第103話 猫は今を生きる
「うわぁ。
取り敢えず、変になっていない普通の猫霊に話を聞いてから、クルミに皆を近所の公園へ案内して貰うね」
中で見た惨状がトラウマになったらしき青木氏は車で待っているとの事だったので、碧にさっさと問題ない霊の扱いについて確認する。
悪霊化した霊がいるならそれに取り込まれる前に普通の霊を避難させる方が良いだろう。
悪霊がいるなら除霊の指名依頼を入れてもらって退魔協会の調査が終わるまで待たなければならないのが可哀想だが、そちらはしょうがない。
「私は取り敢えずどっかに生きた猫が隠れてないか、確認するね」
なんと言っても猫だ。
液体の如く、思いもがけない小さな隙間に入り込んでいる事の多い生き物なので、生命に敏感な碧が確認するのが無難だろうと事前に話し合っていた。
『やっほ〜。
ここって居心地良い?
ちょっと混み過ぎてるし日当たりも悪そうだから、もっと気持ちが良い所を教えてあげようか?』
碧と別れ、そばにふわふわと寄ってきた猫の霊に念話で話しかける。
相手は猫である。
霊になっていようとまずは興味を引かなければ対話も難しい。
『そう?
ここも前は悪くない所だったんだけどねぇ。
なんかお婆さんのヨボヨボ具合が酷くなってから妙に混んできて、そのうち食事まで足りなくなって苦しくなっちゃったんだ〜』
霊の一つが答えてきた。
『歳をとると人間も色々と儘ならなくなるもんだからねぇ。
ちなみに他の子を食べようとしたり混ざっちゃったりしてる変な子もいる?』
変質した霊がいるならここの住民が一番良く知っているだろう。
『う〜ん、変なの居たっけ?』
最初に答えた霊がそばにいた霊に尋ねる。
『居たっけ?』
『居たかも?』
『居ないよう』
『お婆ちゃんがちょっと変?』
『遊ぶのに忙しいからくっ付いてる子はいないと思うけど、分かんない』
わちゃわちゃと答えが返ってくる。
おやぁ?
悪霊が居るともっと他の霊も警戒心が強くなるのだが。
随分とのんびりとした感じだ。
リフォーム業者に猫の声が聞こえるのって純粋に猫の霊の数が多すぎるからなのかな?
・・・あれ、そう言えば『お婆ちゃんが変』ってどの子かが言っていたな。
猫の霊は現段階で悪霊化したのが居ないなら大丈夫な可能性が高いが、ボケちゃったお婆さんの霊が残っているならそっちが地縛霊化しかねないな。
とは言え。
一応呼ばれたのは猫の鳴き声が原因らしいから、そちらをまず解決する必要がある。
『クルミ〜!
皆さんを近所の公園に案内してあげて』
一応、来る前に最寄りの公園に寄って環境が悪くなく、変な悪霊とかも居ない事は確認してある。
風通しもいいしそれなりに広さがあるから大量の猫の霊が移動してきても大丈夫だろう。
『了解にゃ!』
しっかし。
これだけ沢山の猫が死んでも悪霊化していないなんて、やっぱり猫って本当に今を生きる刹那的な生き物だなぁ。
まあ、変に後悔したり恨んだりしない方が幸せに過ごせるよね。
一階にいた猫の霊が蜂型分体のクルミと一緒に出て行ったのを確認して、家の中を見て回る。
『ああ・・・餌をやらなきゃ』
リビングっぽい部屋(多分:家具がないので微妙に不明だけど)にお婆さんの霊が床に倒れていた。
おやま。
最後の方ではちゃんと餌をあげられていなかったって話だけど、餌をあげなきゃって意識はあったんだなぁ。
あれだけの数が死んでいたって事は長期的に餌が足りなかったんだと思うけど、猫の数をちゃんと把握できて無かったのかな?
野良猫の雄なんかは子育て中の雌が発情する様に他の雄の仔を殺す事があるってテレビで見た気がするから、そう言うので殺された仔も多かったのかも?
狭い家の中じゃあ子猫を安全に育てられる場所なんてあまり無かっただろうし。
さらっと見て周り、一階にはお婆さんの霊だけしか残っていないのを確認して2階に進む。
こちらにもそこそこ猫の霊がふわふわ遊んでいるが、特に悪霊化している様子は無い。
後でクルミにこの子達も公園へ案内してもらおう。
「何か見つかった?」
碧が声を掛けてきた。
「お婆さんの霊が居た。
今は単に猫の餌を心配しているだけだけど、地縛霊化しそう。
そっちは?」
「子連れの猫を発見した。
お婆さんはその事を心配しているのかも?」
碧がそっと押入れの方を示しながら言った。
え、マジ?
本当に猫が残っていたの??
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