第118話 適応してないんだ?

「今日会った大学のクラスメートがフィッシング詐欺にあってたんだけど、何かそう言うオンライン詐欺とかウィルスとか悪意を対処できたり感知できたりする術ってあるのか知ってる?」

夕食時に碧に聞いてみた。


あれから午後の授業は普通に受け、家に帰ってから近藤さんに転送して貰ったフィッシング詐欺のメールやそのリンクに対して思いつく限りの悪意探知とか危険探知とか保護結界とかのバリエーションを試してみたのだが、どの術もこれっぽっちも効果が無かった。


ネットもPCも前世では存在しなかったから、それらが無い世界で開発された術が対応していないのはある意味当然なんだけど、『悪意』や『危険』は共通なんだから効くかと期待したがダメだった。


なのでこちらの世界で誰かがPCやネットに対応した術を編み出していないか期待して聞いてみたのだ。


碧からの返事はちょっと想像していたのと違う方向だった。

「え〜?

ネットのウィルスは『感染』とか『ウィルス』とかって病気みたいな言葉を使うけど、実際にはPCが生きている訳ではないからねぇ。

治せたり感知出来たり出来たり訳ではないよ」


「・・・いやまあ、白魔術の回復術が効くとは思ってなかったけど、誰かが現代テクノロジーと魔術を組み合わせて使う方法を発見したかな?と思って聞いてみたんだけど、退魔協会でそう言うのに関する研究とかってしてないの?」

今の世の中ではネットとPCの重要性が圧倒的に大きくなっている。

これに対応出来なければますます退魔師や魔術師が時代に取り残される事になると思うが・・・会費を取っている業界団体として、将来に向けて新しい技術に対処する為のリサーチとかしていないのかね?


「研究ねぇ。

確かに金の亡者たるジジイ達の誰かは研究させてそうだけど、例え私達から徴収した会費を使った研究の成果だとしてもそれを無料で公表しようなんて夢にも思わないでしょうよ。

協会からの新しい技術の有償取得の話も来てないね」

肩を竦めながら碧が応じた。


そっかぁ。

自我のあるAIが開発されてそれが魂を有していたら私の適性が役に立つかもだが、現時点ではネットにどれだけ魔力を浸透させても何も感じられて無いから、私の知っている魔術じゃあネットに対応は出来ないんだよねぇ。


ある意味、魔術が銃や飛行機事故にほぼ無力なのと同じだ。


「覚醒する前は魔術ってもっと凄くて色々出来る万能な手段だと漠然と想像していたんだけど、意外と無力だよね。

取り敢えず、どっかにアクセスしろって言う様なメールが来たらネットで調べた上で電話するしかないか」

残念。

悪いカルマを蓄積してでも悪事をする気があるなら、凄腕のハッカーを洗脳なり隷属させて命じれば色々出来るんだろうけど・・・その為にはまず凄腕ハッカーを見つけて会わないといけない。

それになんと言っても悪事をするつもりも無いし。

『自己防衛に魔術を使えたら良いのになぁ』という程度の思いで出来る事はあまりない。


「後は携帯番号とかメールアドレスを迂闊に提供しない事だね。

アプリも信用できるのしかダウンロードしちゃいけないって話だけど・・・便利だってSNSとかで話題になっているアプリが不正じゃ無いかどうかなんてそう簡単に調べようが無いからねぇ」

麦茶に手をの伸ばしながら碧も溜め息を吐いた。


「便利だからってアプリをどんどん入れちゃいけないって事だね。

でも、マジで魔術をネットやPCに適応させた新しい試みに関する噂話とかも聞いたことないの?

ジジイどもはまだしも、若い世代の退魔師とかが試していそうなもんだけど」


私はプログラミングとかにあまり才能が無かったので魔術とPCやネットを合わせる方法を想像も出来なかったが、それなりに人数がいる退魔師の家系の中ではそう言うのが得意な若いのも居そうなもんだけど。


「う〜ん、出来る方法を見つけた人が居たとしても、それを誰にも言っていないんじゃない?

もしくは早い段階で国か退魔協会に発見されて拘束されているのかも?」

確かに、ネットやPCを自由・・・とまでいかなくても変則的に利用できる人間って言うのは前世の黒魔術師と同じで便利かつ危険すぎて権力者に真っ先に目をつけられる存在だろう。


そう考えると、そっちの方面で才能が無かったのは幸運だったのかも。

残念ではあるが。

人知れず無敵な能力を世界中に広げられるなんて、ロマンだよね〜。







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