第51話
「押し出せー!」
リンキの城門が開くと王国兵が隊列を組んで駆けて行く。街の両側からはミュエーに乗った騎兵も出陣する。王国の応援部隊が間に合った様だ。そう言えば
俺とアンちゃんはリンキの街へ転がり込んだ。
「アンちゃん無事か?また斬られてないか?どこか痛いとこは無いか?血出てないか?・・・」
「ち、ちょっと、ジロー。私は大丈夫よ。どこも怪我してないわ。それよりあなたは大丈夫なの?近接戦闘はからきしなんだから。」
「俺はアンちゃんの後ろを着いて来ただけだからね。」
良かった。二人とも無事で。
「それにしても間一髪だったな。あそこで竜騎兵が来てくれなかったら死んでたよ。」
冷静になると俺は急に怖くなった。勢いで
震えが来てしゃがみ込むと、アンちゃんが隣に座って俺の腕を抱かかえてくれた。
「もう大丈夫よ、ジロー。応援軍も来てくれたし。街の中へ入れたし。」
アンちゃんが震える俺に優しく声をかけて落ち着かせてくれる。
「やっぱりアンちゃんは強いな。剣術の修行をしているだけの事はあるよ。俺なんてただ酒飲んでるだけのおっさんなんだ。」
「そんな事無いわよ。私も命を助けてもらったし。大活躍だったじゃない。」
*****
陣形が崩れた帝国軍に対し、王国軍は機を逃さず攻勢を開始した。帝国の中央本体は散開していたため、王国軍の騎兵に蹂躙された。また左右に展開していた帝国騎兵は、片方はミュエーに殆ど逃げられ白兵戦で抵抗しているが、制圧されるのも時間の問題だろう。もう片方は裸のおっさんの集まりだ。抵抗出来る筈もない。と言うか、見たくない。
こうして帝国軍は1日も掛からずに壊滅状態となり、敵将のシーグラム将軍は自刃して果てた。戦闘は終わった。
*****
翌日、冒険者組合の事務所に行くと、意外なほど落ち着いた雰囲気だった。もっと戦勝ムードで浮かれているのかと思ってたよ。受付のお姉さんに理由を聞くと、
「半数近くの冒険者が未だ戻って来ていないからよ。」
と辛そうな声で教えてくれた。つい先日まで笑い合ってた仲間が、今日はもういない。戦争は嫌だねぇ。
「アンちゃんが生きていてくれて、俺は嬉しいよ。」
「なによ。急にどうしたの?」
「だって、アンちゃんが居なくなっちゃったら、俺はまたボッチに逆戻りだもん。」
「そんな事無いわ。今ここにいる皆があなたの知り合いよ。」
事務所内を見渡せば、殆ど話をした事も無い奴もいれば、顔見知りもいる。森の狩人もいた。
「そうだね。そこそこ知った顔もいるし、ボッチじゃなさそうだ。」
「そうよ。これからもっともっと増えるわよ。だってあなた有名人だもの。」
やっぱり悪目立ちしすぎちゃったかな、俺。
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