第207話

「テレーズ殿下。コーラス流の魔法は無詠唱で行う事が必須ではありません。私も短い単語を用いて魔法を発動させる事が良くあります。」

「ふーむ、魔法は奥が深いなあ。」

「コーラス様の教えは、『魔法はイメージ、グーっと溜めてバーっと出す』ですから。」

「あはははは。何だかアンドレの『スッと行ってズバッ』に似てるわね。」


 そう言われると近いものがある気がする。どちらも教えるのがへ・・・。


(あたしの教え方が何だって?)

 いえ何でもございません、コーラス様。


(あたしの教え方じゃなくて、お前がより良い教え方を考えて広めれば良いんだよ。そのためのジローなんだから。頼んだよ。)


 いつも突如としてお出ましになられるのはやめて頂けませんか、コーラス様。毎度の事ながら吃驚します。そのうち心臓麻痺で死にますよ、俺。そしたらアリア様に叱られるのはコーラス様ですからね。


「ジロー、どうかしたの?」

「あ、いえ何でもございません。アンドレ隊長の言葉を理解して剣術の稽古をしているテレーズ殿下なら、きっと魔法の上達も早いのではないでしょうか。」

「そうだと良いなぁ。」


 こんなやり取りをしながら、本日の魔法の練習暇つぶしは終了。俺は周りに人の目が無いところでドアを開けてもらい、馬車から降りた。あーやれやれだ。


*****


 それから数回練習を重ねた結果、テレーズ殿下の飲水の魔法はカップ1杯くらいの水が出せる様になった。やっぱり魔法の適性と言う点では、勇者の血筋であるヘルツ王家には敵わないのだろう。テレーズ殿下の名誉のために言えば、このくらいの水の量が普通なんですよ。一般的にはこんなもの。どこかの姫様とか、王子様が特殊なんですよ。


「でも悔しいわぁ。もっと上達したいのに。」

「テレーズ殿下。これでも一般的な水の量です。決して殿下が劣っている訳ではございませんよ。」

「何かもう少し出来る様な気がするんだけどなー。」

「飲水の魔法だけが水魔法ではありません。他の魔法もお教えいたしましょう。」

「でも、出せる水の量が多い方がより大きな水魔法を使えるわけでしょう?」

「それはその通りでございますが。」


 何かやっぱり納得して頂けないみたいだが、テレーズ殿下の仰る事も間違ってはいない。生み出せる水の量が多ければ、それだけ威力も大きくなるわな。例えば水球。ピンポン玉サイズとソフトボールサイズとバスケットボールサイズ。同じ勢いでぶつけたとしたら、そりゃバスケットボールサイズが一番威力があるに決まってる。


「私の泉のイメージって小さい時に見たものだから、今一つ鮮明じゃないのよね。ほら、あそこの森の奥に行ったら、泉がありそうじゃない?」


 窓の外を見てテレーズ殿下はそう仰ったが、それにいち早く反応したのはマルグリットさんだった。


「姫様。そんな事を仰って森の中へ遊びに行くお積もりですね。その様な我儘は許されませんよ。」


 テレーズ姫様の悪だくみは、早くもマルグリットさんによって阻止された様だ。頼りにしています、マルグリットさん。どうか俺達を守って下さい。

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