第34話 一捻りとプラスアルファ

「う〜ん、もうあと一捻りとプラスアルファっていう感じなんだけどなぁ」

やっと使用制限の紋様を魔法陣と一緒に魔力で刻むのに慣れてきたので、今日は数日ぶりに碧の家へ収納の符作成に挑戦しに来ていた。


が。

何度やってもうまく行かない。


「・・・一捻りだけならまだしも、更にプラスアルファとなると実はかなり遠いよね??

まあ、それはさておき。

さっきのも一応符として成立はしてたよ?

もうちょっとってとこじゃない?」

品質クオリティチェックで刎ねられた魔力マシマシ和紙を使って試作した収納の符を手に持ちながら、碧が慰める様に言う。


「魔力を込めた高価な和紙を使ってるのに、ハンドバッグ一個分弱の使い捨てな収納スペースなんぞ提供しても誰も買わないよ〜」

パタリとソファに体を投げ出す。


そう。

一応、碧から提供された和紙に収納の魔法陣を刻み込むと符として完成はする。

だが、和紙に込められた魔力が上限なのだ。

悪霊退治用には十分な魔力なのだが、収納としてだと微々たる魔力量。

ハンドバッグどころかドレスを着た際に片手にひっそり持つお洒落なパーティバッグ程度のサイズしか亜空間が作成出来ないのだ。

携帯と薄めな財布、あとは口紅がギリギリ入るかどうかといったサイズ。


最近の大画面スマホでは入らないかも?という大きさだ。

話にならない。


元々、収納の術というのは最初に亜空間を開く際に、私が持っている魔力を全部注ぎ込む勢いでやってトランク一個分のスペースがやっと出来るぐらいな程度に魔力を必要とする。

一度亜空間が開けば出し入れに魔力は殆ど使わないのだが、残念ながら使い捨ての符だったら毎回新しく亜空間を開く必要がある。


それに対し、攻撃魔術は命を賭けるような最終奥義ファイナル・ストライクを放つのでも無い限り、込める魔力はそれなりに制限され、全体の魔力量のごく一部しか一発毎には使わない。

そうじゃ無いと余波で周りや自分に被害が出るし、無駄が多くなるからね。


つまり・・・攻撃魔術用の符に十分以上な和紙でも、新しく亜空間を開く収納の符用としては全然魔力が足りないのだ。


「碧が持ってきた収納の符にもそれ程魔力が籠っている感じがしないから、もしかして符だったら亜空間を開くのに必要な魔力が少ないのかと思ったけど、私が符にすると紙に込められた魔力と生成される亜空間のサイズの関係が術でやる時と同じになるんだよねぇ・・・」

一体何が違うのか。


魔法陣そのものの効率が桁違いに悪いのだとしたらちょっとショックだぞ・・・。


魔法陣の違いだったらどうしようもないので、取り敢えず魔力の込め方に何かコツがあるのかと色々と思いつく限りの工夫してみるのだが、結果はほぼ変わり映えなし。

行き詰まりだ。


「この際、実際に収納の符を使ってみるしかないんじゃ無い?

魔力の流れで何か分かるかもと期待しようよ」

碧が収納の符を差し出しながら提案する。


「う〜ん、それ一枚で温泉に余裕で一泊2日で行けると思うと勿体ないいぃ・・・」

1泊2日どころか、3泊4日ぐらい滞在できるかもだ。


「退魔協会経由で符の作り方を学ぼうとしたら、多分ハワイどころか日本語ガイド付き南米一周旅行分ぐらいのお金が軽く飛んでいくよ?

もしかしたら南極旅行に行けちゃうかも?

だから温泉旅行分ぐらいケチらずに、使ってみる価値はあるよ。

多分」

淡々と碧が指摘する。


良家の子女らしく、碧はちゃんとお金を使うべき時には使える胆力がある。

私は・・・金銭的な意味でそれ程苦しんだ記憶は無いのだが、前世で自由に切望した後遺症か、どうもケチっぽくて金を思い切って使えない。


ダメだねぇ。

しかも今回の金は自分のですら無いのに。

『将来のパートナーのスキルアップの為だから、貸し借りと考えなくて良いよ〜』と碧は太っ腹な事を言ってくれているのだ。

いつか借りは返したいが、その為にもまずは収納の符を作れるようにならないといけない。


「よし!

まずはそっと起動直前のところまで魔力を通してみよう!」


霊視の術をかけ、うっかり使い捨てな符を起動しないように細心の注意を払いながら一滴ずつ魔力を垂らしこむような感覚でゆっくりと少しずつ魔力を流す。


もしかして、符に込められていなくて足りない魔力を使用者が供給する形なのかと思っていたのだが、大量に魔力が吸い込まれる様子もない。

徐々に紋様に魔力が行き渡り、亜空間へ繋がる。

「あ!」


しゅわぁ!

符が繋がった亜空間の中に溜められていた魔力に驚いた拍子に、符が起動してしまった。


「ぎゃぁぁっぁぁぁ!」


「大丈夫!?」

のんびりと雑誌を読んでいた碧が私の叫び声に驚き、飛び上がって駆けつけて来た。


「符が起動しちゃったぁぁぁ・・・」

がっくりと机の上に頭を乗せて項垂れる。


「まあ、その為に持ってきた符なんだし。

もっと実験する必要があるなら、来週にでも退魔協会に仕事で行った際に2、3枚ゲットしてくるから言って?」

単に私に勿体無い精神の苦渋の叫びだったと理解した碧が、ポンポンと軽く私の肩を叩いてソファに戻って行った。


「あ〜。

でも、ちょっとやり方の先っちょの端っこが見えたかも。

頑張る!」

どうやら、収納用の符は二段階起動方式なようだ。


和紙にある魔力で小さな亜空間へアクセスし、そこに入れておいた魔力でメインの収納空間を押し開く形になっているっぽい。


成程、これだったら今世の魔力が薄い素材でもそれなりのサイズな収納能力を付与できそうだ。

亜空間って魔力が籠ってるのかな〜とは過去に考えた事があったが、魔力を溜めておくのにも使えるとは知らなかった。


これを最初に考えついた術者、凄い。


とは言え、符を起動させた時に繋がる亜空間がランダムでは無く、ちゃんと魔力を蓄えておいた亜空間になる様にどうやって設定しているのかを解明する必要があるが。


やり方のヒントはゲットした。

更に多くの魔力マシマシ和紙を無駄にしそうだが、多分今までの行き当たりばったりな試行錯誤よりは将来性がありそうだ。


とは言え。

次から次へと使って失敗している和紙は、品質チェックで弾かれた分とは言えそれでも高い素材。

まるで札束を燃やして暖をとっているような気分だ。


さっさと成功させたい・・・!













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る