第145話 便利な技能のリスク

「この人、どうして呪師になんてなったのかな?」


呪師の記憶から書類等に隠し場所も確認して家の中を徹底的に探し回り、やはり依頼人の情報がない事が判明して私たちは縛り上げた意識不明な呪師の前で相談していた。


「純粋に収入が良いからみたいね。

元々黒魔術系の適性持ちが出やすい家系で、大叔父さんとやらに呪術を教わってそっちの仕事の伝手も引き継いでやり始めたようね。

早い段階で退魔協会の事も知っていたみたいだけど、手数料を抜かれるのが嫌だったし、悪霊退治や呪詛返しよりも呪詛を掛ける方が報酬が良いし楽だからって事でずっと裏社会で仕事してきたっぽい」

記憶を読み取った中で見えた周辺状況を話す。


別に退魔協会のお偉いさんに裏切られたとか言ったダークな理由がある訳ではなく、単に経済的視点から違法行為の方が金になると判断して呪師になったのだ。

倫理観の薄い家庭だったのかな?

こう言うタイプが黒魔術師の悪評を広めるから迷惑なんだよねぇ。


「ふ〜ん。

強い憎悪とかで絶対に退魔協会や政府に協力しないって思っているんじゃないなら、司法取引モドキな感じで依頼人の似顔絵スケッチの作成に協力させるのも可能なんじゃない?

取り敢えずここは下手に凛の便利さを退魔協会に知らせない方が良いかな。

人の記憶を読める黒魔術師系の適性を持っている人は退魔協会にもいるって噂を聞いたけど、ニュアンス的に後ろ暗い事をやらされてるっぽい感じだったから凛もそれが出来るって知られない方が無難だと思う」

碧が立ち上がりながら言った。


やっぱりそうか。

単なる面白おかしい妄想を適当に噂しているだけの可能性もあるが、退魔協会の微妙な倫理性とかを考えるとあまりおおやけに出来ないような事をやらせている可能性も高そうだ。


下手をすると、記憶を読むだけでなく前世の様な隷属魔術モドキなのを教えられて使う事を強制されるかも知れない。

隷属魔術なんぞ使わなくても金で大多数の人は動かせるんだけど、お偉いさんって自分に財布に入れる為に業務上の金を節約するのが大好きだし、良心の咎めに負けて悪事を内部告発する可能性を潰せたら一石二鳥って事で強制的な手段を使いたがりそうだ。


「そうだね。

こうやって捕まったからには流石に元の裏家業には戻らせないだろうから、信用問題だとか言わせずに何らかの取引をする可能性が高いよね」

一応、資料から『お嬢様』に罠を仕掛ける為に金を払った依頼人が『六本木の若作り』である事は分かっている。

このイメージだけでもそれなりにあの『お嬢様』の家族の誰かが依頼人に心当たりがあるかもだし。


実は、前世には記憶にある映像を点描画として対象者に描かせる術もあった。

脳裏の映像を取り込む魔道具が開発される前に活用されていた術で、本人の絵画的才能と関係なく写真の様な画像を描かせる事が出来るのでそれなりに便利だったらしいのだが・・・私が生まれた時には魔道具の方が普及していたのであの術は教わらなかった。


点描画だとそれなりに描き上げるのに時間がかかるので、ほぼ即時に完成する魔道具の方が圧倒的に便利だったのだ。


現世では魔道具そのものが作れないので、あの術を使えたら便利だったかも・・・と言う気もしないでも無いが、これも『便利すぎて退魔協会に知られない方が良い技能』だろうから、頑張って魔力と時間をかけて魔法陣を開発する程の価値は無い。


記憶から映像を取り出せる術って言うのは今世でも便利そうだし、それこそ治安当局とかからも需要がありそうだけど、便利すぎる私しか使えない術なんてものの情報を広めたら監禁、誘拐、暗殺のどれか(か下手したら全部)のターゲットになりそうだ。


守ってくれる筈の退魔協会が真っ先に監禁あたりをしそうなのが怖すぎるし。

碧のパートナーって事である程度は守られるだろうが、白龍さまが私の為に天罰を落とすぐらい関与するんじゃ無い限り、本気になった権力機構って言うのは手に負えないからねぇ。


取り敢えず、今回の依頼は無事成功したんだし、後は二人で成人男性を車まで担いでいければ、終わりだ。







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