊とかって私が思っていた以上に多いらしい。
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