第二十五夜「チームプレイ-1」

 レーダース達による大規模な探査計画が始まった。リーダーに選出されたのは「ミール」と呼ばれる女性。イーグルは彼女のことを知っている。彼女の能力は桁違いで、その探査距離は群を抜いている。

 今回行われるのはレーダース十名程度による超長距離探査。目的は更に遠方の進んだ文明との交信、そして究極は宇宙の果ての成り立ちを調べる事だ。

 ビッグバンは百三十八億年前に起こり、宇宙空間は今も加速度的に広がっている。そして現在、人類が把握できているのは半径約四百六十五億光年の球状の範囲であるということだ。そこから向こうは存在するのかどうかすら分からない未知の空間で、予測することすらできない空間なのだ。それを知ることが出来るのはレーダースだけであり、人類の文明の利器は全く役に立たない。

 イーグルはチームの一番後方の位置を指示された。初めは少し不満だったが、ラグビーでもフルバックは重要な位置だと言い聞かせてそのポジションに納得した。

 作戦時間は二時間ずつ六回。各自が宇宙ステーションの外に配置が終了した時から作戦が開始された。宇宙服のバイザー内部には色々な情報が表示されている。各自の展開状況やコンタクトに必要なエネルギー出力。成功した時のアラームと生命維持装置の稼働状況、精神状態、体力、通信装置、安全装置、他、雑多なコンディションが表示されている。

 すべての確認項目がクリアになり作戦は開始され、先頭のミールが外宇宙に向けてメッセージを送り始めた。その力はイーグルには今まで経験の無い強力なエネルギーだった。

 これはミールの癖なのだろうが、彼女は両手を組み合わせて祈る様にエネルギーを拡散していく。その姿は敬虔けいけんなクリスチャンにも見えるが、彼女は一切の宗教を否定していて神の存在すら信じていないし、神に頼ることもない。不確かな物にすがってもしょうがない、それが彼女の処世しょせいだった。チーム全体がミールに合わせてエネルギーを送り始めると、

 エネルギーは煌めきながら拡散し、暗黒の宇宙が一瞬輝く。イーグルもそれに合わせて、全力のエネルギーを放出する。ただ、これは短距離走ではない、マラソンに等しい作戦なのだ。闇雲に消耗するわけにはいかない、そして自分はフルバックなのだと自覚しなければならない。

 一度目のコンタクトは空振りに終わり全員がミーティングルームに集合した。

「諸君、良く集まってくれたね。一回目のコンタクトは失敗したが、同じ事を休息を挟みながら、」あと五回行う。皆、肝に銘じてほしいが、この作戦は、地球存亡の危機を回避する為の重大な作業だ。全員一致して臨んでほしい。何か質問は?」

 作戦司令の言葉に入り口付近で自販機の缶コーヒーを口にしながら、ミールが質問した。

「もし、この作戦が失敗したらどうなるのですか?」

 ミールは、あくまで無表情に淡々と質問した。

「これは全員に言っておきたい事だが、作戦が失敗する事は想定しないで欲しい。それは、ここにいる全員が地球最後の希望だからだ。空間転移もワームホール航法も今の地球文明においては全て否定されている。人類には手段がない、だから成功する事しか考えてはいけないんだよ」

 ミールは少し考えた後、無表情に分かりましたとだけ答えた。不満そうというよりは重責を改めて理解した、そんな雰囲気だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る