第117話 あらら〜。

「え?!

そうなんですか?!

・・・はい。はい。

分かりました。

ありがとうございます」

何やら不穏なやりとりが近藤さんの方から聞こえてきた。


「大丈夫?」

大丈夫じゃないんだろうな〜と思いつつ、聞いてみる。

流石に『詐欺だった?』と聞くのは不味いだろう。

まあ、まだリンクにクリックして入力していなかったのだったら大丈夫かも?

ヤバい業者に流れたらしきメールアドレスは変更が必要だろうが。


「大丈夫じゃ無い。

これって最近流行っているフィッシング詐欺の手法なんだって。

うっかりリンクにクリックしてカード情報を入力したらガンガン不正利用される上に、下手をしたらウィルスに感染させられて携帯に入っている情報を全部抜かれていたかもだって」

青くなって財布から別のカードを取り出しながら近藤さんが答えた。


「・・・もしかして、別のカードで既にやっちゃってるの?」


「うん」


あらら〜。


ちょっと、携帯電話のウィルスとか情報漏洩に関する対応策について私も調べよう。

しっかり近藤さんに対応策を講じて貰わないと、私の情報まで漏洩されたら困る。

流石に『近藤さんってうっかりしでかしそうだから漏洩しちゃう前に私の個人情報を携帯から消しといて』とは言えないから、親切ごかしてセキュリティをアップグレードさせないと。


自分の携帯を取り出し、すぐに調べ始める。

やはり現代社会では需要が多いのか、すぐに大量の記事が出てきた。

だが、最初にクリックしたサイトは見ている間に何やらセールス要員っぽい人とのチャット画面が突然開いて、怪しい売り込みを始めた。


おいおい。

対策をしようとしている人を騙そうとしているサイトなの、これ???

一番上に出てくるなんて、検索サイトもしっかりしてくれよ。


単に売り込みに熱心すぎるセキュリティソフトの会社なのかも知れないが、勝手にチャットスクリーンが開くなんて怖すぎる。


慌ててブラウザバックで検索画面に戻り、スクロールダウンしてもっと有名そうな会社のドメインのアドレスを探してタップした。

最近はテレビをあまり見ていないので知らないが・・・実家に居た頃にオリンピック選手を使ったダサイCMを良く見かけたセキュリティ会社のサイトなら少なくとも詐欺では無いだろう。


なになに。

不正ソフトのダウンロードに気をつけろ、ねぇ。まあ、あまりアプリは増やさない方だから、私は大丈夫だろう。

取り敢えず電話帳にアクセスを求めるアプリは基本的に入れない様にしようかな。


後は・・・。えっ、マジ??

無料Wi-Fiは危険?!

データ通信量を節約できるからガンガン使っていたんだけど!!


うわぁ。

あ、でもパスワードを入力する大学の学生用Wi-Fiは大丈夫そうだ。

街中では我慢して携帯のデータ通信を使おう。


そんな事を考えながらいくつかのサイトを見て周り、ついでにセキュリティソフトのお勧めサイトも見比べておく。

なんか不正アプリをダウンロードしないのと無料Wi-Fiを使わない、メールに迂闊に反応しないと言うのがメインな気がするが、少なくとも近藤さんは既に怪しいサイトにクリックしているらしいのでセキュリティソフトを入れた方が良いだろう。


待っている間に自分の携帯アプリも確認して、どれが電話帳にアクセス権を有しているか確認しておくか。

なんかアプリってアクセス権限の要求を拒否すると同じスクリーンをループする事が多いから、面倒だから消すかOKしちゃうかの二択なんだが・・・ヤバいのをOKしていないか、確認しないとなぁ。


人間と直接やり取りするタイプの詐欺だったら悪意を感知したり弾いたりする結界でそれなりに対処出来る。

でも、オンラインな詐欺だからなぁ。


試しに近藤さんの携帯に悪意探知の術を掛けてみた。

やはり何も起きない。


折角だからフィッシング詐欺のメールを転送して貰って、サイトから何か悪意の波動を探知出来ないか、一応後で試してみよう。

高校時代にPCやインターネットに直接魔術や魔力で働き掛けられないかと試した時はもっと一般的なアクセスに関して色々と試したのだが、詐欺やウィルスとかは実際に見たことが無かったので実験出来なかった。


折角フィッシング詐欺の実際のサイトのリンクが手に入るのだ。

もう少し試してみよう。

危険なサイトを探知できる様になったら色々と便利かも知れないし。

金稼ぎにするのは無理だろうけど。


「そうですか・・・。

ありがとうございます」

近藤さんが通話を終えた。


「どうだった?」


「買った覚えのないコンピューターやオーディオセットがカードで複数購入されてた。

警察に被害届を出して、幾つか必要書類を送ったら補償して番号の違う新しいカードを発行してくれるって」

ふぅっと大きく息を吐き出しながら近藤さんは椅子に背中を預けた。


「良かったじゃん。

他のカードは大丈夫なの?」


「うん。

まだこれが2回目のメールだったから。

長谷川さんに注意してもらって助かったわ〜」


携帯に来ていたメールは本物っぽかったので、確かに騙されても不思議は無いかも知れないね。

取り敢えず、他には無い様で良かった。


「ついでに変なウィルスに感染していて携帯が乗っ取られたりしていないか確認するためにも、ウィルスセキュリティ用のソフトを入れたら?

最近は携帯用もあるみたいだから。

あと、うっかり変なフリーソフトをインストールしない様にね。

なんでも携帯が乗っ取られたり個人情報を抜かれるのの過半数は、不正アプリをそうと知らないで自分でダウンロードする事で起きるらしいから。

あ、私も今後の参考の為にどんな感じかよく見ておきたいから、その詐欺メールを転送してくれないかな?」


溜め息を吐きながら近藤さんが携帯をちゃちゃっと弄ってからショルダーバッグに放り込んだ。

「転送したわ。

取り敢えず、携帯を買った店に行って一度初期化して貰ってからセキュリティソフトを入れてくる。

メールアドレスも変えるから、これで変なメールが来なくなると期待したいね〜」


「・・・その騙されたサイトで携帯番号を入力したの?

したんだったら『騙されやすい被害者カモ』として番号が売られている可能性も高いんじゃ無い?」

単なる個人情報というだけで金になるのだ。

実際に情報を入力しちゃったうっかりさんの個人情報となったら更に金になるだろう。


カード情報を入手した詐欺グループは不正利用に気づかれない様にあまり露骨な事はして来なかったかも知れないが、カードを止められたらさっさと近藤さんの個人情報を売るんじゃ無いかな?


願わくは、私の個人情報が近藤さんの携帯から抜かれていない事を期待しておこう。




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