第72話 保険
「後は・・・保険ですね。
ペット保険に入られるのでしたら代理人として手続きを出来ますが、どうします?」
ブリーダーさんが続ける。
「いえ、それは要りません」
あっさり碧が断った。
そうだよねぇ。
獣医よりよっぽど正確に診断できるし治せる。
流石に避妊・去勢手術は獣医に任せた方が良いだろうけど。
何かの拍子に、手術の跡が無いのに生殖器官が無いのがバレたら大騒ぎになるかも知れないからね。
「そうですか。
まあ、猫なので犬と違って賠償特約保険は要らないでしょうし、最初の一ヶ月はブリーダーサイトの成約記念で無料で保険が付きますから、残りは飼い主さんの気持ち次第ですしね。
ちなみに、もしも購入後一ヶ月以内に病気でこの子が死んでしまった場合は同種の子猫を無料で提供するよう努力する契約になっています。
子猫が全部売れてしまっていたら次の子が産まれて育つまで待つ必要があるし、猫との相性にも個体差があるので『代わり』なんて実質無いとは思いますが、返金を出来ないので代替策なんです。
あと、1ヶ月以上2ヶ月未満でしたら半額で同種の子猫を提供します。
詳しい条件はサイトの方に書いてあるので、一応ご確認下さい」
代理人として保険契約をした方が儲かるだろうにそちらはあまり重要では無いのか、ブリーダーさんはあっさり頷いて説明を続けた。
それはそうと、『返金の代わりに別の子猫』ねぇ。
まあ、確かに返金OKだったら猫を飼ってみて『失敗した』と思った購入者が病死に見せるために子猫を毒殺する可能性だってありそうだ。
かと言って『売ったら何が起きても返金無し』なんて言うのは実際に何かがあった時に買い手が納得しないだろう。
20万から50万円ぐらいする出費なのだ。
意図的に病気なのを知っていながら黙って売りつけただろうと訴えたり、ネットで悪口を書きまくる人が絶対に出てくる。
『同種の子猫を提供』と言うのは比較的平和な解決策と言えそうだ。
まあ、碧がいて死ぬなんてまず無いだろうが。
しっかし。
犬だと他人に噛み付いた時なんかの為の賠償特約保険なんてのもあるのか。
まあ、子供の(本人もだけど)自転車事故に対する賠償特約が必要な今日この頃なのだ。
犬の賠償特約も必須なのかも。
目さえ離さなければ自転車で高齢者にぶつかるほど危険では無いと思うが、犬種によっては目を離した隙に脱走して子供を殺す事だってあり得そうだから、あんまり呑気なことは言わない方が無難なのだろう。
しっかり躾けていれば人に怪我を負わせたりしないだろうし、そもそも小型犬ぐらいだったら大丈夫だろうけど。
でも今の訴訟社会だったら犬に襲われてトラウマになったから慰謝料を払えと訴えてくる人とかいるかも。
そう云うのも賠償特約でカバーできるのかね?
それとか吠えるのが煩いから住んでいるマンションから出ていけと追い出された場合の引越し費用や、分譲マンションだった場合の買い替え費用とか。
どちらもまずカバーして無さそうだが、犬を飼う時のリスク要因だなぁ。
ちゃんと躾けて面倒を見なかったのが原因な自業自得なケースも多いだろうけど、性格に難のある犬をうっかり買ってしまった人なんかは苦労しそう。
今となっては犬を飼うつもりも無いけど、意外と犬の購入って危険だったんだね。
「名前は決まってますか?」
書類に何やら書き込みながらブリーダーさんが尋ねる。
「源之助で!」
碧がにこやかに答える。
一瞬、沈黙が流れた。
・・・随分と渋い名前だねぇ。
オスかメスかに注意を払っていなかったのだが、どうやらオスらしい。
ご先祖さまの名前かね?
それとも歴史に出てきた人物なのか。
取り敢えず、家がここみたいに臭くなったら困る。早いところ去勢手術するよう碧を説得して、絶対にマーキングをしないよう使い魔に見張らせておかないと。
暫くは、誤食や危険な悪戯とマーキング防止のために、クルミの分体を首輪に嵌め込んでおくよう提案しようかな?
危険な事をしない様に見張り、留守番の時に寂しがらない様に常に一緒の方が良いって言えば碧も反対しないだろう。
多分。
それともクルミの本体の方で見張らせるかなぁ。
ネットの記事によると、子猫は避妊・去勢手術で入院する可能性が高いので、動物病院でケージに閉じ込められてもパニックしない様にケージで寝させて慣れさせておくのがお勧めだと書いてあった。
だが、去勢手術は日帰りでも可能らしいし、獣医に任せておくよりも碧の目の届くところにいる方がもしもの時は助かる可能性が高い。
そして入院することになっても宥め役としてクルミを『お気に入りのオモチャ』として一緒のケージに入れて貰えば良いから、ケージに慣らさなくても大丈夫だろう言う話になったのだ。
一緒に居て色々と言い聞かせる存在としてクルミに慣れさせておくのも良いかもしれない。
私の使い魔としても活動して貰うためにもう一つ分体を作る必要があるが。
じゃなきゃ、お婆さん犬の霊でも探して子守り用使い魔を造ってみるかなぁ。
クルミは必ずも子猫の悪戯ストッパーとして適任とは限らないし、私の仕事について来てくれないと不便な場合もあるし。
分体を作ること自体はそれ程継続的にリソースを使わないが、作り上げた分体に全然違う行動を取るよう命じるとどうしても全体的な機能が下がるんだよねぇ。
そう言えば、今のマンションを見に来た時に最初にクルミが話を聞いたのって隣の家の犬霊だった筈。
使い魔になって子猫や家の
若くして死んだ子犬だったりしたら困るが、大家の嫁いびりを知っていたしそれなりに犬生経験はありそうだ。
現時点では炎華もあまり大したことはやっていないので彼女に源之助の見張りを頼むと言う手もあるかもだが・・・炎華が昼寝中にどの程度周囲へ注意を払っているか、微妙だ。
敵意や危険に対してなら即座に反応するだろうけど、子猫のマーキングとか悪戯には気付かずに間に合わない事が多そうな気がする・・・。
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