エピローグ 2

 ブランコに乗りたくて乗ると、空いてる隣に雅虎まさとら君もブランコに乗った。

 こいでると、キィ…キィ…と音が鳴った。

「この公園が、私と雅虎君の距離を縮めた場所だね」

「あぁ、覚えてるよ」

 忘れてなかった。嬉しいなぁ。

 もし忘れていたら、平手打ちしようかと思っていたのは内緒。

 まだ彼のことを名字で呼んでいた。

 その後は、勇気を出して名前で呼んだ。

 ドキドキしたけど、受け入れてくれたから安心したのを覚えてる。


 今日は、この公園で会う約束をして、こうして2人でいる。

 誰もいなくて良かった。

 貸し切りみたいで特別な感じがする。

「4月から、どうしよっか?」

 いつでも会える日はもうない。

 約束しないと、会えなくなるから。

「月1で会えるなら、そうしたいけど」

「そうだね、月1なら!」

 ちゃんと約束して、もちろんダメな時は仕方がないけど。

「楽しみだなぁ~♪」

 楽しみを考えるだけで、嬉しくなる。

 こぐスピードも早くなる。

「これからも、よろしくね!」

「こちらこそ」

 ブランコで遊んでいると、頬が一瞬冷たさを感じた。

「あれ?」

 見上げると。

「あっ、雪!」

「雪?」

 季節外れの雪がゆっくりと降っていた。

 太陽に照らされた雪が、キラキラと輝いている。

「綺麗…」

 感嘆が溢れる。

 こんなシチュエーション、なかなかない。

 この天気に感謝し、背中を押されたと勝手に思って。

 私はブランコをこぐのを止めて、雅虎君の方を向いて「雅虎君」と呼んだ。

 すると彼も私の方を向いた。

 あっ…見詰め合ってしまった…。

 だんだん恥ずかしくなって、2人して逸らした。

「呼んだのに、なんかごめん」

 顔、赤いよね。分かる、熱いもん。

「いや、いいよ」

 雅虎君、困らせた!ごめんなさい。

 心を落ち着かせて。

「雅虎君、今度こそ!」

「おっおぉ…」

 私はブランコから降りて、雅虎君の前に立った。

 深呼吸をしてから、言った。


「雅虎君のことが、好きです」


 やっと…言えた。

 言いたかった。

 分かっていたけど、言いたかったから。

 すると、雅虎君もブランコから降りて、私と向き合った。

 大きいなぁ…なんて、見上げて彼を見ていると。


「俺もー…」


 ドキドキ、ドキドキ…


「俺ものことが、好きです」


 呼吸が止まりそうになるくらいに驚いた。

 私の名前…名前を…。

 自然と涙が流れてきた。


「やっと…やっと…名前、呼んでくれた…」


 長かった…長過ぎ。

 待ちくたびれたよ。


「待たせたな」

「一生、呼んでもらえないって思ってた」

 不意討ち、禁止なんだから。でも…。

「嬉しい…嬉しいよ!」

「おっと!?」

 私は彼に抱き着いた。

 思い切りぎゅってしたら、ぎゅって応えてくれた。

「ね?また呼んで?」

「雅」

 嬉しい。

「んー、もう1回!」

「雅」

 幸せ。

「あと1回!」

 おねだりすると。

「いつでも呼ぶから」

「えー!そんなぁ!」

 言い過ぎたかな、ごめんなさい。


 雅虎君と同じクラスになった去年。

 1学期は誰とも関わらないを貫くために、1人で過ごしていた。

 でも、2学期からは、そうはいかなくなった。

 席替えで彼と隣同士になったあの日から変化していった。

 何度も何度も話しかけてくるし、朝の時間帯で私に合わせて来るし、本当に嫌だった最初の頃。

 教科書を忘れた時には、わざとでしょ!って疑った。

 でも、関わってくうちに、悪い人ではないことが分かったら、だんだん警戒心がなくなって。

 階段を踏み外した時には助けてくれて、その時に彼の顔をちゃんと見て、ドキッとした。

 あの時は踏み外した驚きと助けてくれた驚きでドキドキしたんだと思っていたけど、日に日に違うと分かってはいた。

 でも、蓋をしたかったから、重石をして…。

 それでも、やっぱりズレてー…。

 しびれを切らして突き放した。

 突き放したのにー…。

 ここに彼は現れた。

 それで、ようやく心が通った。

 それからは、いろんなことがあったけど、その中で友達が増えて、初めて先輩後輩にも恵まれて、楽しくて幸せだった。

 これからも、彼とずっと、一緒にいれると良いな…。

 密かに、願ってー…。

「さて、帰ろうか」

 時間が来てしまったようだ。

「うん、帰ろう」

 雅虎君は私の頭を撫でてから、身体を離した。

 もう少しだけこのまま…ってわがまま言いたかったけど、また今度。

 淋しい気持ちは一瞬。

 手を繋いでくれた。

 嬉しくて、きゅっと握った。

 そうしたら、きゅって握ってくれた。

 私のペースに合わせて歩き出す。

 2人で公園を後にした。

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