58話目 幼馴染達と王子様ファンクラブの百合対決

 朝登校して教室に入ろうとしていると、10人ぐらいの純のファンクラブの女子に囲まれる。


 僕と1番距離の近い女子Aが口を開く。


「今いいですか?」


 久しぶりに純と関わるなと文句を言いにきたのかと考えていると。


「「「「「「「「「「ありがとうございました」」」」」」」」」」

「うん。授業が始まるから教室に戻るね」


 何で感謝を言われているのか分からない。


 教室に入ろうとすると、純ファンクラブ全員に後ろから服を摑まれる。


「私達に何かしてほしいことはありますか?」

「別にないよ」

「駄目です。王子様と放課後お茶をできるようになったのは百合中さんのおかげだと鳳凰院さんに聞きました」


 周りにいる女子達も口々に「そうです」と言う。


「だから、お礼をしないとわたし達の気がすみません」

「手を放してくれるだけでいいよ」

「駄目です。きちんと考えてください」


 願いを聞いてもらえる立場なのに何で怒られているのか分からない。


 真剣な表情で僕を見ている女子達は、何か言わないと引き下がりそうにない。


 適当にお菓子がほしいと言おうとしたら、目力の強い女子がくる。


「わたくしも百合中くんには感謝をしています」

「大したことしてないから気にしなくていいよ」

「駄目ですわ。受けた恩は必ず返すようにと祖父に言われてますの。だから、お礼をさせてください。百合が好きなのでしたよね?」

「急に何?」

「前に屋上で王子様と矢追さんのキスが見たいと叫びになっていたのを聞いて、女子同士が仲良くするのが好きなのだと思いまして」


 そう聞かれて疑問が浮かぶ。


 愛と純が百合カップルになってほしいけど、他の女子がそうなってほしいと考えたことがない。


 素直に「分からない」と口にする。


「なら確かめてみたらいいですの?」

「確かめるって?」

「そのままの意味ですわ」


 目力の強い女子は隣にいた女子Bに抱きつく。


「ほのかさん痛くないですの?」

「大丈夫ですよ」

「こんな感じでいいですの?」


 女子Bから離れながら聞いてくる目力の強い女子。


 はあ? そんな感じでいい訳ない。


 急に抱き着くなら慎重にではなく勢いよくしてほしい。


 その方が抱き着かれた方が驚いた後に、抱き着いた相手が大好きな人だと分かり安心する表情それが見たい。


 それに抱きつかれる方も、恥ずかしながらももっと抱き着いてほしいことをアピールするべき。


 痛くないので強く抱きしめてほしいとか、痛いので癒すためにこのまま抱きしめ続けてほしいとか色々あるだろう。


 はっきり言おう。


 ここにいる女子では、心を満足させることができないと。


 お礼なんてしなくていいと。


 口を開く。


「いいに決まっているだろう」


 言い終り、チャイムが鳴る。


「分かりました。休み時間は余り時間がないので昼休みにまたきますわ」


 目力の強い女子はそう言うと、純のファンクラブの女子達は自分達の教室に入る。


 あれ? なんでこうなる。



★★★



 やっとやっとやっと昼休みになった。


 別に、目力の強い女子と純のファンクラブの女子達の百合なスキンシップを見たいから昼休みを楽しみにしていたのでは決してない。


 お礼をしたいという目力の強い女子達の気持ちを受け取らないのは不誠実と思っただけ。


 よし、目力の強い女子がいる1年1組に行くよ!


 立ち上がろうとしていると担任が教室に入ってきて全員席に座るように言われ、嫌々席に座る。


 今日3時間目の体育の授業の後に、3年男子の制服が盗まれた。


 制服を見かけた人がいたら知らせるように言って担任は教室を出て行く。


 急いで教室を出ようとしたけど。


「今いいかな?」


 クラスメイトの眼鏡をかけた女子こと恋が話しかけてきた。


「ごめんね。今急いでいるから」


 謝りながら教室を出ると、愛がいた。


「どうしたのこうちゃん?」


 愛の問いかけに戸惑いながらも、表情に出さないように心掛ける。


「鳳凰院さんに用事があって1年1組に行く途中なんだよ」

「麗華も一緒にご飯食べたらいいよ! たくさんいた方がお弁当も美味しくなるからね!」


 どうにかして、別々に行く方法を考える。


「百合中くん約束通り来ましたわ。何をすればいいですの? さすがにキスをするのはできないかしら。……百合中さんには本当に感謝しているので、百合中さんが望むならいいですよ」


 やってきた目力の強い女子は近くに愛がいるのに僕に向けて言う。


「こうちゃんはらぶとじゅんちゃんの……キスだけが見たいって言ったのは嘘だったの?」


「……」


 愛の一点の曇りもない瞳で見られて、何も言えずに黙る。


 いや、黙る必要はない。


 なぜなら、僕は嘘を吐いていないから。


 目力の強い女子に視線を向ける。


「鳳凰院さん朝言っていたことだけど、なかったことにしてほ」


 言い終わる前に目力の強女子は後からやってきた純のファンクラブ女子Aの制服の上からお腹にキスをした。



『あなたのここは小さくて可愛いわ』

『鳳凰院さんやめてください。ここは昨日洗い忘れていたので、汚いのでキスしないでください』

『そうね。そこは洗い忘れやすいわね。でも、あなたの汚い所なんてどこにもない。だから、その邪魔な制服を脱いでもらっていいかしら?』

『……鳳凰院さんのためだったら……いいですよ』

『あら、可愛いですわね。もっと可愛い所をわたくしに見せてください』



 思わず妄想をしてしまう。


「百合中さんがしてほしいならもっとすごい所にしますわ」

「……しなくて……いいよ」


 見たいと思う気持ちが邪魔をして、否定することを言い淀む。


「こうちゃんがしてほしいなら、してもらえばいいよ!」


 微笑んでいる愛を見ながら深呼吸する。


 愛と純の百合カップル以外なんて、僕には必要ない。


 そのことを目力の強い女子に言おうとするけど。


「麗華! らぶも協力できることがあったら何でも言ってね!」


 先に愛が目力の強い女子に話しかける。


「協力しなくていいですわ。百合中さんのことはわたくしに任せてください」

「らぶもこうちゃんを喜ばせたいから、勝負をしようよ!」

「勝負ですか?」

「うん! らぶはじゅんちゃんと、鳳凰院さんは誰かと組んで、こうちゃんを満足させた方が勝ちってどうかな?」

「いいですわ。その勝負受けさせてもらいます」


 口を挟むことができずにややこしいことになる。


 止めることもできなさそうなので諦めた。


 僕達は純を校舎裏にまで迎えに行き、屋上に向かう。


 僕が真ん中で右側に愛と純、左側に純ファンクラブがいる。


 ルールは全部考えるように愛に言われたから、考えて全員に伝えた。


 勝負は1回限りで、得点は10点満点。


 僕が萌えたり尊いと思ったらポイントを追加する。


 事情を全く知らなくて戸惑う純と目力の強い女子がじゃんけんをして、純が勝った。


 愛と純が先行になる。


 愛達を凝視する。


「じゅんちゃん勝つよ!」

「……おう? 何に勝つの? らぶちゃん説明して」

「説明なんてなくても大丈夫だよ! とにかく勝つんだよ! じゅんちゃん! 目をつぶって唇を前に出して!」


 まさか、いきなり口同士のキスなのか⁉


 そんなことをされたら心が満たされ過ぎて、他のものを見ても満足できない体になる。


「もしかして口にキスをする?」

「らぶも恥ずかしいから……キスって口に出さないで!」


 顔を赤らめた愛にそう言われた純は「……ごめん」と落ち込む。


「前にも1度したからできるよ!」

「前のキスはテンションが上がっていたからできた」

「どうしてもキスするの駄目?」

「駄目ではないけど、そういうのは好きな人とする」

「じゅんちゃんのこと大好きだけど駄目?」


 愛は純の体を摑んで背伸びをしながら必死にキスをしようとしている。


「じゅんちゃんほら早く! 勝負は油断していると負けるよ!」

「……こうちゃんが見てるから恥ずかしい」


 耳を真っ赤にしながら掠れた声を出す純。


 妹として可愛すぎるので兄ポイントを10点あげたい。


「じゅんちゃんはらぶだけを見ていて! すぐに終わるから!」

「……おう」

「じゅんちゃんが恥ずかしそうにしたららぶまで恥ずかしくなるよ」

「……ごめん」

「そのままゆっくりとしゃがんで!」

「……おう」


 つま先立ちで震えながら愛は純に近づく。


 純はしゃがんで愛に近づき、その途中で純は僕のことを見る。


 その瞬間、顔を紅くした純は自分の耳に手を当てて俯いて愛と額同士がぶつかる。


 愛はその場に倒れたので急いで向かう。


「こうちゃん、らぶとじゅんちゃんは何点?」

「10点だよ」


 愛は立ち上がり嬉しそうに跳びながら、まだ俯いている純に抱き着く。


「じゅんちゃん満点取ったよ!」

「……おう。そうだね」

「じゅんちゃん嬉しくない?」

「……嬉しい」


 僕のことを一瞥しながら純が呟いた。


「何でキスしてないのに満点何ですの?」


 僕の目の前まできた目力の用意女子が抗議してきた。


「分からいの?」

「分からないから聞いているのです」

「なら分かりやすく教えるよ。僕はキスという結果を見たいんじゃなくて、それに至るまでの過程が見たいんだよ。エッチなことに全く耐性のないらぶちゃんが必死にヘタレ受けのじゅんちゃんを責めたのに目的のキスができなかったんだよ。その理由がもう1人の幼馴染の僕にキスを見られるのが恥ずかしくて、じゅんちゃんが俯いて額をぶつけたという可愛いい理由なんだよ! 天使かよ! 尊い過ぎるだよ! マジでらぶ×じゅん最高かよ!」

「何を言っているのか、聞いても分かりませんわ」


 純の視線に気づいて我に返る。


「私ってヘタレ?」


 純は絶望したような目で僕を見てきて、愛以外の女子は全員僕に敵意の眼差しを向けている。


 否定するように勢いよく顔を左右に振る。


「じゅんちゃんは全然ヘタレじゃないよ。あれだよ。あれ」

「王子様を虐めないでほしいですわ!」

「そうです!」

「私達で王子様を守りましょう!」


 目力の強い女子の威圧的な声に、純のファンクラブの女子達が肯定の言葉を口々に言う。


 考えろ、考えろ僕、純をこれ以上傷つかない言葉を!


「格好よくて頼りになるじゅんちゃんが、らぶちゃんに引っ張ってもらう所を僕は見たいんだよ」

「……おう」


 ほんの少しだけど純の表情が柔らかくなってよかった。


「わたくしとキスをしてほしいですわ」

「いいですよ。口と口をくっつければいいんですよね?」

「そうですわ。考えてみれば女性同士なので恥ずかしくないのですね。しますね?」

「はい」


 それから目力の強い女子達の番になるけど、全く百合のことを理解できていない。


 溜息をしながら、「0点」と告げる。


「何でキスをしたわたくし達が0点で、キスをしてない矢追さんと王子様が10点なのですか! 納得できません!」


 言ったことを全く理解できてない目力の強い女子達に熱く語ることにした。


「らぶちゃんとじゅんちゃんは先に弁当を食べてて。鳳凰院さん達と話が終わったらすぐに行くから」

「分かったよ! すぐにきてね!」

「おう」


 愛と純はフェンス近くに移動して弁当箱を食べ始める。


「わたくし達も王子様と一緒に食べたいですわ!」

「そうですね。王子様と食事ができることなんて滅多にないですからね」

「昼休みがもう少しで終わるので急がないといけないです」


 目力の強い女子達がフェンスの方に行こうとしたから、両手、両足を広げて通せんぼする。


「百合中さんそこから引き下がってほしいですわ」

「鳳凰院さん達が百合のことを理解できまでここを退かないよ」

「引き下がってください!」

「まずは百合にとって大切なことは」


 目力の強い女子に強い口調で言われたけど、気にすることなく百合について講義を始めた。


「百合中さんにお礼なんてしようとしなければよかったですわ」

「僕が百合の話をしている時は私語をしない!」

「……申し訳ございません」

「話が途切れてしまったから最初から話すね。そもそも百合っていうものは尊いもので」


 それから、チャイムが鳴るまで僕の百合講義は続く。

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