第64話 後始末
「では、まず先に水城さんの足に起きている霊障を処理しますので、出来る限り気を楽にして椅子の背に寄りかかって下さい」
悪霊に関しては夕方に行く事にして、その前に水城シニアの才能の確認と封印をやってしまうことにした。
下手に除霊が終わった後だと水城シニアがこちらの指示に従わない可能性があるからね。
魅了の才能があるなら先にそれを封じておかないと、結局また被害者を出す事になりかねない。
足の痛みが悪化しているのか、脂汗を流しながら先程の場所から動いていなかった水城シニアが椅子の背に体を預ける。
『意識を手放すイメージでゆっくりとガードを下げて、こちらの霊力を受け入れて下さい』
魔力を僅かに込めて話しかける。
ちなみに、娘さんに関しては水城シニアから話を聞いた後すぐに会いに行って、碧が霊障を祓って私が部屋に結界を張っておいた。
スリプルをかけた上で水城氏に明日まで部屋で安静にしておくよう言っておいたので、再度とばっちり霊障を受ける事も無いと期待したい。
で、退魔協会に連絡して依頼が実在する事を確認できたので、水城シニアの所に戻ってきたのだ。
「ううぅっ」
水城シニアが呻きながら体から力を抜く。
何らかの才能がある人間には生来のガードがある。なので力ずくでそれを封じようとすると抵抗されるためにかなりの魔力を要するし、本人も違和感を感じる。
だが、ガードを下げてこちらの魔力を受け入れようとしていればかなりのことが出来る。
『スリプル』
取り敢えず、眠って貰おう。
意識が無くなった水城シニアの精神へ、能力の触手の様なものを差し込んでいく。
「どう?」
碧が小声で尋ねてくる。
『ちょっと待て』と身振りで碧を抑え、水城シニアの内面を調べる。
汚い。
先程色々聞いたから清廉な人物じゃあない事は分かっていたが、子供の頃から楽をするのに慣れているせいか、精神がブヨブヨに弛緩している感じだ。
気持ちが悪い。
しかも、都合が悪い事は全て他者が悪いと責める典型的な責任転嫁系の精神構造だし。
こんな人間が魅了の能力なんか持っていたら、周囲にとっては迷惑極まりないだろう。
そう思いながら探したら、やはり魅了の才能があった。
しかも単に相手の精神を自分の意思に沿わせる力だけでなく、相手の求めるものを見抜ける才能まである。
うわぁ・・・。
ある意味、男で良かったのかも。
これで女だったら傾国の美女になれたかも。
まあ、男だって逆玉でのし上がれるし、性的関係に持ち込まなければ魅了の力はカリスマ的な魅力として周囲のやる気と忠誠を引き出す力としても使える。
水城シニアが自分が楽をできれば満足する怠け者だったのは、日本にとってラッキーだったのかも。
こんな人間が経済界のドンっぽいポジションに就いていたら、問題を起こしまくりだっただろう。
と言う事で。
魅了と、看破の力をがっちり封印する。
出来る事なら完全に削除しちゃいたいところだが、残念ながら今世の私の魔力量ではそれは難しい。
「白龍さま、この封印が解けたら分かる様にして頂けますか?」
直ぐそばに居るならまだしも、秋田と東京では距離があり過ぎて何かの弾みで封印が解けても私には感知出来ない。
なのでそちらに関しては白龍さまに糸を付けておいて貰うことになっている。
『うむ。
出来たぞ』
鷹揚に白龍さまが頷く。
うっし。
これで一安心。
「で?」
碧が再び尋ねる。
「予想通り、魅了持ち。
しかも人の求めるモノを視てとれる看破の才能まで持ってた。
本人にやる気が有れば、大企業の創業者か国家の上層部に食い込む様な政治家にでもなれそうな才能だね
魅了の力があるっぽい家系なのに、代々女を食い物にして悪霊を育てるしかしてこなかった人達みたいだから、大成するのに必要な自制心とかを育てる才能が無い一族なのかもね。
ある意味、良かったわ〜」
何とも才能の無駄遣いと言う気がするが、極端に悪用されなかっただけ幸いだった。
10年か20年おきぐらいに子孫の確認に来た方が日本の為には良いかもと言う気はするが・・・まあ、覚えていたら温泉旅行のついでに来よう。
「よし!
じゃあ、もう少ししたら裏山の石碑にいるらしき霊の皆さんには成仏してもらって、温泉をしっぽり楽しんで帰ろう!」
碧が頷いて立ち上がる。
「あ、変に粉をかけてきたら面倒だから、この人が三日ぐらいだるくなる様に出来ない?」
体調の調整は白魔術だ。
精神的に『だるい気がする』と言う状態にするのは私でも可能だが、折角碧がいるのだ。
私らがいる間に出てこない様、調整しちゃって貰おう。
「成る程。
そうすれば良かったのかぁ。
やってみる!」
碧が張り切って水城シニアの方へ手を伸ばす。
どうやら、今までにも依頼の後にウザ絡みしてくる依頼人に迷惑を掛けられた事があった様だ。
持っている能力は効率的に使わなきゃ。
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