猫屋敷

第102話 元、猫屋敷

「え、なにこれ。

今度は猫の霊???

しかも居るなら祓って欲しいって・・・」

青木氏からのメール見て思わず碧に確認の声を掛ける。


なんと、元『猫屋敷』と近所の人々から呼ばれていた家の確認と除霊を頼みたいとの事なのだ。


「ああ、それねぇ。

一応、実際に祓う事になったら退魔協会経由で指名依頼って形にして貰うけど。

なんでもちょっとボケてきちゃったお婆さんが、保護したりして飼っていた猫の去勢や避妊をやるのを忘れちゃってて猫屋敷って言われるほど大量に猫が増えていたらしいんだよね。で、最後の方はちゃんと世話を出来なくなっちゃって猫が大量に餓死したり共食いしたっぽいんだって。

お婆さんがインターフォンに出てこないから踏み込んだ民生委員の人が家の中の惨状を見て、保健所や猫の保護団体に連絡して生き残っていた猫は助けられたらしいけど、それまでにかなり死んだみたいで家の中をいくら掃除して探しても猫の鳴き声がするんだってさ。

退魔師は動物の霊の除霊なんかだとかなり荒っぽいからねぇ。

いるんだったら可哀想だから私が除霊しても良いよって電話で言っちゃった」

碧がちょっと済まなそうな顔をしながら説明した。


「別に碧が受けたい依頼は指名依頼でガンガン受けて良いけど・・・猫屋敷ねぇ。

動物は虐待でもしなければ滅多に悪霊になんてならないよ?」


お婆さんは悪意を持って放置した訳ではないのだから、悪霊化しないと思うのだが。

それとも認知症って性格が変わることもあるらしいから、変な思い込みで猫を虐待したのかね?

共食いしたなら最後は蠱毒状態になった可能性もあるが、まだ生き残りがそれなりにいたなら蠱毒化も初期段階だっただろう。


「う〜ん、私も猫屋敷なんて初めてだからどんな感じかは知らないけど・・・立ち会った青木さんの話ではかなり壮絶だったらしいから。

まあ、取り敢えず行って様子を見てみよう」

肩を竦めながら碧が答えた。


青木氏が立ち会ったのか。

不動産屋ってそんな事もするんだ??

もしかしたらずっと住んでいた借り家だったとか?

だとしたら青木氏の不動産屋がオーナーとの間に入っていたのかもだし。

猫の死体を大量に見る事になるなんて、不動産屋も大変だね。


◆◆◆◆


「ここに住んでいた鈴木さんは家族と疎遠になってからは猫を溺愛していたんです。

この地域では猫の避妊や去勢に自治体が補助金を出すので、それも利用してちゃんと子猫が増えすぎない様にしていたんですが・・・野良猫を保護した後、自治体の補助が出る時期を待っている間に妊娠しちゃう事もあって数が徐々に増えてきた上に、ボケてしまってからはどの猫が避妊や去勢が必要かも分からなくなってしまったようで・・・一年ちょっとでびっくりする程猫が増えてしまったようですね。

しかもその頃から足腰が弱って中々買い出しにも行けなくなって、猫の世話もきちんと出来なくなってしまったみたいです。

調子が良い時に会うと、猫の面倒を見てくれる団体に連絡しなくちゃって初期の頃は言っていたんですが、認知症が重症化してきてからは増えすぎてしまったようだからどこかの保護団体に連絡をしましょうかと言っても敵意剥き出しで断られる様になってしまって・・・最後の方では家の中にも入らせて貰えなくなってしまったんです。

お陰でお亡くなりになって自治体が猫の保護の為に家に踏み込む際に立ち会うまで、どれ程酷いことになっているか知らなくって・・・」

猫好きな青木氏にはかなりショックな光景だったらしく、車の中での青木氏はかなり落ち込んでいた。


認知症になった老人が一人で孤独死するのも哀れだが、それに巻き込まれた猫にとっても不幸だ。

大量に居るといっても、普通に猫が霊になって漂っているだけだったら近所の公園でも教えてあげるかね?

クルミに案内させたら平和に日向ぼっこ出来るし思う存分遊べるだろう。

まあ、普通の作業員がほぼ例外なく猫の声が聞こえると言っているらしいから、何らかの異常は起きているんだろうが。


ちなみに、この元猫屋敷はそのお婆さんが昔から借りていた家らしい。

なまじ預金がそれなりにあったせいでボケても自動振込で家賃や光熱費が払われ続け、家に踏み込める外部の人間が居なかったせいで発見が遅れたとの事だった。


昭和の古い家なのでリフォームしてから貸し出すか売りに出す予定らしいが、どれだけ探しても居ないのに猫の声がするとリフォーム業者が気味悪がって逃げてしまうらしい。


犬よりは猫の方が祟る化け猫の昔話が多いからなぁ。

もっとも、犬で多頭飼育崩壊したら吠え声が煩くて近所から通報があっただろうし、碌に動けないお婆さんも飢えた犬に襲われただろうから犬だったらもっと早く状況が露呈していたか。

と言うか、今どき野良犬なんて居ないから、猫と違って彷徨いているのを保護して数が増えていくなんて事もないよね。


「ここです」

古い日本家屋の家の前で青木氏が車を停めた。


「うわぁ。

こりゃあ猫の声が聞こえても不思議はないでしょうねぇ」

玄関を開けた途端に目に入った大量の猫の死霊を見て、思わずため息が漏れた。

本当に1年ちょっとでこんなに沢山の猫が死ぬ様な状態になるの???


十匹やそこらじゃあないよ??











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