第33話

 ウェーバ帝国の狙いの一つは、収穫前の畑を荒らしてこの街を食糧難に陥れる事だろう。だがウィンドカッターにかかれば刈り取りは一瞬。後は城門内に運び込むだけである。干すだの脱穀だのは後でゆっくりやれば良いのだ。


「最初に行った渓谷で見せた貰った魔法よね。いつ見てもすごい威力ね。」

アンちゃんが褒めてくれた。嬉しい。


「あたしは運び入れるのを手伝って来る。」

そういって農民たちの方へ走って行った。おっさんとしては側にいてくれた方がやる気出るのに。


 そういった訳で、自動刈り取り機は大人気となり、朝から晩までこき使われた。おかげで帝国がやって来る前に殆どの畑の収穫を終える事が出来た。やれやれ。


 依頼仕事は上手く行った。いや、思った以上の出来だった。それは喜ばしい事なのだが、依頼主はこの街の領主ビーム辺境伯だったのが良くなかった。悪目立ちしちゃったみたい。便利な奴がいるとチクった奴がいるらしい。誰だか知らんが、オマエも頭の毛を刈ってやるぞ。丸坊主だ。


 冒険者組合から呼び出しがあったので何事かと行って見ると、


「今回の働き、誠に素晴らしいものである。よって褒美を与える。」


との事らしい。行きたくないよ、アンちゃん。と思ってアンちゃんの方を見ると目がらんらんと光っていた。そう言えばこの子、修行の旅の途中だった。


「名誉な事です。行きましょう。」


 俺はアンちゃんに押し切られて、引きずられる様に領主の館へ向かった。テンプレだとお貴族様と係ると碌なことにならないんだよ。


 謁見の間で控えていると、暫くして領主様御一同がお見えになった。何かお疲れのご様子。家令と思しき人が声をかけて来た。


「此度のその方たちの働きは見事である。よって依頼料とは別に一人金貨3枚を下賜する。」

「もったいなきお言葉。謹んで頂戴します。」


アンちゃんが代わりに答えてくれた。こういうの慣れてるのかな、この子。

 その時、領主様から突然お声が掛かった。


「そちらの魔法使いに問いたい。直答を許す。」


 え、俺かい?


「どの様な事でございましょうか。」

「あの麦を刈った魔法を戦で使えばどの様になる。相手を易々と蹂躙できるのではないか?」

 やっぱりあれ麦なんか。異世界だから収穫の時期が違うのかな。知らんけど。


「残念ながらあの魔法は草を刈る魔法でございます。聞くところによれば、帝国の兵士は金属の鎧を身に着けているとか。一人二人を傷つけるのが精いっぱいと思います。」

「そうか。」


 硬い岩を切り裂く様な威力はアンちゃんしか見てないからね。草刈り機から人刈り機にバージョンアップするのは嫌だよ。


 領主様の様子を伺うに、戦況は宜しくないのだろうか。




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る