第79話
家庭教師の日が決まったので、それ以外の日は自由である。自由、何て素晴らしい。という事で、アンちゃんの道場巡りについて行く事にした。勿論ストーカーしてるんじゃなくて、一緒に行くんだよ。
アンちゃんは大抵大聖堂へ行く。そこでコーラス様にお祈りしているのかと言うとそう言う訳ではなかった。道場がその周辺にあるという訳でもない。何故?
「やあ、お待たせ。」
フレッド隊長がやって来た。どうやら待ち合せしていたらしい。
「私も今来たところよ。」
む、何だこの会話は。おっさん大変気になりますよ、アンちゃん。
「ああ、今日は貴殿も来てくれたのですね。」
「ええ。今日はアンナの稽古を見学しようと思いまして。よろしくお願いいたします。」
フレッド隊長がにっこり微笑んで握手を求めて来た。
「私王都の地理が分からないから、フレッドさんにね各流派の道場を案内してもらってるの。」
何か呼び方もフレンドリーになっている様な。
「お忙しいところアンナのためにお時間を割いて頂いて、ありがとうございます。フレッド隊長。」
「そんな堅苦しい挨拶要らないからさ。隊長も止めてフレッドって呼んでよ。僕もジローって呼ぶからさ。」
模擬戦の時に意外に良い人かもと思ったけど、なんかそれ以上の思惑を感じるなあ。
「今日はピンポル流の見学だったよね。じゃあ行こうか。」
道すがら、ピンポル流は相手との距離を詰めた戦いを得意とする流派とのご説明を頂いた。
アンちゃんは嬉しそうにフレッドの後をついて行く。俺は何か引っかかるものを感じながら二人の後を追った。
さすが宰相閣下の紹介状は効果絶大で、何処の流派でも見学を断られる様な事は無い。乱取り稽古以外にも演武まで見せてくれる。俺にはさっぱりだが、アンちゃんは身じろぎもせずじっと見入っている。そして、時々フレッドと何か小声で話しをしている。
うーん、何かこのモヤモヤした感じは何だろう。こんな事なら宿屋で酒飲んでゴロゴロしてた方が良かったかな。演武を見るともなく見ていたら、どうやら終わった様だ。俺たちはお礼を言って道場を後にした。
「折角だから、どこかでご飯を食べて行かないかい?」
フレッドからお誘いが掛かった。まあ、この後特に予定は無いのだが。
「ジローはお酒が好きなんでしょ。美味しいお酒を出す店があるからさ。行こうよ。」
酒と聞いて心が動くが、アンちゃんを見ると何故か微妙な顔をしている。そう言えば、以前酔っ払ったアンちゃんをおぶって帰った事があったなぁ。
「折角のお誘いですが、アンナは酒があまり飲めないので食事だけなら。」
「折角ですが、私は今日は帰ります。さっき見た技を整理したいので。」
「あら残念ですね。ではジローだけでもどうですか?行きつけの雰囲気の良いバーがあるんですが。」
「いや、俺もアンナと一緒に帰りますよ。」
俺たちはフレッドと別れて宿屋へ向かった。一人帰る事になったフレッドは心なしかしょんぼりしている様だった。
後になって王城でフレッドの噂を耳にした。曰く、フレッドは女性よりも男性が好きなのだとか。えー!フレッドが気があるって言うのは俺の事だったのですか、コーラス様!
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