55話目 面倒くさい男子達
昼休みのチャイムが鳴ると、体が無駄に大きい角刈りの髪型をした男子が教室にきて、僕を肩に抱えて教室を出ていく。
角刈り男子は汗でべたべたして気持ち悪く、暴れて下りようとするけど力が強くてできない。
「今すぐ離せ」
「黙ってろ」
「何が目的なんだよ」
「少し黙ってろ。何もしないから」
「すでに気持ち悪いんだけど」
「気持ち悪くなんてない。喧嘩売ってんのか?」
「喧嘩売ってるのはそっちだろ。いい加減にしないと喧嘩買うよ」
「……ごめんなさい」
腹が立って角刈り男子を睨むと謝るけど下ろしてくれない。
少しして校舎から少し離れた2階建ての小さな建物に着く。
柔道部とドアの出入口に書かれている部屋に入り、ベンチに座らされた。
部屋中が汗臭くて今にも吐きそうになる。
角刈り男子は僕を見下ろす。
「俺も鳳凰院みたいに矢追たんと遊ばせてくれ」
「絶対に嫌。そもそもらぶちゃんと鳳凰院さんは遊んでないよ」
「鳳凰院が遊んだのは小泉の方だな。土曜に小泉と鳳凰院とお前が3人でクレープを食べているのを見たぞ。俺もらぶちゃんにあーんして食べさせたい」
「つけてたの?」
「そうだ。ついて行けば矢尾たんに会えると思ったからな」
「ストーカーみたいで気持ち悪いよ」
「気持ち悪くなんてない」
叫びながら殴ろうとしたので、睨みつけると拳を構えたまま1歩下がる。
「僕は教室に帰るよ」
「どんなことでもするから矢追たんと仲良くなるために協力してくれ。お願いだ」
その場で土下座を始める角刈り男子に冷めた目を向ける。
「絶対嫌だよ」
「こんなに頼んでいるにか?」
「そうだよ。らぶちゃんには汚い男子なんていらないんだよ」
「だったら男のお前だって矢追たんから離れろよ」
角刈り男子の頭の近くの床を力強く踏む。
「らぶちゃんとじゅんちゃんが僕のことを必要ないと言ったら僕は離れる覚悟はあるよ」
「……」
「そう言われないために僕は努力をしている。お前はらぶちゃんに好かれる努力はした?」
「……」
「努力もしないで僕に頼るなんて、らぶちゃんに好かれる権利なんてお前にはないよ」
「……分かった。努力してみる」
小声でもその言葉には力強さを感じたから。
「まあ、努力しようとしてらぶちゃんに近づこうとしても僕が邪魔するよ」
その芽を摘むことにした。
「は? ここは俺の男気に惚れて協力する場面ではないのか」
「しないよ。だって僕は男が苦手で嫌いだからね」
「ここまではっきり言われると格好いいな」
「男子に格好いいと言われても嬉しい所か苦痛でしかないからやめて」
「お前のこと怖いけど、それ以上に腹が立つから今の俺なら殴れる気がしてきた。いや、殴る」
走りながら向かってきたから、足をだして転ばしてその間に教室に戻る。
★★★
家庭科部でいつも剣が作っているからたまには僕が作ることにした。
剣のリクエストでクレープを作る。
フライパンでクレープの生地を焼くことに剣は驚いているが結構簡単。
生地を数枚焼いてその上に生クリームや板チョコを砕いたものや切ったバナナをのせて完成。
横に並んで椅子に座ってクレープを食べる。
「こんなに美味しいクレープ食べたことないです」
今更だけど、前髪で顔が隠れているのに普通に行動できるが不思議だな。
「先程小泉さんがたくさんの女子と一緒に下校してましたよ」
クレープを食べ終えた剣が話しかけてきた。
「クラスの女子とクレープを食べに行くと朝言っていたからそれだね」
「学校帰りに寄り道するなんて今までに1度もしたことがないです」
「今度一緒に食べに行く?」
もちろん愛と純も連れて行く。
「わたしがクレープ屋さんに行くなんて、クレープ屋さんを冒涜しています」
「別にしていないと思うけど」
「いいえ、しています。クレープ屋さんはおしゃれで可愛いんです。わたしみたいな根暗な女子が入ったら店員さんに怒られます」
髪の上から目? を手で隠しながら震えている剣を見ていると、嗜虐心が刺激されて意地悪をしたくなる。
立ち上がり剣の手を握る。
「じゃあ、今から行こうか?」
「今からは絶対に無理です! せめて練習させてください!」
「練習って何をするの?」
「百合中君が店員さんをやってください。わたしがお客をやります」
剣が部屋を出ていって、数分過ぎても剣は部屋に入ってこない。
ドアを開けると、出入口付近で体育座りをして小刻みに震えている剣がいた。
「どうしたの?」
「今からクレープ屋に入ると思ったら体が震えて動けなくなって、いつの間にか座ってました」
「練習するのも今度にしようか?」
「……はい。そうします」
席に戻りクレープを食べていると剣が呟く。
「小泉さんは強いですね。大勢の人に囲まれてクレープ屋に行けるんですから」
「女子なら友達とクレープ屋に行くのは普通じゃないかな」
「わたしが言いたいのはそうじゃないです。小泉さんはわたしと一緒で他人を怖がっているのに一緒に行けるのが凄いってことです。小泉さんとわたしが一緒なんておこがましいですが」
「じゅんちゃんが他人を怖がっている」
剣の言葉を反芻する。
純は面倒だから僕と愛以外の人と関わっていない。
でも、それだけじゃないことを僕は知っている。
「勝手に決めつけてごめんなさい。わたしにはそう見えたというだけなので気にしないでください」
剣は純と数回しか顔を合わせていないけど、長年一緒にいる愛も気づいていない純の暗い部分を見抜いた。
人見知りをしているが可愛いものにはテンションの上がることしか知らない剣のことを深く知りたい。
部活が終わり剣と別れて帰宅していると、コンビニの前で眼鏡を掛けた男子が強面の男子数人に絡まれていた。
「おい、そこの兄ちゃん。こいつを助けなくていいのか?」
男子がどうなろうと興味がないから去ろうとすると男子Aが話しかけてきた。
「いいよ。男子がどうなろうと僕には関係ないから」
「血も涙もないな」
「それでいいから、もう行っていいかな? 家で僕の帰りを待っている人がいるから」
「少しでいいから俺の話を聞けや」
男子Aは僕に説教をするような感じで話しを始めた。
「そりゃ知らない人が困っていてそれを助けなくても損することない。それ所が飛び火になって怪我するかもしれん」
「なら、帰っていい?」
「いいから最後まで俺の話を聞け! でもな、困っている人が助けるっていうのが人情っていうもんやろ。助け合いの気持ちがなくなったら人間生きていけなくなるで」
いじめをしている人にそんなことを言われても説得力がない。
面倒なので無視して走る。
「おい、待て! まだ話は終わってない! 待て! 待てや、こら‼」
全力で走る僕を不良数人は追いかけてきて、徐々に距離が縮まる。
このまま走り続けても追いつかれてしまう。
適当な家の敷地内に入り隠れる。
少しして、道路の方に出ると絡まれていた眼鏡をかけた男子がいた。
ここに眼鏡男子がいることに違和感を覚えた。
普通逃げるとしたら不良達がいる方向に逃げるのではなく、その逆方向に逃げるはず。
家がこっちの方向にあるのなら分かるけど、それでも時間をもう少し空けたり、親に迎えに来てもらう。
聞きたいほど気にならないので家に向かい歩いていると、眼鏡男子は僕についてきながら言う。
「助けてくれてありがとう」
「いや、助けてないけど」
「結果的には助けてくれたから感謝させてほしい。ありがとう。お礼もしたいんだけど何かしてほしいことはある?」
「何もしなくていいよ。僕は急いでいるから帰るね」
「そう言うわけにはいかないよ」
休憩したおかげで体力は回復しているので走る。
追いかけてきた眼鏡男子に服を摑まれる。
「お礼をさせてくれるまで帰さないよ」
思わず手が出てしまいそうになるけど必死に我慢。
眼鏡男子は何も悪いことをしていないだから、大人な態度で接することにした。
「今は思いつかないから、思いついた時に言うよ」
「絶対だよ」
「うん」
そう言うと、眼鏡男子は暗闇の中に消えるようにいなくなる。
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