第100話 日常生活

「今日は大学で八幡先輩にばったり会ったんだけど、最近サークルの方に顔出してないね〜って言われちゃった」

帰宅してバッグを置き、源之助と遊んでいた碧に声をかける。


ゴーレム造りを諦めた碧は、留守の間は私の作った小型ゴーレムに源之助の相手を任せているが、家にいる時は基本的に猫じゃらしを手から離さず源之助の相手をしている。

まあ、ゴーレムの起動時間が短くなるんでその分魔力の充填を少なくできるからいいんだけどね。


「しょうがないよ。

源之助の子猫時代は今しか無いからね〜。

成猫になってあまり遊ばなくなったらまたサークルに戻るよ。

凛は参加しててもいいんだよ?」

床にしゃがみ込んでオモチャを動かしていた碧が体を起こしてソファに座った。


「そうは言っても源之助を見るのは楽しいし、最近は内政チート系ラノベの政治や経営手法の検証論議が多いから、それ程参加する意義が無いかなぁと思ってね」

内政なんて、その世界の社会的常識や生まれた地位によって天地の差が出てくるので話し合ってもほぼ無駄だ。


都合よく安全に内政チートで金を稼げるポジションで転生する確率はそれ程高くは無いだろうし、金を稼いでも殺されるリスクの低い安定した地位に生まれたなら私は魔術で稼げると思う。

一応農民や貧しい町民でも出来る程度の簡単な事は既に試せたし。


幸い、サークルやクラスでそれなりに気の合う友人には出会えたから、ある意味『知り合いを増やす』というサークルの一義的な目的は達成出来た。

後は時折食事とかに誘われた時に断らなければそれなりに関係を保てるだろう。


とは言え。

「子猫が落ち着くのって1歳半ぐらいなんでしょ?

あと1年も授業以外に出ずに引き篭もるつもり?」

ちょっと碧の源之助溺愛度合いは行き過ぎかも?


「どうせ人生なんて長いんだから、1年ぐらい源之助に捧げても良いじゃん。

授業にはちゃんと出てるし。

無理に遊びに出ても、源之助の事ばかり考えているんじゃあ時間とお金の無駄でしょ?」

碧が肩を竦めて開き直った。


まあ、碧も私もちょっと特殊な業界で働く事になるし、結婚する相手も同業者かずば抜けて頭の柔らかい誠実な人を見つける必要があるからねぇ。

大学の軽い友人関係を無理にキープしなくてもいいか。


楽しいから付き合う軽い関係の筈なのに、義務感で付き合っても相手にとって良い迷惑だろうし。


「まあ、確かに無理して出かける必要はないね。

将来の為に備えるんだったら源之助が寝ている間にお守りやグッズの作成を試せば良いし。

そう言えば、退魔協会からはあの病院案件以来特に連絡なし?」

事務所のメールは共有にしているので私も見る事になっているのだが、殆ど来ていない。

退魔協会は月一の支払い明細書以外は電話で連絡をしてくるので、碧がうっかり忘れると知らぬままスルーしちゃうことになるんだよね。


「ここんとこ連絡無かったから、もうそろそろ電話が来るかもね。

そう言えば、青木さんがまた霊障簡易鑑定を頼みたいって言ってた。

詳細はメールで送ってって言っておいたから夕方あたりにでも来るかも?」

上手に源之助をオモチャでソファの上に釣り上げながら碧が言った。

膝の上に誘い出そうとしているが、飛び乗っては来るもののオモチャを追うのに興奮しすぎちゃってて直ぐに飛び降りてしまう。


猫って誘ってもすぐに降りるくせに、何故かそろそろ何かしようかなぁと思っている時に限って膝の上で昼寝を始めるんだよねぇ。

最近は『来なくて良いよ』センサーみたいのがあるんじゃないかと思う時がある。


それはさておき。

青木氏の霊障簡易鑑定の方が近くで手軽に出来るからいいんだけど、退魔協会からも依頼が来るかもなのかぁ。

近所だったらいいんだけどねぇ。


まあ、小型ゴーレムも大分動きが源之助の好みに合ってきたのか、それなりに注意を引けるようになったのでちょっくら依頼に出ても大丈夫そうだとは思うけど。

さっさとランクを上げたいから依頼には応じるつもりだが、早く『一人前』になって遠くの仕事は断れる様になりたい。


温泉旅行を兼ねて仕事に行くのも悪くはないんだけど、やはり源之助の事が気になる。

それに碧がずっとシロちゃんを通して源之助を視ているせいでイマイチ反応が鈍いし。


源之助が成猫になって寝てばっかりいる様になったらもう少し碧の溺愛具合も落ち着くのかな?

その頃になったら国内旅行を兼ねて遠くの案件を受けるのも良いかもね。

旅費と宿泊費を節約出来るのは大きい。


どうせだったら海外に行く案件があればいいのに。

ビジネスクラスで飛べるなら海外出張もやぶさかではないんだけどな〜。














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