第37話

 なるべく音を立てない様に森の中を進む二人。周りを警戒しながらも急ぎ足で目的地へ向かう。


 途中、俺たちは3人組の見回り兵と遭遇していた。運よくこちらが先に発見したので、アンちゃんと小声で打ち合わせる。


「どうする?」

「さっきの麻痺草の実を使おう。当たれば麻痺させられる。」

 幸い奴らは鉄鎧を脱いでいるし。常時重い鎧を身に着けていられないよね。

「じゃあ、一人だけお願い。後の二人は私がやるわ。」

アンちゃんと二手に分かれて行動開始だ。


 まずアンちゃんが跳び出して、一人目の喉を突きさす。それを見て笛を吹こうとしていたヤツの襟もと目掛けて麻痺の実を投げつけると、そいつは昏倒して倒れた。その間にアンちゃんはもう一人も斃していた。さすがアンちゃんの早業。喉一突きなんて即死だよ。


 麻痺して倒れている奴の手足を縛ってから、毒気し薬(毒消し草を焼酎に漬け込んだもの)を飲ませる。少しすると話が出来る位に回復した。


「ここからは私がやるわ。ジローは・・・少し離れていて。見ていても楽しくないから。」

 きっと拷問するのだろう。対人戦のプロならその方法を知っていても不思議じゃないし。


 暫く聞きたくない音がしていたが静かになった。そしてアンちゃんが戻って来た。アンちゃんは暗い顔をして俯いている。


「どこで調理しているのか、場所がわかったわ。」

「お手柄だね、アンナ。ありがとう。」

「ねえ。こんな、私みたいな、拷問する女なんて嫌でしょう?」

 アンちゃんは俺が拷問している音や声を聴いてしまったのを気にしているらしい。


「そんな事はないよ。戦争なんだから仕方ないし。そうじゃなくたって、アンナが居なかったらここまで生きて来れなかったよ、俺は。」

少しは慰められただろうか。元気出してよアンちゃん。嫌いになったりしないよ。


 炊き出し場所は森の木々が途切れるところに設営されていた。薪と水は山から調達しているのだろう。直径5mくらいはありそうな大鍋が火にかけられていた。


「いい匂いがする。美味しそう。」

 お腹が空いたのかい、アンちゃん。段々いつもの調子が戻って来たみたいで、おっさんは嬉しいよ。


「さて、どういう嫌がらせをしてやろうか。」

 さっきの麻痺の実を袋ごと鍋にぶち込んでやる事にしました。実行犯はアンちゃん。理由はおっさんより体力と俊敏性があるから。


 それに袋ごと持って行けばアンちゃんがマヒする事も無いし、鍋で煮込まれてしまえば麻痺毒が抽出されて食べられなくなるって寸法さ。


「何者だ!」

 茂みから跳び出したアンちゃんは警備兵に見つかったけどもう遅い。麻痺の実の入った袋は見事鍋の中に放り込まれた。


 作戦成功。後は山へ逃げ込むだけだ。 

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