第170話
「ドナルドから連絡があったと聞いたが、本当か。」
「はい。今朝方、冒険者組合から文が届きました。ジローとアンナが戻って来たとの事で、面会を求めて来ています。」
「やはりエルフの秘薬を手に入れるために、何か条件を提示されたのだな。そう面倒な物でなければ、例えば金で済む話なら良いのだが。」
ここは王宮の奥まった一室。王族以外、極僅かな者しかこの区画には入る事を許されない。そこで国王と宰相が密談をしていた。
「ところが、ドナルドによれば彼らはエルフの秘薬を手に入れて戻って来たそうです。」
「何だと?仮にもエルフの秘薬と呼ばれるものだぞ。そう容易く入手出来る筈あるまい。最低でも半年、いや1年は掛かると思っていたが。」
「かの者は女神様の奇跡を起こした者。いいえ、本人は認めておりませんでしたな。その者たちであれば、このわずかな期間で入手する事も或いは不可能ではないのでは、と。」
するとその時、ドアがノックされ外から声が駆けられた。
「失礼します。エリック参りました。」
「失礼します。同じくギルバート参りました。」
「二人とも中へ入れ。」
王子殿下お二人そろっての登場である。決してエマ姫をハブっている訳では無い。
「早速だが、ジローとアンナのペアがエルフの秘薬を手に入れて王都へ戻って来たとの報告があった。」
「っ。も、もうですか。些か早過ぎるのではないかと思いますが。」
事の発端となったギルバート殿下が焦りまくる。もう少し考える時間が有る筈だった。何だったら、じっくりと考える時間が作れるよう、気を利かせてもっとゆっくり帰って来て欲しかった、とはギルバート殿下の心の中の愚痴である。
「お前のためを思って、必死で駆け戻って来たのであろう。ギルバートよ、エルフの秘薬の使い道はもう決めたのか?」
「いえ、それは・・・。まだ決めかねております。」
「そうか。しかしあの者たちを何時までも待たせておく訳にも行くまい。」
「あと1週間。いえ、あと3日頂きたく存じます。」
良かれと思って急ぎ帰って来たジロー達であったが、思わぬところで混乱を招いていた。
「父上、そして兄上。丁度良い機会です。お聞かせ願いたい事が有ります。」
「それはエルフの秘薬に関する事か?」
「はい。」
「申してみよ。」
ギルバート殿下は居ずまいを正して、国王と兄殿下に向き合った。
「今後のこの国の行く末をどの様にお考えなのかをお教え頂きたいのです。父上の跡はエリック兄上が継がれるでしょう。そうなったとき、私は王弟として内政を補佐するのは勿論ですが、もし戦争になった時は王軍の総大将として出陣する心算です。」
「うむ。立派な心掛けだな。」
「お聞きしたいのはこの国の領土です。今後この国の領土を拡大する、つまり他国へ攻め入るお考えをお持ちなのでしょうか。それとも、現状を維持されるお心算なのでしょうか。そのご返答によって自ずと選ぶべき魔法も変わって来ると思います。」
将来の事は分からないしなぁ、と思いながら国王、宰相、エリック殿下の3人は顔を見合わせた。
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