竜の軍の襲撃

 翌日の事だった。王城の広間に、召喚者達は集められたのだ。昨夜にあった出来事を伝える為に。


「皆に、残念な報告がある……」


 悲痛な表情で勇希は皆の者に告げる。


「昨夜、三雲君が影沼君に襲撃されたそうだ……」


「なっ!」


「あの馬鹿野郎! そんな場合じゃないって言うのによ!」


 召喚者達は騒めき始めた。


「それで、影沼の野郎は今どこにいるんだよ?」


「影沼君は三雲君を襲撃した後……逃亡したようだ」


 来斗もその場に同席していた。来斗が無事だった事は本人がこの場にいる事で皆が理解していた。だからその点に関して心配をする必要性はなかったのだ。


「ちっ……逃げやがったのか。あの野郎、見つけたらただじゃ済まさねぇからな」


「こんな時にあいつ……何やってるんだよ。今は仲間割れなんてしてる場合じゃねぇってのに……」


 各々が影沼の凶行に対して、憤りを感じているようであった。


「だが、今は影沼君の事を心配している場合じゃない……なぜなら、三雲君の情報によると、これからこの王国に魔王軍の六天王の一角が竜を率いて攻め入ってくるそうだ」


 勇希は話題を切り替える。逃亡した影沼に構っている余裕は召喚者である彼等にはないのである。彼等が奮起しなければ、前回の二の舞になってしまう。来斗の記憶によれば、前回、皆が敗北を喫した相手なのである。


 召喚者達はチート天職を女神から授けられた。そしてその力に溺れ、奢っていた。しかし、力はより強い力により叩きのめされた。そうやって、彼等は全滅していったのだ。そして、滅びの時は近い。


「だから各々が準備をしていってくれ……相手が襲ってくるという事と、その種族がわかっているのだから、大分やりやすいはずだ」


 どれだけの時間が残されているかはわからないが、限られた時間で出来る事をするしかない。それはいつ何時、いかなる場合でも変わらないのだ。


 だが、その限られた時間があまりに少なすぎるという事を、彼等はまだ理解していなかったのである。そしてその事を理解する時が間もなくやってくるのだ。


 王城の扉が勢いよく開かれる。


 見張り役の兵士が帰ってきたのだ。


「はぁ……はぁ……はぁ……こ、国王陛下! ほ、報告がありますっ!」


「な、なんだ……そんなに慌てて」


 嫌な予感がした。嫌な空気がその場を支配する。


「て、敵襲です! 北の方角! 魔界の方角から無数の竜の群れが攻め入って来ているのですっ!」


「な、なんだとっ! そ、それは何という事だっ! 我々に残された時間はこうも少なかったのかっ!」


 先日までパーティーを開き、浮かれていたのだ。天にも昇る気持ちから、地の底に叩きつけられたような、そんな落差があった。


 国王は大慌てをしていた。


「どうするんだよ! どうすりゃいいんだ!」


「ちょっと、落ち着いてよ!」


 召喚者の中にも、パニック状態になる者もあらわれた。そうでなくとも、心が掻き乱されている者も少なくない。


「落ち着け! 落ち着くんだ! 今の状況の中で出来る事を! 最善の判断をするんだっ!」


 勇希は混乱している仲間達をどうにか制しようとする。


「行こう……ティア。君の力が必要なんだ……。絶望的な未来を変える為に力を貸してくれ」


「はい……ライトさん。封印されていた私に自由を与えてくれたのはあなたです。私の全てをライトさんに捧げます」


 こうして、来斗達と竜の軍との戦いが始まるのであった……。


 ◇


(魔王軍六天王、竜王バハムート視点)


 人間の王国アルヴァートゥアから遥か遠くにある天空を一匹の白竜が飛んでいた。巨大な白竜である。そして、その竜の背に乗っているのは黒髪をした少女。彼女は人間のように見えるが、竜人(ドラゴニュート)であり、決してまともな人間ではない。


 その正体は巨大で邪悪な、暗黒の竜である。彼女こそが魔王軍六天王が一人——竜王バハムートである。


 白竜の飛翔速度は凄まじく、目的地までは何百キロと離れているのだが、一瞬で到着してしまいそうだ。


 他にも数多の竜が大空を染め上げるかのように、飛翔している。白竜の移動についていく為に、必死で飛んでいるようだ。


『バハムート様……間もなく目的地まで到着します……』


 白竜はそう念話(テレパシー)で語り掛ける。


「そうか……もうすぐ着くか……クックックック」


 バハムートは犬歯を覗かせる。その獰猛な笑みはまるで凶悪な野獣のようであった。人間など、彼女にとっては家畜のような、低俗な存在でしかない。


「ひと捻りにしてやる……蹂躙してやる……脆弱な人間共よ。クックック! アッハッハッハッハ!」


 大空に竜王バハムートの哄笑が響いた。王国アルヴァートゥアが戦火に飲まれるのも、もはや時間の問題であった。



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