第50話

「固まるな!散開しろ!奴らは密集したところを狙って来るぞ。」

「遠巻きに囲んで矢を射掛けろ。」

「手強い魔獣は少ない。分散させて槍で止めをさせ。」

 部下に命令を下すと、すぐさま伝令を飛ばす。


 儂は帝国派遣軍司令官シーグラム将軍だ。今回リンキ攻めの指揮を執っている。

明け方、右手の森がから魔獣の集団が右翼軍に突っ込んできた。あの程度の魔獣なら大したことは無いが、その後ろから撃ち込んで来る水魔法が厄介だ。リンキの街にあんな強力な魔法使いが居ると言う情報は聞いてないぞ。諜報部めヘマをしやがって。


 わが軍の切り札さえ使えれば、もっと早く決着がついたものを。仕方が無いので刈り入れの時期を狙って来てみれば、殆ど刈り入れは終わっているじゃないか。そして奴らは城塞で籠城する作戦に出やがった。食料は現地で補給する予定だったから尚更諜報部に腹が立つ。


 籠城するからには応援を呼んでいるはずだ。その時間稼ぎのためか、少人数で破壊工作を仕掛けて来た。儂の作戦を悉く潰してくるとは。ビーム辺境伯、なんていやらしい奴だ。


*****


 魔獣と共に中央の部隊へ雪崩れ込むと、帝国兵は密集陣形を取らず散開して包囲する作戦に切り替えた様だ。俺の作戦は、密集している所に突っ込んでミュエーの機動力で突破するものだ。こっちの弱点を着いて来たな。


「ジロー、矢が飛んで来るから気を付けて。」

「分かった。アンちゃんもね。」


 魔獣たちにも矢を射掛けられ、集団が崩れて行く。そして1匹、2匹と斃されて行く。俺は弓兵を狙って水魔法を撃つが、散開されると効果が少ない。それでも魔獣たちが全滅するまでには弓兵が殆ど居なくなるくらいまで減らす事が出来た。しかし、俺たち二人の盾であり、鉾でもあった魔獣たちが討たれた事は痛い。

「アンちゃん、撤退だ。なるべく敵陣の薄い所を選んで突破しよう。」


 ここで帝国軍が密集して押しつぶして来たら、二人しか居ない俺たちは一溜りもなかったろう。しかし帝国軍は陣形を組まず、少人数ずつ向かって来る。集団になると俺の水魔法の餌食になると恐れたのだろう。


 相手もミュエーに乗った騎士だ。アンちゃんはすれ違いざまに剣を交わして、いなしたり、切り伏せたりしている。俺はアンちゃんのすぐ後ろにぴったり付けてついて行く。自慢じゃないが、俺は肉弾戦なら誰にも勝てない自信があるぞ。


 でもこのままではジリ貧だ。何とかしなきゃと考えていた時、リンキの方から何かが飛んで来た。飛竜?ワイバーン?きっとテンプレの竜騎兵だよね。


 3騎の竜騎兵がやって来て、何か樽の様なものを落として行った。樽が地面に衝突すると、辺り一面火の海となった。前世現代で言う所の焼夷弾の様なものだろう。とすると、竜騎兵は爆撃機か?また下らない事が頭を掠めるが、これはチャンスだ。


「アンちゃん、あっちの方へ逃げよう。」


 俺たちはリンキの街へ逃げ込む事に成功した。途中でアレスピリタスをお見舞いして火に油、ではなくアルコールを注いでやった。

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