50話目 大きな幼馴染の猫パジャマ姿

 純と目力の強い女子が少し仲良くなった次の日。


 昼休みに愛と、愛に手を繋がれた純が教室にやってきた。


「こうちゃん、お昼食べに行こう!」

「僕は少し用事があるから、らぶちゃんとじゅんちゃんは先に屋上に行ってて」

「分かった!」

「おう」


 愛と純は頷いて教室から出て行く。


 1年1組に行き、教室に目力の強い女子がいたので近づく。


「あなたの所為で王子様に恥ずかしい所を見せてしまいましたわ」

「恥ずかしい所?」


 僕に気づいた目力の強い女子は耳元に顔を近づけて、小さな声で言う。


「そうです。王子様に撫でられることが嬉しくて泣いてしまったことです」


 昨日、目力の強い女子は純に感謝の言葉を言い終わると、その場で尻餅をつき大声で数分ほど泣き続けていた。


 純の困り顔が可愛くて見惚れる。


「王子様に嫌われたらどうしてくれるのですか?」

「じゅんちゃんはそんなことで嫌わないよ」

「そうですけど。もし、嫌われていたら責任取ってください」

「わかったよ。今から確認しに行こう」


 目力の強い女子の手を握ると少し嫌な顔はされた。


 抵抗しないので屋上に連れて行く。


「どこに向かっているのですか?」

「じゅんちゃんがいる屋上だよ」

「王子様がいるのですか?」

「そうだよ。弁当を食べながら鳳凰院さんのことをどう思っているかじゅんちゃんのことを聞こうと思って」


 階段を上っている途中で急に目力の強い女子が立ち止まる。


 後ろに軽く引っ張られ落ちそうになり踏ん張る。


「聞くのが怖いので行きたくないですわ」

「じゅんちゃんが、鳳凰院さんの大好きな王子様が信じられない?」

「信じられないはずないですわ」


 屋上に着くと愛と純が横に並んで、愛が純に卵焼きを食べさせていた。


「王子様が餌付けされていますわ!」


 そう叫びながら目力の強い女子は2人の所に走り出し、愛と純の間に割り込む。


「ヒィッ!」


 純に冷たい視線を向けられて、僕の方に戻る。


「王子様に、王子様に嫌われたわたくしはどうしたらいいですか?」


 愛は気にしないけど、僕と純は3人の時間を他人に邪魔にされるのが何より嫌う。


 ここに目力の強い女子を連れて来たのは失敗だったな。


 愛がきて目力の強い女子の手を握る。


「一緒に食べよう!」


 目力の強い女子が答える前に愛は純がいるフェンスの近くまで引っ張っていく。


 目力の強い女子、愛、純、僕の順に座る。


「麗華のお弁当美味しそうだよ!」

「呼び捨てもやめてほしいですし、名前で呼ばずに名字で呼んでほしいですわ」

「分かった! 麗華!」

「全然分かってませんわ!」


 愛と目力の強い女子が騒がしく話しながら食事をしている。


 横で純と僕は黙々と食べていた。


 いつもだったら、僕と愛の弁当を純に食べてもらいどちらが美味しいか判定しもらう。


 愛は目力の強い女子と話すことに夢中でそのことを忘れている。


 純は目力の強い女子を髪で隠れていない右目で睨んでいた。


 僕と愛が傷つけられること以外では純は相手を睨まない。


 目力の強い女子に愛が取られたようになっている今は、純が嫉妬して睨んでいることが分かる。


 愛を嫉妬させるために作戦を立てて行動してきたのに、純が嫉妬した。


「らぶが作ったおにぎり美味しいよ!」


 おにぎりを手づかみで目力の強い女子の口の前まで持っていく愛。


「わたくしのがあるのでいらないですわ」

「美味しいよ!」

「そういう問題じゃないですわ」

「麗華! あーん!」

「しょうがないですわね」


 愛の押しに負けた目力の強い女子は口を開いて一口食べる。


「か~~~ら~~~いですわ~~~~~~~」


 その場に倒れて藻掻き始めた。


 辛党の愛の弁当は全て激辛使用。


 おにぎりも例外に漏れることなくハバネロソースが大量にかかっているからこうなる。


「大変だ! 麗華がおにぎりで喉を詰まらせたよ! らぶのお茶を飲んで!」


 愛から受け取った水筒のコップに入っているお茶を目力の強い女子は一気に飲み。


「に~~~が~~~いですわ~~~~~~」

「まだまだお茶が必要だよ! でも、お茶がもうないよ!」


 藻掻く動作が大きくなった目力の強い女子を心配した愛は水筒からコップにお茶を注ごうとするが出てこない。


「飲み物買ってくるよ!」


 愛はそう言って屋上を出て行く。


 麦茶を目力の強い女子にあげると、ごくごくと飲んで落ち着きを取り戻し。


「矢追愛恐ろしい子ですわ」


 と呟く。



★★★



 昼休みのことがあって、純の中で目力の強い女子は仲良くなれそうな人から幼馴染達の大事な時間を邪魔する人に変わった。


 休み時間にすれ違った時に純に睨まれた目力の強い女子は涙目になっていた。


 純と目力女子を仲良くするより、愛と目力の強い女子を仲良くした方が早いかも。


 僕が何もしなくて、人懐っこい愛なら目力の強い女子とも簡単に仲良くなれる。


 親友のように仲良くなった2人の姿を見た純は愛に対して抱いていた家族愛が恋心に変わるかもしれない。


 でも、これには大きな問題がある。


 それは、愛が純に恋心を全く抱きそうにないこと。


 愛は純が他の女子と仲良くしていても嫉妬する所か、自分も一緒に遊ぼうとするだろう。


 なら、何で純と目力の強い女子を仲良くさせて愛を嫉妬させようなんて、意味のないことをしているかというと。


 どうしても、愛と純を百合カップルにしたいから。


 少しの希望でも縋りたいんだよ、僕は!


 試行錯誤すれば愛も、「じゅんちゃんはらぶだけを見て! 今度よそ見したら、よそ見できないようにキスしちゃうよ!」みたいなことになるかもしれないだろ。


 そうなればいいな。


 放課後、そんなことを考えながら歩いていると、いつの間に調理実習室の前に着いていた。


 ドアに手をかけようとしていると、その手を握られる。


 隣を見ると、僕を睨む目力の強い女子がいた。


「あなたの所為で王子様のまで叫ぶという醜態をさらしてしまいましたわ。どうしてくれるのですか……あなたは何も悪くないのに、あなたの所為にして申し訳ございません……」


 急に怒り始めたり、謝罪してきたり、情緒不安定。


「王子様がわたくしの睨むのも、世の中が不景気なことも全てわたくしの所為ですわ。生まれてきて申し訳ございません。お父様、お母様、申し訳ございません」


 目力の強い女子が病んでいると、調理実習室の扉が開く。


「百合中君今ランイを送った所なんですけど見ま…………」


 虚無な目をしている目力の強い女子に顔を向けた剣は人見知りを発動させて固まる。

 剣はランイを送信したと口にしたので、鞄からスマホを取り出して内容を確認する。



『今日用事があるので帰りますね。部活動は百合中君がしたいならしてもいいですよ』



 剣に「分かったよ」と言うと、頷いて靴箱の方に歩いて行く剣。


「わたくしの所為でさっきの方は帰ったのですか? きっとそうですわって、面倒臭そうな顔しないでください」

「実際に面倒くさいから仕方ないよ。落ち込むより、じゅんちゃんと仲良くなる方法を考えた方がいいよ」

「辛辣な言葉ですけど、あなたの言う通りですわ。考えてみますわ」


 純に目力の強い女子を好印象に思わせるためには。


 調理実習室が目に入り案が浮かぶ。


「鳳凰院さんってお菓子は作れる?」

「料理は子どもの頃から教わっているので一通り作れますが、お菓子は作ったことがないですわ」

「じゅんちゃんは甘いものが大好きだから、じゅんちゃんのためにクッキーを作ろう」

「あんなに格好いいのに、甘い物が好きなんてありえませんわ! あなたは嘘を吐いてます」


 スマホに保存している猫のパジャマを着てチョコを食べている純の画像を見せる。


「可愛いですわ~。この人は誰ですの?」

「じゅんちゃんだよ」

「確かに王子様に似てますが……王子様の姉様や妹様ではないのですか?」

「じゅんちゃんに姉妹はいないよ。正真正銘ここに写っているのはじゅんちゃん」

「……」


 俯いた目力の強い女子は純が理想と違ってショックを受けたのかもしれないな。


 純のありのままを受け入れることができないなら、純と目力の強い女子を仲良くさせたくない。


「格好いいだけではなくて、可愛いなんて今まで以上に王子様のことが好きになりましたわ! 今すぐお菓子を作りましょう」


 去ろうとしていると、顔を上げた目力の強い女子は水を得た魚のように元気になり調理実習室に入り、後に続く。


 お菓子作り初心者でも作れるレシピをスマホで探し、クッキーを作ることにした。


 目力の強い女子にレシピを見せると1人で作り始める。


 手際がよくて手伝うことがないから、椅子に座って窓から外を見る。


「味見してみてください」


 しばらくして、目力の強い女子がそう言う。


 天板に載った星形クッキーを手に取るとほんのりと温かい。


 口に入れると食感が軽く程よい甘さなのでいくらでも食べたくなる。


「これなら、じゅんちゃんも喜ぶよ」

「ありがとうございます。今度王子様に会えた時に渡しますわ」

 真剣な顔でお菓子用袋にハート型のクッキーを入れてピンクのリボンで結んでいる。


「今度じゃなくて、今から渡しに行こうよ」

「今からですの?」

「今からだよ」

「無理ですわ!」


 食い気味に目力の強い女子は言う。


「いきなりお菓子を渡してくるわたくしを変に思いますわ!」

「思わないよ。じゅんちゃんはそんなこと気にせずに、クッキーもらえることを喜ぶと思うよ」

「でも、でも、無理です。心の準備ができていないですわ」

「分かったよ。その代わり今から買い物に付き合ってもらっていいかな?」


 話し合いをしても目力の強い女子は動かないから説得するのをやめて、他の方法に切り替える。


「何であなたの買い物に行かないといけないのですか?」

「今日のスーパーで1人1個しか買えない卵のパックが安いんだよ。だから、お願い」

「……王子様と仲良くなるために色々協力してくれたのでお礼として付き合いますわ」


 後片づけをして僕達は外に出る。

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