1話 久しぶり
「どうなんだ、大学は?」
「やることたくさんだけど楽しいよ」
喫茶店にいてゆっくりと寛いでいる。
目の前にいる俺の彼女は笑顔がとても素敵である。
月に1回の彼女とのデート中だ。
「実習はどうだった?」
「てんやわんやだよ」
互いの近況を報告し合う。
アイスコーヒーを一口飲む。
向かいの彼女はミルクティーを飲む。
同じタイミング、なんか良いなと思った。
「子ども、可愛いでしょ?」
「まあな、人懐っこいとこがな」
「そうなんだ」
俺、
幼稚園での実習は大変だが、楽しく子どもから学んだ。
ピアノは1年生の時に猛特訓の末、なんとか弾けるようにはなった。
「やること覚えることはあるからさ」
「お互いに頑張ろうね」
「ああ」
俺にとって彼女は心の支えだから、本当に感謝している。
短大を卒業後、就職してから、ある程度安定が見込めたらー…と先を考えている。
まだ言わないが、あまり待たせないようにはしたい。
「雅」
「なに、雅虎君?」
彼女の名前を呼ぶことに苦労していた頃が懐かしい。
スマートに呼べているのだから感慨深い。
「つばめさんは相変わらず?」
「まあね」
つばめさんこと、
同じ大学に通っている。
雅は苦笑しつつ、頬を人差し指でポリポリとかく。
「相変わらずだけどー…」
「けど?」
目を輝かせて雅はこう言った。
「作家として、土俵に立てるって言ってた」
「それって、つまり…」
「デビューだって!」
ついにきたか。これは朗報だ。
「献本、必ず渡すからーって張り切ってた」
「そうか」
夢が叶うなんてな。
良かった良かった。
「のんちゃんから何か聞いてない?」
「
挑夢こと、
ずっとパソコンとにらめっことはいえ、それが嬉しいと言っていた。
「つばめと今度2人で旅行に行くんだって」
「へぇー」
そんなこと聞いてないし。
自分からべらべら言わないが、事後報告は必ずしてくるからいいのだが。
「どこに行くんだ?」
「静かな所って言ってた。あんまり詳しく聞けなかったよ」
「ふぅーん」
静かな所ね。羨ましい限りだ。
「ねえねえ」
「ん?」
雅は言いにくそうに、でも、言いたげな雰囲気を漂わせている。
俯いたり、俺と目を合わせたりを数回繰り返した後。
勇気を振り絞って雅は言った。
「私たちも…どっか行こ?」
「えっ」
私たちも…どっか行こ?
2人が旅行に行くことに羨ましいと思ったのか。
いや待て。違うんじゃないのか。
俺と一緒に行きたい、と言いたかったのだろうから、やんわりぼかして、でも本質をきちんと伝えるために…なるほど。
「ちょっと待て」
「は、はい」
テーブルに置いていたスマホのスケジュールを確認した。
今は夏休み。
で、特に急ぎの予定はないし、バイトの休みはー…あっ。
「ここどうだ?」
「あ、良いね!」
バイトのシフトを雅に見せて、ある箇所を指差した。
たまたまあった3連休である。
「私もそこなら大丈夫!」
雅もスマホのスケジュールを俺に見せてきた。
よし、と俺は決断した。
「行こうか、旅行」
「うん!行こう!」
嬉しそうな顔の雅を見て、俺も嬉しくなる。
「詳しくはまた後で決めよう」
「うん!」
彼女の行きたい所に行くことにしよう。
何かプレゼントを出来れば良いなと考えるのだった。
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