第93話 大して嬉しくない再会

「おや、君も呼ばれたのかい?

初心者にはちょっとキツイと思うが・・・」

結界を張り終えた北ウィングで碧が祝詞を唱えて彷徨っていた悪霊を綺麗に浄化し終ったので、メガネ職員に確認して貰って帰ろうと門の方へ戻ったところで若い男に声をかけられた。


確かに初心者用じゃないと思うし、その初心者を含めた二人に全体の約4分の1を押しつけるなんて退魔協会は何を考えているんだとマジで聞いてみたいところだが、人から言われるとムカつく。


誰だっけ、こいつ?

と一瞬思ったが、ふぁさっと前髪をかき上げながらキザな素振りでサングラスを外した顔を見て思い出した。

賀茂 雅也だ。

オリエンテーション研修の講師役。

実際に役に立ったのは協会が付けた秘書っぽい記録係兼連絡役だったが。

普段は講師ではなく退魔師として働いていると言っていたが、成る程こう言う大規模案件にも当然呼び出されるのだろう。


「あ、お久しぶりです。

そうですね、私もこの案件で事務所の人数に含まれて呼び出されるとは思っていなかったんですけど。

退魔協会は余程急な事で人が足りなかったんでしょうね」

肩を竦めながら答える。

数合わせの初心者を含めた二人組にあんだけ広範囲を任せるんだから、退魔協会の誰かが私の実力を見抜いているか、もしくは碧の実力が滅茶苦茶高く評価されているんだろう。


「・・・ああ、そう言えば君は藤山さんと組んでるんだっけ。

それなら問題ないか」

後ろから近づいてきた碧を見て賀茂 雅也があっさり意見を撤回した。


う〜ん、ハニトラ要員になるよう言われているならもう少し親身に心配すべきじゃない?

まあ、ハニトラはまだしも結婚詐欺なんかは下手に警戒心を煽る美形よりも平凡っぽい『貴方しか頼れる人がいないんだ』系の方が上手くいくみたいだから、元より彼は『上手く行ったらラッキー』程度で真面目なハニトラ要員ではないのかな?


でも、そう考えると・・・平凡っぽい人でも警戒する必要があるなんて、疲れそう。


それはさておき。

敬意が特に見当たらなかった協会の態度を見る限り、多分彼らは碧ではなく白龍さまを頼っているんだろうなぁ。


祟られない程度にだったら失礼でも大丈夫だと思っているっぽいけど、過去にどの程度で祟られるか、記録でもあるんかね?

それともナチュラルに女子大生は見下す癖がついてるのか?


上はそれで良いにしても、直接やり取りする職員はそれこそ祟りのターゲットに成りかねないんだから、もっと遠巻きというか下手に出るべきじゃないかと思うけどね。


まあ、どうでも良いことだけど。

取り敢えず、賀茂 雅也だ。こいつが消えてくれなければ終了確認をやって貰えない。


「良い経験になると思って精一杯手伝わせて貰っています。

賀茂さんはもう担当範囲を聞きましたか?」


「ああ。

入院棟だった南ウィングの奥を頼まれたよ」

『出来る男は頼られて大変だぜ』と言いたげな口振りで言われた。


「大変そうですね。

頑張って下さい。

では、我々はちょっと職員の人と話す必要があるので、失礼します」

碧がそっけなく口を挟み、さっさと進んでいった。


ちょっと冷たいねぇ。

見合いモドキな仕事で一緒になった話はそこまで拗れたと言う雰囲気じゃあなかったけど。

源之助の元に帰る事で頭が一杯なのかな?


「そうだな、お互いさっさと仕事を終わらせようか。

ではまた機会があったら飲みにでも行こう」

一方的に私が彼と時間を過ごしたがっているような発言をして、賀茂は消えていった。

『また』って一度も飲みに行ってないんだけどねぇ。


「彼ってランクは碧より高い扱いなんだよね?」

メガネの方へ歩きながら碧に尋ねる。


「その筈。

まあ、ノルマ2回分だと思えばやたらとうちらの分が多くても文句は言えないかな?

それより、これ以上変なのに会う前にさっさと確認させて帰ろう」

肩を竦めながら碧が答える。


藤山家の『特権』が役に立っている様子もあまりないが、それが無ければもっと嫌がらせが多いかも知れないとの話だから、しょうがないんだろうね。


そんな事を考えながら歩いていたら、碧が門のそばに立っているメガネに声をかけていた。

「終わりました。

確認して終了証を下さい」


「え??」

メガネがあっけに取られたように碧を見つめる。


「小粒な悪霊しか居ないだろうからあれだけ広い範囲を担当させたんでしょう?

私たちの能力は小粒なの相手には向いているんです。

今日はこの後やりたいことがあるんで、確認をお願いします」

碧がちょっと霊力を纏って威圧を掛けながらメガネに冷たく微笑んで見せてさっさと北ウィングへ戻り始めた。


「っはい!!」

慌ててメガネが部下(多分)の女性に担当箇所を書いたリストと思われる書類を渡し、碧の後を追う。


よっしゃ。

帰れそうだ。

メガネ一人だったら、ポロポロと適当なタイミングで現れる退魔師達に担当箇所を知らせなければならないのでそれが終わるまで確認作業に取り掛かれないと言うんじゃないかと密かに心配していたのだが、ちゃんと部下がいた。


私らが朝1で来た時はコーヒーの買い出しにでも行っていたのかね?

美味しいコーヒー店があるなら聞いてみようかな。

ホテルのはイマイチだったから、出来ればしっかり美味しく淹れたコーヒーですっきりしたい・・・。







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