第99話 見本が無い!

「え〜とね、フレッシュゴーレムは基本的に魔力でかなりの部分はゴリ押しできるって話なんだよね。

水と適当な有機物があればいいんだって。

しっかりしたイメージや実物に近い素材があると魔力の消費が少なくて済むって話だから、水を片栗粉でちょっととろっとさせたので形を整えたのなんかどうかな?」

取り敢えずスライムを作ってみたいと碧が言ったので、前世の記憶を漁ったのだが・・・考えてみたらあれって白魔術師のスキルだからさらっと一般常識的な事しか教わってないんだよね。


知り合いの白魔術師曰く、現物に近いと作りやすいから人型を作る時は新鮮な死体を使うのが一番楽だと聞いて、『白魔術師だって十分ヤバいじゃん』と思ったことはしっかり記憶に残っているが。


授業では『スライム程度なら適当に形を作って魔力を込めれば動く』としか言ってなかった気がする。


碌な回復すら出来ない見習い程度でもスライムなら作れるって話だから、フレッシュゴーレムを作る意図を込めて魔力を注ぎ込めばいいんだと思うんだが・・・。

一応、フレッシュゴーレム作りの際に魔力を注ぎ込む魔法陣は記憶はしている。


見習いでも出来るほど楽なら私でも出来ないかと密かに頑張ってみたんだよねぇ。

必死に魔力を込めまくったらスライムの死骸に蜘蛛の霊が憑いて使い魔化してしまい、がっかりした記憶はある。

フレッシュゴーレムの魔法陣と使い魔の魔法陣がかなり近かったせいか、無駄に注ぎ込んだ魔力が違う形で作用したのだ。

魔法陣が多少間違っていても、魔術はガッツリ魔力を注ぎ込むと意図した結果に近い方向へ適当に変化すると始めて知った経験だった。


スライムの使い魔なんてゴミ処理程度にしか使い道が無いのに、あの時はフレッシュゴーレムにしようと総魔力を込める勢いでやったので意味もなく能力の高い使い魔になってしまった。

かなり賢い使い魔が出来上がったが、それでもスライムもどきである。

しかも元が小さな蜘蛛。

移動はトロいし、使い勝手はわるいし、やれる事も限られてるし。

なまじ会話が出来ちゃうせいで破棄するのも気が引けて、かと言ってスライムの使い魔相手に会話をする程自分がボッチであるとは思いたく無かったので・・・なんとも複雑な心境になったものだ。


まあ、最終的には魔術学院を卒業して王族クソッタレ達の奴隷モドキにされた後、スライムの使い魔をゴミ処理用のスライムに紛れ込ませて捨てられた機密書類とかを盗み出すのとか盗聴とかに使ったけど。


『王族に害をなすことは出来ないし、害がなされるのを見逃す事も出来ない』と言う制約が掛かっていたが、王族が碌でもないことをしようと考えている相手を助ける程度のことは場合によっては出来た。なので少しでも足を引っ張ろうと色々頑張ったが・・・結局はあまり大したことは出来なかったな。


まあ、それはさておき。

碧のフレッシュゴーレム作りである。


「スライムになれ〜って考えながらそのスライムもどき模型にこの魔法陣の形で霊力を焼き付ける様な感じに注ぎ込んでみて」

碧はスライムの実物を見たことは無いが、ラノベやゲームでイメージは出来ているんだから成功する可能性はそこそこあるんじゃないかと・・・期待したい。


一応、お風呂場の栓や水道管も含めて全面に私と碧が別々にがっちり結界を張ってあるので、魔力が漏れることも出来上がったフレッシュゴーレムが逃げ出すこともないはず。


と言うか、フレッシュゴーレムは正しく出来上がったらちゃんと作成者の命令を聞く筈だから勝手に逃げたりしない。が、何分前世とは違う世界だ。

魔素が薄いだけでなく、魔術の理にも違いが存在する可能性はあるのでスライムが逃げ出して下水道で繁殖するなんていうとんでもない事態にならない様、用心する必要はある。


まあ、最悪の場合は白龍さまに全部退治して貰えば良いけど。

神様じゃあ攻撃の威力が高すぎるからねぇ。

下手をすると建物に雷が直撃したぐらいの影響はあるかも知れないので、住民の電気器具の安全の為にも、逃げ出されないよう気をつけた。


「スライムを見たことが無いからなぁ。

アニメラノベのイメージなんて漠然としたモノだから出来るか不明なんだけど・・・。

碧、行きま〜す!」

なんかどっかで聞いた様なセリフを口にしながら碧が霊力を込める。


見ていたら、やがてちゃんと魔法陣が光り始めた。

う〜ん、魔力(霊力)を注いだ量に対して反応が少し鈍い感じだなぁ。

こちらの世界の物質には魔素が通りにくいのかね?


そんな事を考えながら注意して見つめていたら、水と片栗粉で出来たスライムもどきがぷるっと震え・・・疑似生命になったと思った次の瞬間、ぷしゅうぅぅと溶けた。


「はぁ?」

碧と一緒にあっけに取られてスライムもどきが溶けて無くなったアルミトレイを見つめる。


「・・・こっちの世界でスライムが存在できないのか、碧の知識が足りなくて生物として存在できるだけの完成度がなかったらか。

どちらにせよ、失敗だね」


う〜ん。

やっぱりラノベのイメージだけじゃあダメなのかな?

それともこの世界にスライムは相入れないのか。


取り敢えず、スライムのフレッシュゴーレムは失敗だね。










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