第3話
繁華街を出て連れてこられたマンションは想像していたより安全かつ立派なものだった。オートロックのエントランス付き。彼の家は十一階の角にあり、鍵をスマホで開ける家を初めて見た。
ドアを開けると勝手に電気がついて、他人の家独特の慣れない匂いがした。玄関の脇の靴箱には女物のハイヒールやよく磨かれた革靴などが並べてある。夏月はその整然とした空間に履いていたスニーカーをほっぽり出すと、「どぞ」と言って客用スリッパを僕の前に置いた。
「……お邪魔します」
廊下を進んでリビングに入る。大きい窓、大きいテレビとソファ、四人掛けのテーブルが無造作に置いてある。殺風景というか、生活感のない部屋だ。それにしても、広い。
「普段は自分の部屋に引きこもってるからさあ、埃とか落ちてるかも。ごめんね」
麦茶でいい?という声とともに、テーブルの上に氷の入ったグラスが置かれた。
「ああ、ありがと」
促されて座る。向かいの席に夏月も腰を下ろし、麦茶をぐびぐびと飲んだ。ぷはっとグラスを置く様がおっさんくさい。
「で、さっきの続き。イージマ君、受験の時電車で誰か助けなかった?」
「助ける……?」
受験会場に向かう電車で、僕は何をしていただろう。多分最後の復習をしていた。
「あ」
電車が大きく揺れて、派手に転んだ男子に、手を貸したかもしれない。
「それ、俺」
僕は夏月をまじまじと見た。「心当たり」の少年とはかけ離れて見えた。
「どこから説明したらいいのかわからんけど……」
夏月は僕に見つめられて照れたのか、ぼりぼりと頭を掻いた。
「俺、人の心が読めるようになったんだ」
キリッとした顔で彼は言った。やっぱり中二病だ。僕はがっくり肩を落とした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます