第60話 赤く染まった温泉
「う〜ん・・・。
これは凄いね」
温泉宿に着き、早速霊障が起きている場所に案内されるのかと思ったら、夜にならないとはっきり現れないとの事で先に宿の部屋と設備を案内された。
部屋に荷物を置いた後、食事処と土産コーナーへ。
更に奥へ進むと大浴場だ。
「19時に男湯と女湯を入れ替えますので、良かったらどちらも楽しんで下さい」
と言われたが・・・。
覗き込んだ女湯のお湯がドギツイ赤だった。
いや、これに入るのは、無理。
火山系の温泉だと色付きのお湯も多いと聞いたが、白とか翠とかじゃ無かったの??
血の様な赤って・・・。
九州かどっかの何とか地獄って言うのは血のような赤だと聞いた気がするけど、あれって浸かれる温度なの??
てっきりキリスト教徒を殺すのに使われた歴史的遺物なんだと漠然と思っていたんだが。
まあ、温泉は水で薄めれば熱くても入れるだろうが、落ち着いて気持ちよく浸かる気分になれるかは微妙だ。
「あ〜っと。
ここの温泉水は透明なんですか」
湯質の解説を書いた看板を見た碧が水城氏に問いかける。
やはり霊障の様だ。
でも、ここまではっきりした霊障だったら普通の人にも見えるんじゃないの?
「立ち湯で足の先まで見えるほど透き通ったお湯だったんですが、ここ数日変な濁りが出てきて・・・。
水質に変化は無い筈なんですが、お客様からも苦情が出てきて困っているんです。
しかも夜になると真っ赤に見えるし。
それでお願いする事になったんです」
困った様に溜め息を吐きながら水城氏が答える。
どうやら彼は多少霊感があるのかな?
人によっては霊障が全く見えない場合もある。
それでも大抵は寒気がするとか頭が痛くなると言った反応は出るんだけどね。
温泉に来て、寒気がするんじゃあ話にならないだろう。
とは言え、お湯の色が変わっただけで退魔師を依頼するとは思えない。
「失礼かも知れませんが、誰かに霊障の影響が出ているのか、教えて頂けますか?
温泉のお湯の色が多少変わった程度で普通は退魔協会に連絡はしないですよね?」
碧がズバリ尋ねる。
あ、そんなにはっきり聞いちゃっていいんだ?
もっと遠回しに聞くのかと思ってたよ。
水城氏は暫し躊躇っていたが、やがて大きく息を吐いて頷いた。
「ええ。
妻と義父の手足が腫れ上がってきまして・・・」
温泉のお湯と宿のオーナー(?)及び女将?
不思議な霊障の対象だね。
つうか、温泉のお湯の色以前に、被害者がいるならさっさとそちらに案内してくれれば良いのに。
霊障だと信じ切れて無いのかね。
「ちなみに、この温泉宿って代々継がれてきた宿なのですか?」
先祖代々の呪いとかなのかね?
義理の父親と妻と言う事は、水城氏は婿養子か。
まあ、それはさておき。
過去に似たような問題が起きて、退魔師が原因を封じただけなのだったら今回の状況も理解できる、かも?
ちゃんと過去の情報も退魔協会から提供して貰いたかったけど。
「ええ。
50年ほど前にも同じ様な事が起きたと、宿の記録にはあります。
その時来ていただいた退魔師の方が、自分では完全には封じられなかったと仰っていたとの事で、義父も色々と試していた様なんですが・・・先日呼んだ方が急に慌ただしく帰った後に義父が突然倒れてしまいました。
義父だけでなく妻にまで同じ症状が出たので、資料を調べて慌てて電話してみたんです。
50年前の電話番号では繋がらなかったんですが、幸い義父が退魔協会の連絡先を知っていたので助かりました」
50年前って電話があったんだ?
まあ、温泉宿だったから電話も早い段階で設置したのかな?
だけど、50年も音信不通だった顧客からの連絡で、よくぞ退魔協会が即応したね。
やっぱり我々への嫌がらせなのかな。
資料も寄越さなかったし。
それとも、退魔協会にお金を払ったのに解決できなかったって言うのは実は責任問題だったりするのか。
『色々試して』いる拍子に素人紛いな才能持ちに安易に過去の封印を弄らせて状況を悪化させたなら、今回は退魔協会のせいと言うよりも水城氏の義理の父親が自業自得な気がするけど。
『色々試した』ことに関しては馬鹿正直に言わなかったのかな?
協会に言わないのは良いが、我々にはちゃんと情報提供をしてよ〜。
「取り敢えず、直近では何をどこでやったのか知りたいのですが・・・ご存じですか?」
翠が尋ねる。
水城氏が首を横に振った。
「いえ、私は駅への送り迎えをしただけで、そのお客人とは特に話し合っていないんです。妻も何も聞いていなかったようですし。
義父と会って話してみますか?」
当然だ。
まあ、その間にクルミの隠密分体にも情報収集をして貰うが。
なんか効率が悪いなぁ。
イマイチ霊障とか悪霊を信じ切れていない半信半疑な依頼人が相手だと、いつもこう言う感じなのかね?
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