第122話 東京タワー

「2、3時間程度だったら付き合うよ」

精霊や魔素の話で興味が湧いたのか、碧が同行を申し出てきた。

まあ、東京タワーなら都心で直ぐに行けるしね。


「じゃあ明日の朝にでも行く?

大学の授業は無いよね?」

週末よりは平日の朝の方が空いているだろう。


「良いよ〜。

源之助の昼ご飯はタイマーで出す様にしておけばちょっとぐらい遅れても大丈夫だし」

碧が頷いたので、東京タワーのトップデッキツアーのチケットをオンラインで予約しておく。

幸い遠足とか修学旅行とかの予約が入っていなかったのか、あっさり翌朝でも空きがあった。


まあ、今だったら修学旅行はスカイツリーになるのかな?

歴史的な重みとしたら東京タワーだろうが、学生だったら新しい方が文句を言わないだろうしね。


「でもまあ、行っても多分精霊モドキはいないと思うよ?

白龍さまの話から察するに、今の地球で精霊が意識を保てるレベルの魔素はちょっとやそこらじゃあ発生しそうにないみたいだからね」

一応碧に期待しすぎない様、言っておく。


「やっぱり?」

碧が小さく溜め息を吐いた。


「魔素ってエネルギーの前段階の『何か』だから、エネルギーが過剰にあるところで発生しやすいって前世の魔術学院では教わったんだけど、多分魔素が希薄になり過ぎるとその発生プロセスの効率が下がるみたいね。

じゃなきゃ恐竜が絶滅した時代から魔素が復活していない理由が無いと思うから。

そう考えると、あちこちにある火山や、広大な海があってもダメだった魔素や精霊の復活に人間の建てた電波塔程度では全然足りないでしょうね」


「そっかぁ。

精霊を見れたら素敵そうだと思ったんだけど」


精霊ってそこまで素敵な存在でもないんだけどねぇ。

下位精霊は殆ど自我が無いし、上位になると白龍さまクラスの幻獣と同じぐらい膨大なエネルギーを内包しているせいで、人間なんて我々にとっての蟻や良くてペット扱いらしいからねぇ。


人間にとって意思疎通が一番しやすい中位精霊と、契約している魔導師経由で接した事もあったけど・・・気に入って契約した人間以外はそこら辺の石ころと同じ程度にしか興味を持っていなくて、契約者に一言一言全部伝えて貰わないと碌に会話も成立しなかったし。


◆◆◆◆


「全然余剰エネルギーなんか無さそうだね」

ウロウロと東京タワーの敷地を歩き回った後、トップデッキまでエレベーターで上がる。


流石に階段で250メートル登る気は無い。


音声ガイドを軽く聞き流しながら見て回るが、やはり精霊モドキっぽい存在は全然見当たらなかった。


電波や電気の余剰エネルギーも殆ど感じられ無い。

「つうか、今って電波塔としての機能は完全にスカイツリーの方に移行していて、バックアップと観光設備としてしか機能していないみたい?」

案内に目を通していた碧が指摘した。


おっとぉ。

ローカルな電波塔っぽい利用は残っているかと思ったら、バックアップ機能だけ??

「あらら。

ちゃんと事前にチェックしておくべきだったね。

ごめん。

まあ、現役時代に精霊モドキが生じていたら、一応電気が通っているし移行してから10年程度だからまだ眠りについていなかった筈。全然居ないと言う事はやっぱり生まれなかったって事なんだろうね」


「残念〜。

まあ、都心部からの景色を楽しみに来たと思って満喫しますか」

碧が周りを見回しながら言った。

確かに、山手線の外側にあるスカイツリーよりも東京タワーの方が東京の中心地の景色を楽しめるよね。


とは言え。

この程度の景色だったらいつでも見に来れたからなぁ。

源之助に夢中な碧に付き合ってもらう必要は無かったね。


「精霊を見たいなら、来年の夏休みにでも桜島に行く?

火精霊だったら居るかもよ?

じゃなきゃ、富士山にもワンチャンいるかも?

信仰心もエネルギーの一種だから、信仰されている火山や湖、大樹からは精霊が生じやすいって前世では教わったし、そこそこ大きな火山だったら意識のある精霊が彷徨いている可能性もゼロじゃないと思うよ」

まあ、人の信仰心に影響されて変質していたら変な精霊・・・と言うか妖怪モドキになっているかもだけど。


碧がちょっと考え込んだ。

「富士山は・・・5合目まで車で行くにしても、頂上近くの火口まで歩いて登る必要があるよね?

そう考えるとちょっと辛そうかなぁ。

いつか九州で仕事があったら、桜島に行くことにしよう」


九州じゃあ源之助を連れて行くのは難しいから、遊びだけで行くつもりは無い様だ。

確かにちょっとした興味程度なら、藤山家の『ノルマ』で九州に行く羽目になった際にでもついでに行けば良いよね。


コンピューターやネットに関しては・・・誰かハッカースキルを持った知り合いが居ないか、大学ででもそっと聞いてみよう。







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